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エピローグ
03
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王都に戻っても、封印の儀式が終わったと発表はされなかった。僕たちが卒業して、しばらくしてからになるそうだ。十年も早いと不安に思う人がいるのではないかと国王陛下の配慮だった。儀式なのだから早まることの理由がない。
陛下の他、出発を見送ってくれた貴族の方々や父上に迎えられて謁見の間に五人が揃い、労をねぎらわれた。
封印の詳細は明かしてはならないことになっている。それは親兄弟でも同じ。何代も続いてきた決めごとは今回も守られた。何も話せることがないので、これは陛下の都合なのだ。嘘も言えないから僕たちにとってはありがたいけれど、必要以上にお礼を言われるとこそばゆい。
アルシャントと遊んでいただけの日々だった。そりゃ、精霊の森に残らなければ…と思って胸を抉られるような苦しみを味わったのは事実でも、結果、こうしてみんなで帰ってこられた。これほど、幸せなことはない。
一通り挨拶を済ませいつもの控え室に入るとアシュリーの父君と僕の父上が付いてきた。ここに父上が一緒に入ってくることは珍しい。
「どうしたんだ?」
アシュリーの父君がアシュリーに聞く。ああ、アシュリーが二人を呼んだのか。
「父上、アドラムさま、ジョナスたちも聞いて欲しい。ジュリアン…」
五人の前で僕の手を握る。
「あと一年と少しで卒業です。卒業と同時に俺はジュリアンと結婚します。その許しが欲しいんです」
真っ直ぐに父上たちを見て、深々と頭を下げる。僕もアシュリーに倣い、お願いしますと許しを乞う。
「アシュリー、ジュリアン、顔をあげなさい」
穏やかなリンメルさまの声にアシュリーの手をギュと握りしめゆっくり目を見た。
「反対はしないさ。しかし、早過ぎるのではないか?もう少し考えろ…とは言わないが、勇者の役目もあるぞ?卒業直後は忙しくなると思う」
「それだからなんです、父上。いくら考えても、ジュリアンと離れて暮らすなんて想像すらできない。だから、ジュリに言い寄る貴族たちが手出しできなくしたいんです。役目で、地方に行き、その土地の貴族が娘を夜伽にと言ってくるかもしれません。そんな危ない目に…」
「ア、アシュ!僕はそんなの断るよ?」
「食事に媚薬を仕込まれて、夜這いをかけられ既成事実…なんてのは最悪の状況だ。結婚していれば、その最悪は免れると思います。まあ、心配ではありますが、俺の伴侶なら、いくら馬鹿な貴族でも手は出さないでしょう。だから、お願いです!」
アシュリーの必死さが伝わったのか父上はわかったと言ってくれた。
僕は信用がないのだろうか?少し不満顔でアシュリーをジロリと睨めば慌ててる。
「ジュリアン?結婚はダメだった?あの時の返事は…俺の勘違い?」
オロオロと僕の機嫌をとるように両手を握り顔を覗き込む。
「もう尻に敷かれてるのか?だらしないぞ。ジュリアン、これからはわたしもそなたの父だ。いつでも遊びにおいで。イライザも喜ぶよ」
「おめでとう。わたしは、また一人息子が増えたんだな」
リンメルさまと父上の祝福の言葉にもアシュリーの落ち着きは取り戻せない。
『アシュリー…』
『な、何?ジュリアン』
『愛してる』
両手でアシュリーの手を包み、顔を見て気持ちを伝える。
『僕はそんなに信用がないの?』
『信頼してないんじゃなくて、心配なだけで…』
『僕もアシュリーの事、凄く心配』
『俺は…』
『ダメ!絶対に女の人になんかアシュリーを渡さない。指一本だってアシュリーは僕の!僕もアシュリーが心配なんだ。守られるのは嬉しいけど、ただ守られるだけは嫌。勇者だし、そんなに付け込まれたりしない。勇者じゃなくてもアシュリーとは対等がいい』
『じゃあ、結婚が嫌ってわけじゃないのか?』
『勿論、嫌なわけない。嬉しい。とっても嬉しい』
「「「おめでとう」」」
「なんだよ、俺より先に結婚か」
