sweet!!

仔犬

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escape!!

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「あー暮刃ちん~」

豹原先輩の視線の先を辿る。
暮刃って……まさか、ああ、実物だ。天音蛇先輩だ。歩道からゆっくり降りてくる姿は夕日に照らされ王子さながら。豹原先輩とはまた違った格好良さ。品良く高貴で、なにを食べたらあんな人が育つのか。


「瑠衣電話出ろよ」

「そこで日向ぼっこしてたら寝てたよねぇ」

「あの子は?」

「んー?面白かったからついでに助けたの」


視線がこちらに集まったので、天音蛇先輩に頭を下げて自己紹介をする。ああ、疲れすぎて超有名人と話していると言うのに大きく感動できなくて申し訳ない。

「す、すみません。走りすぎて足ガクガクなうえに脱力で先輩達に狂喜乱舞出来なくて……」

「え?」

「面白いっしょ?」

唯のせいで会話がいつもコントのようになってしまうのは仕方がない、今は他に何も出来ないし。でも豹原先輩のツボにはまっているのだろう。彼はケラケラ笑いながら嬉しそうに言う。

「くれちん、ネロの3番潰しちゃった」

「…………はあ」


さっきの赤髪不良を指差して、てへっとおちゃらける豹原先輩に天音蛇先輩が呆れたと頭を抱えた。

ネロって、チームの名前だろうか。そしたら後の2人もそのネロの人間なのか。

「あ、あの、さっきの赤髪の人のほかに金髪とオレンジの髪の人がいてもしかしてそいつらも……?」

俺の投げかけにもちゃんと反応を示してくれる先輩達が不良やらギャングやらと恐れられているとは感じられなかった。何だかむしろ話しやすそうだし、同じゆるささえも感じてしまう。それでもおれとは違う大人びた微笑みで頷いた暮刃先輩。

「ああ、そうだと思うよ。いつもつるんでるって聞くし、髪の特徴も合ってる」

「まじですか……あんなアホそうなのに!て言うかまじか、だったら尚更助けに行かないと……!」

「アホって言った!あははその通りーー!!」


また豹原先輩は爆笑して転げ始めた。この人ツボが浅いのか?あまりの笑い声に天音蛇先輩が豹原先輩の頭を叩く。河川にパシン、といい音がひびいた。

「瑠衣うるさい。ねぇ……助けるって?」

「俺らも3人でいてその人達に因縁つけられたんで逃げてたんすよ……んん、連絡ないしどうしたら」

苦悩する俺の隣で暮刃ひどい痛ーい!と叫んでいた豹原先輩が突然静かになった。何かを見つけたように遠くを見つめる。

「んーなんか来る」

「え?」

思わず振り向くと先輩が指をさしていた。

「あれはトモダチ?」

夕陽の中から誰かがかけてくる。見覚えのある制服に白のカーディガン。細身の体に黒髪。

「優!」


さっきまでのガクガクの足でなんとか走り出していた。芝生を一気に駆け抜けて道に出る。自分と同じように親友が全力で走っているのだから俺が走らないわけにはいかない。

優の後ろに見えるオレンジの髪。何でどいつもこいつもしつこいんだ。明らかに限界を迎えていた優を隠すように抱きとめた。地面に優が倒れたので覆いかぶさるように。殴るなら俺でいいだろ。

「さっきのやつじゃん!仲良くヤられろ!」

鈍い痛みが背中に走った。拳、いや足だろうか。範囲が大きい気がする。すでにボロボロの呼吸がむせ返る。

優がヒューっと苦しそうな呼吸の中でごめんと呟いた。

「あき、大丈夫だから、どいて」

「いや~、むり、だろ」

このままやり過ごせるならそれで良い。どうせ疲れて何も出来ないし。また振りかざすような影が夕陽により出来る、身体に力を入れた。



「ちょっと、気に食わない」


ガンッと鈍い音の後に何かが転がる音がした。すぐに顔を上げるとオレンジ頭が芝生に転がっている。ころげ落ちたであろう場所に天音蛇先輩が立っていた。いつもの優雅な雰囲気から一転して、掃き溜めでも見るような目で転がる相手を見ている。



「ゲホッ……え、あれ、まさか天音舵先輩?」

俺の腕の中で項垂れていた優が少しだけ顔を上げた。まさかの登場に流石の優も驚いている。

「ちなみに俺は豹原先輩に助けてもらったよ」

「なにそれ、そんなラッキーって…………」

優はもう顔から血の気が引いて血色が悪い。でも呆れ返る元気はあるみたい。


「2人とも生きてる?」

天音蛇先輩はいつものイメージ通り優雅な表情に戻っている。にっこり笑って優しい笑顔で移動出来る?と聞いてきた。

「立てるかな……ごめん秋、俺支えられる?」

「道のど真ん中だしな、俺も今優持てっかな……よいしょ……っとと!」

案の定よろけた俺をいつのまにか豹原先輩が支えている。いたずらに笑う豹原先輩につられて俺も笑った。

優も天音蛇先輩に支えられ…………るどころか流れるようにお姫様抱っこされていた。なんて紳士過ぎる対応だろうか。やはり王子か貴公子か。

俺もトボトボ優の横につきながら後を追っていく。優はもう何の抵抗もできないほど疲れ切って手も足もだらんとした状態でゆっくり芝生に降ろされた。

「水飲む?さっき買ったから開けてないよ」

「ありがとう、ございます…………さっきのオレンジの人も」

「どういたしまして」

にっこり。眩しい、花まで飛んで見える。赤いバラが似合いそうな高貴な雰囲気に俺は横にいて良いのか悩んでしまうほど。
優はペットボトルに口をつけたまま、まだ酸素が頭に戻っておらずぼんやりしている。俺は優が疲れすぎて少し理性が外れていることに気づいてあげられなかった。
険しい表情に変わった優は嫌そうに呟いた。

「うわ、本当に美形ですね」

優は疲れると投げやりな物言いになる上に眉間にしわを寄せるのだ。でも本人は気づいていないことが多く、綺麗なものをみて綺麗と思っていても疲れているとどうしてもそんな顔になってしまうらしい。
それでたまに揉めているところを見たことがあるけど本人にはその感覚がないし、本当に疲れているだけなのだ。

「なんでそんな嫌そうな顔で言うの……?」

「暮ちん……嫌がられてんの?!アハハ!」

「あーもう優!ほらいつもみたいに眉間にしわ寄ってんぞ!初対面のしかも先輩にそれするな。ちゃんと美形だって思ってんならせめて真顔にしろよ」

俺が眉間にびしっと人差し指を突き刺すと、優はしまったと言う顔して先輩に誤った。


「すみません、本当に綺麗だと思ってるのでご安心を……」

今度は表情に気をつけながら頑張って伝えている。俺はドキドキしながら天音蛇先輩の顔を覗いた。これで怒ってしまっていたら一緒に頭を下げる。でもそれは杞憂に終わった。

「……そう」

くすりとだけ笑って天音蛇先輩は流してくれた。俺には絶対出来ない笑い方は優しくて大人で魅力的だ。たった2つ上の学年なのにどうしてこうも違うのだろう。

「あーお腹痛い、類は友を呼んでみんな面白いネ~」

「お前はツボが浅過ぎ」


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