sweet!!

仔犬

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territory!!

4

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「じゃあ唯斗くんたちは偶然ネロとぶつかって追いかけ回されてたの?しかもそれを助けられて……やだー!すごい偶然ね、運命的!」


きゃー!と可愛い悲鳴をあげるサクラ姉さん。
さっきまで氷怜先輩が座っていた椅子で長い脚を組み、おれがまずいと言ったシャンパンを美味しそうに飲んでいた。うーん、大人だ。

今度はおれがその椅子に近い方に座りその次に秋と優だ。

サクラ姉さんはひとしきりおれたちの事情を聞くと楽しそうな笑みで顎に手を当てた。シンプルなジェルネイルが綺麗な指を飾っている。


「でも君たち好かれたのね、ここに呼ばれるなんて」

「あー、でもおれ肩怪我しちゃって、もう病院もやってない時間だったからここに……」

肩に手を当てたおれにサクラ姉さんが一瞬顔をしかめた。

「あ、やられたわけでなく自分で突撃しちゃって。でもそんなに酷くないです!」

「そう……?早く治ればいいわね」

おれの言葉に少し安心したようだが悲しげだ。言うべきではなかったのだろうか。

でも続いて出てきた言葉は少し楽しげだった。

「たぶんここに最初から連れてこようと思ってたんじゃないかしら」

「え?」

「だってしゅんくんがいたならその場で見て判断出来たと思うのよね。たぶんタイミング図ってたのよ。あ、氷怜くんじゃなくて舜くんね。彼ほーんとによく見てるから」

噂好きな女子高生みたいな顔でサクラ姉さんが笑った。秋も優も少し驚いている。

「な、なぜ?」

「うーん、何故だろう?でもあれはかなーりの悪ガキよ」

「ふっ……」


優が1番に笑い出した。いや、頑張って抑えてるけど肩まで震えてる。優ったら赤羽さんのこと悪ガキってもしかして思ってたの?

あの人たちに悪ガキと言えるのはこの人くらいではないのか。


「サクラ姉さん……一体何者なんですか」

「私?そうねぇ、後で知ると思うし今はナイショ!」

「えー!」

おやつを取り上げられた子供のようにおれたちの声が被った。その様子に彼女は笑うとちらりと腕の時計を見た。本日2度めの車が買える時計だ。

「あの子達遅くない?こんな可愛い子達ほっとくなんて」

「まだ、30分もたってないんで!……でもこんな綺麗なサクラ姉さんと話せて光栄です」


何故かきょとんとしたサクラ姉さんはおれに向いていた視線がゆっくりと秋と優に移る。立ち上がるとわざわざ移動して2人とこそこそ話を始めた。
ええ、おれも入れて。

「ねぇ、2人とも、唯斗くんっていつもこうなの……?」

「出会った時からです」

「女の人相手だとフェミニストスイッチ入るんですよ」

何を話してるのか聞こえないが3人がこちらを見たので手を振ってみる。サクラ姉さんだけが返してくれた。

2人は見えてないかのようにスルーだ。なんてひどい。
それどころか楽しそうに目を合わせて秋と優は背もたれに肘をかけてサクラ姉さんがいる後ろを向く。今度は聞こえる声で2人がハモった。


「でもサクラ姉さんが美人なのはどう考えても事実ですね」

良い笑顔の2人にサクラ姉さんが少しだけ引き攣った。

「…………君たちは唯斗くんに感化されたのね」

「ねぇー!おれも入れてーーーー!」


3人の間にズバーと入れば優に邪魔だと引っ張られながらもソファに一緒に座り込む。おれの頭に顔を乗せた優に捕まりながらも問いかける。

「なになに、なんの話?」

「唯がやばい話」

「またそうやっておれだけ……」

心の木枯らし吹き荒れる。
伸びた足の向こうに秋の足があったので痛くない程度の力でつついてやった。
その光景をソファの背もたれに頬杖をついてサクラ姉さんが興味深そうに見ていた。どんなポーズでも、少し下から見上げても彼女は綺麗だ。


「君達面白いなぁ……うちで働かない?」

「ん?バイトですか?」

「うーん、それもおいおい?」


どこまでもヒミツで通す気らしい。
お茶目な彼女を嬉しいそうに小さめなスキップで元の椅子に戻った。

「でも本当に遅いわ……しょうがない、連絡すれば良いわね。それにわたしこの後デートなのよね」

「え、デートですか!良いっすね!」

秋の反応にウィンクを返したサクラ姉さん。
こんな魅力的な人の彼氏さん、絶対かっこいいだろうなぁ。

「どんな人なんですか?相手の方」

「うーん、私より歳上で、優しいホワホワって感じの人……ああ、でも彼の好みに今のカッコ合わないから着替えようと思っていて……」

たしかに彼女の今の格好はどちらかと言えばクラブ向きの格好かも知れない。丈の短いワンピースはサクラ姉さんの綺麗な脚を引き立てるがいささか扇情的だ。

「服持ってきてるんですか?」

「ええ、ここで着替えてもいい?」

「どうぞ!後ろ向いてます」

3人で見猿ポーズでソファの背もたれに埋もれると、するりと衣服の擦れる音がした。すぐにもう大丈夫よと返事がくる。

振り返れば黒のドレスに着替えたサクラ姉さんがいた。ノースリーブのシンプルなドレスだが背中が大きく空いていて、その分膝が隠れるマーメイドの形だ。ノースリーブには控えめなフリルが付いていて華奢な肩がさらに魅力的に見える。


「ううん、女性のお着替えほど尊いものは無いよね……」

「超綺麗です!」

「うふ、ありがとう。ホテルでディナーだから靴はこれで良いかな……あとは髪の毛とメイクと……」


ここまできたらおれの衝動が収まるわけがない。腕を勢いよくあげる。

「はい!ヘアメイクやらせてください!」


流石の立候補にサクラ姉さんも驚きだ。きょんとした顔も最高にキュート。

秋と優が知ってましたという顔して、やれやれと言いながらもおれのバックを持ってきてくれた。共犯者のような顔で秋がサクラ姉さんに告げる。

「結構、良い腕してますよ」

親友の推薦により笑顔で了承を頂いた。





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