天使のローブ

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
154 / 173
第七章

23

しおりを挟む
「まだ着かないのか?」

レイモンドが直ぐに着くと言ったけれど、なかなか到着しない。森は暗くはなく全てを見ることができる。見たことのないいろんな種類の木々が生育していて最初は楽しかったのだけど…、周りの景色は代わり映えしない。

アリルの花や珍しい見たことのない花が群生していたり、深い森の中は陽の光が所々に筋を作り綺麗ではあるけれど少々飽きてきた。

「後少しだよ。アルシャントがジュリアンとアシュリーの仲良さ気な雰囲気に意地悪してるだけだ」
「なんだそれ…」

ダレルがボヤいたその時だった。

「あっ!」
「どうしたの、ジュリ?」

アシュリーが後ろで、僕の腰を抱いたままその力を強めた。

「この景色は見たことある」

水音が聞こえてきた。気持ち良い風が吹いていて…そんなとこまで同じ。小鳥の鳴く声も、風に揺れる葉の微かな音もあの時見た風景そのまま。ただ、そこには誰も居ない。

「見たことあるって?」
「うん、僕がミシェルだと自覚した時、見えたんだ…。ミシェルさまとミネルヴァさまの…多分別れの場面だったと思う。ここで、お別れされたんだ」
『ジュリ…』
『大丈夫…ほら、僕の魔力、平気でしょ?』
『そうだな』

抱きしめられて、心も魔力も落ち着いている。背中にずっと感じるアシュリーの体温に、体に絡まる逞しい腕に、時々触れる唇に…全てが僕を守ってる。

「アルシャントには俺たちの事が見えているのですか?」

イーノックの質問に勇者たちは一様に頷く。

だって、おかしいよね?
気に食わないと遅くしちゃうの?
意思が支配する森。
願えば叶うってこと?
僕の願いも叶えて欲しい。
僕の願いはただ一つ、アシュリーと離れたくない。

ミシェルとミネルヴァの願いは叶えてくれなかった…。
自分の我を通したアルシャント。
反省していると言う。

少し行くと川沿いの道に出る。今まで森の中で直接太陽の光が入らなかった。暗くはなかったけれど、森を抜けひらけた場所に出ると、突然の眩しさに太陽に手をかざす。
蝶がヒラヒラと舞っている。

初めて見る滝はとても迫力があり、滝壺に水が落ちるさまは綺麗だ。三段になった滝は様々さまざまな形状の地形で複雑な動きをする。

見たことのあった景色から程なく着いたここは、草は生い茂っているけれど鬱蒼とした…と言う感じはない。誰にも踏まれないから道もできないし、草が枯れることもない。森の中も獣道さえなかった。

使い魔たちは大きな身体だけれど、落ち葉や枯れ枝を踏む音は小さく、足音もほとんどしない。いつもその音を気にしたことはなかったけれど、そう言えば大きな足音は聞いたことはなかった。

そこに一軒の建物がポツンと建っている。

森に入って初めての人工的なものだ。アルシャントの住まいは想像とは違っていた。洞窟のようなところだと思っていたのに、石造りの立派な家だった。二階建ての重厚な建物は、煙突から煙は出ていないけれど、絵本から飛び出したような昔を連想させる家だった。窓にはカーテンがかかり中は見えない。反対側に行くと玄関があった。玄関扉は開け放してある。中を伺うと、直ぐそこはテーブルが置かれていた。

「ここは勇者のためのやかただ。歴代の勇者が様々な魔法を掛けてるから、中は快適に保ってるよ」

ギルバートの言葉に納得した。
アルシャントの家じゃなかったんだ。

「お邪魔します…」

恐る恐る中に入ると大きなテーブルに椅子が五脚置いてある。テーブルと飾り棚の上、壁に掛かっているランプが一斉に灯る。扉が開いていたのは僕たちを迎え入れるためだったそうだ。

バーンズ先生の部屋で掃除していたのと同じように箒がパッパッとチリを掃く。既に綺麗だからなのか、その埃を浄化する魔法が掛けられているのか、部屋の中に埃っぽさはなかった。

「本当だ、綺麗だな」

ジョナスがテーブルの上に指を這わす。百年の埃はなかった。使われない家や家財は傷みやすいと言うけれど、木製のこのテーブルも椅子も古臭さは感じない。凄く豪華なアンティーク家具だ。隣にキッチンがあり、そこにはテーブルはない。と言うことは、ここで食事もするのだろう。

「この家はアレースたちが建てたんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...