「まあ、遅かれ早かれそうなるのでしたら、先延ばしにする意味もないですしね」
「卒業するまでは言わない方が良いかな?クラスの奴らびっくりするだろうな」
陛下の他、出発を見送ってくれた貴族の方々や父上に迎えられて謁見の間に五人が揃い、労をねぎらわれた。
封印の詳細は明かしてはならないことになっている。それは親兄弟でも同じ。何代も続いてきた決めごとは今回も守られた。何も話せることがないので、これは陛下の都合なのだ。嘘も言えないから僕たちにとってはありがたいけれど、必要以上にお礼を言われるとこそばゆい。
アルシャントと遊んでいただけの日々だった。そりゃ、精霊の森に残らなければ…と思って胸を抉られるような苦しみを味わったのは事実でも、結果、こうしてみんなで帰ってこられた。これほど、幸せなことはない。
一通り挨拶を済ませいつもの控え室に入るとアシュリーの父君と僕の父上が付いてきた。ここに父上が一緒に入ってくることは珍しい。
「どうしたんだ?」
アシュリーの父君がアシュリーに聞く。ああ、アシュリーが二人を呼んだのか。
「父上、アドラムさま、ジョナスたちも聞いて欲しい。ジュリアン…」
五人の前で僕の手を握る。
「あと一年と少しで卒業です。卒業と同時に俺はジュリアンと結婚します。その許しが欲しいんです」
真っ直ぐに父上たちを見て、深々と頭を下げる。僕もアシュリーに倣い、お願いしますと許しを乞う。
「アシュリー、ジュリアン、顔をあげなさい」
穏やかなリンメルさまの声にアシュリーの手をギュと握りしめゆっくり目を見た。
「反対はしないさ。しかし、早過ぎるのではないか?もう少し考えろ…とは言わないが、勇者の役目もあるぞ?卒業直後は忙しくなると思う」
「それだからなんです、父上。いくら考えても、ジュリアンと離れて暮らすなんて想像すらできない。だから、ジュリに言い寄る貴族たちが手出しできなくしたいんです。役目で、地方に行き、その土地の貴族が娘を夜伽にと言ってくるかもしれません。そんな危ない目に…」
「ア、アシュ!僕はそんなの断るよ?」
「食事に媚薬を仕込まれて、夜這いをかけられ既成事実…なんてのは最悪の状況だ。結婚していれば、その最悪は免れると思います。まあ、心配ではありますが、俺の伴侶なら、いくら馬鹿な貴族でも手は出さないでしょう。だから、お願いです!」
アシュリーの必死さが伝わったのか父上はわかったと言ってくれた。
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「ジュリアン?結婚はダメだった?あの時の返事は…俺の勘違い?」
オロオロと僕の機嫌をとるように両手を握り顔を覗き込む。
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「おめでとう。わたしは、また一人息子が増えたんだな」
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『アシュリー…』
『な、何?ジュリアン』
『愛してる』
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『僕はそんなに信用がないの?』
『信頼してないんじゃなくて、心配なだけで…』
『僕もアシュリーの事、凄く心配』
『俺は…』
『ダメ!絶対に女の人になんかアシュリーを渡さない。指一本だってアシュリーは僕の!僕もアシュリーが心配なんだ。守られるのは嬉しいけど、ただ守られるだけは嫌。勇者だし、そんなに付け込まれたりしない。勇者じゃなくてもアシュリーとは対等がいい』
『じゃあ、結婚が嫌ってわけじゃないのか?』
『勿論、嫌なわけない。嬉しい。とっても嬉しい』
「「「おめでとう」」」
「なんだよ、俺より先に結婚か」
「まあ、遅かれ早かれそうなるのでしたら、先延ばしにする意味もないですしね」
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