sweet!!

仔犬

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territory!

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「ああ、いたいた」


砂利の音が上から響き、その足音に顔を向けた。日が暮れて光の乏しい今は顔が見えない。

「来たか赤羽」

「皆さん誰も返事してくれないんですから……向こうの通りに車留めてありますよ」


獅之宮先輩が声をかけたその人はゆっくりと芝生に降りてきた。徐々に見えるその顔に見覚えがある。黒髪短髪に輝く白い歯。

「コンビニのお兄さん!?」

「あれ、君たち偶然だね」


なんていつ見てもさわやかな笑顔だろうか。寒さなんて関係なくいつでも春のような笑顔だ。コンビニの制服から見慣れた制服姿になっている。

芝生をはたきながら豹原先輩が不思議そうに声をかけた。

「なになに、赤羽っちと知り合いー?」

「え、あの、家の近くのコンビニで今日会って………」

「そうそう。覚えててくれたんですね嬉しいな」


この人の敬語になぜかムズムズしてしまい、思わず秋と優を見る。2人ともおれと同じような心境の顔をしていた。


赤羽舜あかばねしゅんです。よろしくね」

華麗なウィンクをかましてくれた。
ハッとしてすぐに続いて自己紹介をしようと口を開くも、にっこり笑顔で止められた。

「自己紹介は大丈夫ですよ。同じ高校だし、こんなに面白い子達とは知りませんでしたが」

「え?」

訳がわからないおれたちに獅之宮先輩が助太刀してくれた。何故か赤羽さんを警戒しているように見えるのは気のせいではない。

「……そいつは俺たちのチームの情報屋担当だから大抵のことは頭に入ってんだよ。記憶力も行動範囲も化け物並だからな」

「やだなーそんなに褒められたら照れちゃいますよ」

「ていうかコンビニ?お前が?」

「ネロがよく来るって言ってたんで少しだけ。でもコンビニは今日でやめちゃいました」

「……情報が揃ったわけか?」


天音舵先輩の意味を含んだ目が赤羽さんを見つめる。それを変わらぬ笑顔で返していた。

「で、倒しちゃったネロは逃したんですか?」

「ああ、物凄い形相で睨んで帰っていったよ」

「あ、本当だ居ない……」

「2人が先に眠ってすぐだったから」


秋が忘れてたと言わんばかりの顔で遠くの芝生を見つめた。そこにはもう芝生と石ころ以外何もない。



「まあ、順番は狂ったけどいいんじゃないかな」

「準備はほとんど揃っていますから」


もうちょっと万全にしたかったのですが、と少しばかしの不満を漏らす赤羽さん。それでもどこか楽しげに見えたので殆ど問題はない、という顔だ。


「コンビニやめちゃったんですか」

「そうですよ、ああでも店長と信仰を深めたので何かあればまた働いているかもしれません」

おれの言葉におどけてみせた赤羽さんは少ししゃがんでよろしくねと、おれ達に握手を求めた。少し唐突で驚いたものの、すぐに反応しておれは手を出そうとした。その時、嫌な痛みが走る。そういえば肩をぶつけていたことを思い出した。

「唯斗?」

鈍い動きを見ていたのか獅之宮先輩が不思議にそうに問いかける。

「あ、大丈夫です!」

すぐに逆の手を出して赤羽さんと握手をした。さっきまではなんともなかったが後になってくるタイプの怪我だったのかも。そう思っていた時に赤羽さんが小さく呟いた。他の人に聞こえたかどうかはわからない。


「……やっぱり、気に入られたみたいだ」

目線はおれではなく先輩達に向けられていた。
先輩達はどんな顔をしていたのだろう。おれの視線に気付いた混じり気のない黒の目。その目は心の奥を覗いていた。これだけで情報屋さんを開く理由が何となくわかる。全部が全部興味の対象だと言わんばかりだ。

「……えっと、赤羽さんで大丈夫ですか?」

「ん?呼び方?なんでも大丈夫ですよ」

「敬語いらないです」

「これは癖なんですよねぇ……」


手を繋いだまま困ったと眉を下げる。秋と優も次々と手をつなぐもやはり敬語だった。何故自分でもこんなに敬語が気になるのか分らない。何故だろう。


「いつも敬語だから、気にすんな」

「赤羽さん先輩と同じ学年ですよね?」

「ああ、実力共に信頼してるけどな。ちょっと癖があんだよ」

「赤羽っちはねぇ。腹黒なの」

「え?」


豹原先輩がおれと獅之宮先輩の間に入るとわざとらしく綺麗に揃えた手で口を隠していた。横から見えた顔は悪戯っ子だ。
赤羽さんはそれにも軽快に笑ってみせた。

「ええ、この忠誠は本物ですよ。それに腹が黒くないなんて俺は言ったことありません」

「そういうとこだよ……」


天音蛇先輩の呆れた声に赤羽さんのキャラを把握した。うん、この人はたぶん頭が良過ぎて面白い人だ。


「さて身体が冷えますよ、車に行きましょう」

「そうだな。お前ら家まで送る」

「え、ここそんな遠くないんで大丈夫ですよ」

「危ないから、ね?」


天音蛇先輩の言葉にもう頷くしかなかった。
行くよ~と掛け声はのんびりなのに、秋と優とおれをまとめてぐいぐい押していく豹原先輩。
しかしこの人数乗れるのだろうか。

そんな心配おれがする事が間違っていたのかもしれない。


「でっか!!……しっろ!!!」


叫びが反響して返ってきそうなほど、ぴかぴかに光った真っ白な車。明らかに一般車ではない。


「お迎えようなんで急な時には使い勝手が悪いですが」


さあどうぞと、流れるようにドアを開けてくれる赤羽さんはまるで執事のようだった。
使い勝手が悪いなんて言ってはあまりにも豪華すぎる車に流石のおれでも開いた口から独り言は出せない。

何者なんだろう、本当に。

秋がそわそわしながらそれでも席に着く。どこもかしこも新品で嗅ぎ慣れない車の匂いがした。甘すぎない香水のような香りだ。

「お、落ち着かない……」

「一生乗る事ないと思ってたよこんな車」

優も居心地が悪そうだ。
しかし座ってみるとどうだろう、固すぎず柔らかすぎず体にフィットした絶妙な座り心地。

「あ、寝れそう……」

「唯はそういうところが本当に……」


なんだい、最後まで言ったらいいのに。
おれたちのやり取りに先輩達が笑う。今日一日で思ったことはこの人達本当によく笑うのだ。こっちが嬉しくなるくらい笑ってくれるので調子に乗りそう。あんなに遠かった人たちが今では同じ車に乗っている。






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