天使のローブ

茉莉花 香乃

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第七章

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「アルシャントが王都に来ることはできないの?」
「それは無理だな」

アルシャントは哀しそうな顔をするだけで答えたのはギルバートだった。

「そうか、神だもんね」
「そうですね。存在自体がみなに与える影響がわかりません。それに、均衡が崩れれば最近の災害どころじゃない災いが起こると思われます」

静かな、しかし、はっきりとした口調でシルベスターが答える。

「じゃあさ、アルシャントが寂しいなって思った時に何かしら俺たちにわかるようにして、そして、返事をする」
「どうやって返事するの?」
「そうだな…声を届けるとか?」
「でも、ここは移転魔法は使えないんでしょ?じゃあ、手紙移転も無理だし、声も届かないんじゃない?それに、アルシャントの気持ちが僕たちに届くの?」
「どうなんだ、アルシャント?」

ダレルに聞かれて、アルシャントは恥ずかしそうに俯く。

「あのね、夢になら会いに行けるの」
「今までは?歴代の方々には会いに行ってたのか?」

フルフルと首を振り哀しそうな顔をする。

「こんな素直なアルシャントは初めて見たよ。だから、今まではなかっただろうな」

アルシャントは少し震えて、マクシミリアンの言葉に頷いた。

「会いに行ったけど…」
「会いに行ったの?」
「うん。でも、夢だと思ってたと思う。僕は夢だってわかってなかった」
「あ…あ~、そうだよな」
「僕も普通の夢だと思ってたもん。直ぐに忘れちゃうし」

ダレルと僕の声にみんなは頷く。

「じゃあ、王都に帰ってアルシャントが夢に出てきたら会いにきたと思ったらいいんだな?」

アシュリーの言葉に、途端に顔を上げ目を潤ませる。

「良いの?」
「良いに決まってる」
「それは、覚えていられるんでしょうか?」
「それは…わからないよ…」

アルシャントはイーノックの質問に首を振り答えた。

「僕は何回か夢に見たけど、今思えばなんとなく覚えてる。でも、夢だと思ってたから…。それにアルシャントの姿を見たのはこの旅に出てからなんだ」
「でも、今ならドラゴンの姿でも、この可愛い姿でも、声を聞いただけでもアルシャントだってわかる」
「そうですよ。それに…例え起きた時に忘れてしまっていても、俺たちが心からアルシャントを受け入れて、大切に思う気持ちがあれば心は満たされるんじゃないですか?」
「うん…」
「そうだよな。でもさ、ジュリアンのとこばかり行くなよ?俺の夢にも出てきてくれよな」
「嬉しい…」

ジョナス、イーノック、ダレルの言葉にアルシャントは涙を流した。

「それと、ネックレスだけど、少し工夫してみる」

ダレルはあのネックレスのことを諦めてはいなかった。

「どんな?」
「それは相談しながら…考える。会話は無理でも何か繋がってたいだろ?アルシャントも手伝ってくれるか?」
「うん」

ダレルの隣に新しく用意したみんなのより座面の高い椅子に座り足をブラブラさせながらアルシャントが頷いた。

翌日、朝食の席でダレルがみんなの前に五本のネックレスを置いた。漆黒、白銀、黄金、翡翠、瑠璃の五色のそれは複雑な魔法がかかっている。白銀の一本を持つと淡い光に包まれた。しかし、持つだけでは何も変化はなく綺麗なネックレスってだけだ。

黄金のを持つと心が温かくなる。

「ダレル、これって」
「これはここに置いて行く。意思の疎通ができなくても、一方的でもアルシャントに俺たちを感じることができるだろう?俺たちには指輪がある。この指輪からはアルシャントを感じただろ?だからその逆だよ。俺たちはアルシャントの心まではわからないけど、指輪に話しかけて、夢で会って…そしたらさ、もう、悲しくなんかないだろ?羊皮紙の中にも会いに行けるし、な?」
「うん」

アルシャントが指輪とネックレスを繋げてくれてる。可愛い首に五本のネックレスは重そうだけど、嬉しそうにそれを撫でてアルシャントは無邪気に笑った。

少しずつ長さを変えたネックレスは綺麗に五色を輝かせた。本来の姿である大きなドラゴンになっても、切れることはない。
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