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第七章
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
使い魔たちは指輪に戻らなくなった。地方に行けば行くほど精霊に出会う機会は増え、僕たちにはわからない言葉?で話す。
「一度も人間に使役されてない奴は人間の言葉はしゃべれないんだ。それに、人間には慣れてないから、攻撃仕掛けてくるぞ?」
「えっ?」
ポケットから顔と前脚をちょこんと出して寛いでいるギルバートは、驚く僕を見てニヤニヤ笑ってる。
精霊は人間から隠れて生きていて、滅多に見ることはないと聞いている。だから、使役している人は少ない。僕たちが度々出会うのはギルバートたちと行動を共にしているためだ。精霊は攻撃的な性格じゃないそうだ。それに、隠れているのに攻撃するわけないと思うんだ。人間にも性格が違う人がいるのと同じで、精霊によって違うこともあるかもしれないけれど、全体的に穏やかだとバーンズ先生が仰ってた。
「か、からかったの?」
「そうじゃないさ。俺たちは長い時を勇者と共に生きてきているから人間が怖いと思ったことはないけどさ、普通はおっかないんだ。だから、不意に出会ってしまったら身を守るためにって意味さ」
「そうなんだ」
「ジュリアンには俺が付いてるから攻撃されることはないけど、普通の旅人が精霊に惑わされたりしたって話は聞いたことあるだろ?」
「うん」
森に迷い込んで何日も彷徨ったとかって話はよく聞く。それは、精霊を捕まえようとしていたからか、精霊に惑わされたかはわからない。
「これから行くところは、精霊の土地だ。人間はいないから、逆にジュリアンたちが珍しい存在だ。百年経ったんだなと好意的に思ってる精霊もいるけど、また来やがったと思ってる奴も、いる。毎回ちょっかい出してくる精霊もいるからさ…気を付けろよ」
そこからは結界の外だ。
…精霊から言わせれば、北の山が結界の中なのかもしれないけれど…。
小高い丘の上に小屋が見える。そこには夫婦が住んでいる。丘の向こうに道はなく、少し行くと川が流れ、橋はかかっていない。
深い谷の入り口を護るこの夫婦は、退役した近衛兵の夫婦だ。
近くに民家はなくポツンと一軒建っている。綺麗な花のアーチが僕たちを迎えてくれた。
中に入ると右手に手入れの行き届いた素敵な庭が広がる。石畳の道に導かれて中に入ると、イーノックがパレードの時に出したアリルの花も栽培されていた。その可憐な花は一角に密集して咲いている。南国の花も栽培されていて、まるでアルシャント国の地図を花で描いているように各地の花が咲いていた。
テーブルとベンチが置かれ、そのテーブルの上には湯気の立つお茶とお菓子の入ったバスケットが置かれていた。ハンカチの被せられたバスケットの端からクッキーが見える。あの日、ジョナスの執務室で出された物と同じように思う。
石畳の道をアーチまで戻ると畑が見える。数種類の作物は畝をいくつも連なって作られていて、こちらも各地の作物が栽培されていた。
「!……殿下!」
「ああ、邪魔しているよ」
「お久しぶりです。そろそろお着きになられると思ってましたが、いや~大きくなられて」
涙ぐんでいるこの家の主人は大柄な身体を縮こませて、ジョナスと握手している。
「おお、こちらの方々が…。初めまして。結界の守り人をしておりますバート・リミントンと申します」
ジョナスとの再会に最初僕たちを見ていなかったバートは、視線を感じたのか慌てて挨拶する。
「初めまして、アシュリー・ミネルヴァ・リンメルです」
「よろしくお願いします。イーノック・メリク・ハーシェルです」
「ここは良い所ですね。ダレル・マールク・グラントです」
「素敵なお庭ですね。ジュリアン・ミシェル・アドラムです」
それぞれが握手して挨拶を終えると、先ほどの庭に案内された。杖をクルクルと回し、テーブルを大きくして、人数分の椅子を出す。すると、住居の方から女の人…奥さんのセアラ・リミントンがお盆にジャムやミルクを乗せてやってくる。
「あら、お客さまですね。いらっしゃいませ」
ここに二、三日滞在させてもらうのだ。
使い魔たちは指輪に戻らなくなった。地方に行けば行くほど精霊に出会う機会は増え、僕たちにはわからない言葉?で話す。
「一度も人間に使役されてない奴は人間の言葉はしゃべれないんだ。それに、人間には慣れてないから、攻撃仕掛けてくるぞ?」
「えっ?」
ポケットから顔と前脚をちょこんと出して寛いでいるギルバートは、驚く僕を見てニヤニヤ笑ってる。
精霊は人間から隠れて生きていて、滅多に見ることはないと聞いている。だから、使役している人は少ない。僕たちが度々出会うのはギルバートたちと行動を共にしているためだ。精霊は攻撃的な性格じゃないそうだ。それに、隠れているのに攻撃するわけないと思うんだ。人間にも性格が違う人がいるのと同じで、精霊によって違うこともあるかもしれないけれど、全体的に穏やかだとバーンズ先生が仰ってた。
「か、からかったの?」
「そうじゃないさ。俺たちは長い時を勇者と共に生きてきているから人間が怖いと思ったことはないけどさ、普通はおっかないんだ。だから、不意に出会ってしまったら身を守るためにって意味さ」
「そうなんだ」
「ジュリアンには俺が付いてるから攻撃されることはないけど、普通の旅人が精霊に惑わされたりしたって話は聞いたことあるだろ?」
「うん」
森に迷い込んで何日も彷徨ったとかって話はよく聞く。それは、精霊を捕まえようとしていたからか、精霊に惑わされたかはわからない。
「これから行くところは、精霊の土地だ。人間はいないから、逆にジュリアンたちが珍しい存在だ。百年経ったんだなと好意的に思ってる精霊もいるけど、また来やがったと思ってる奴も、いる。毎回ちょっかい出してくる精霊もいるからさ…気を付けろよ」
そこからは結界の外だ。
…精霊から言わせれば、北の山が結界の中なのかもしれないけれど…。
小高い丘の上に小屋が見える。そこには夫婦が住んでいる。丘の向こうに道はなく、少し行くと川が流れ、橋はかかっていない。
深い谷の入り口を護るこの夫婦は、退役した近衛兵の夫婦だ。
近くに民家はなくポツンと一軒建っている。綺麗な花のアーチが僕たちを迎えてくれた。
中に入ると右手に手入れの行き届いた素敵な庭が広がる。石畳の道に導かれて中に入ると、イーノックがパレードの時に出したアリルの花も栽培されていた。その可憐な花は一角に密集して咲いている。南国の花も栽培されていて、まるでアルシャント国の地図を花で描いているように各地の花が咲いていた。
テーブルとベンチが置かれ、そのテーブルの上には湯気の立つお茶とお菓子の入ったバスケットが置かれていた。ハンカチの被せられたバスケットの端からクッキーが見える。あの日、ジョナスの執務室で出された物と同じように思う。
石畳の道をアーチまで戻ると畑が見える。数種類の作物は畝をいくつも連なって作られていて、こちらも各地の作物が栽培されていた。
「!……殿下!」
「ああ、邪魔しているよ」
「お久しぶりです。そろそろお着きになられると思ってましたが、いや~大きくなられて」
涙ぐんでいるこの家の主人は大柄な身体を縮こませて、ジョナスと握手している。
「おお、こちらの方々が…。初めまして。結界の守り人をしておりますバート・リミントンと申します」
ジョナスとの再会に最初僕たちを見ていなかったバートは、視線を感じたのか慌てて挨拶する。
「初めまして、アシュリー・ミネルヴァ・リンメルです」
「よろしくお願いします。イーノック・メリク・ハーシェルです」
「ここは良い所ですね。ダレル・マールク・グラントです」
「素敵なお庭ですね。ジュリアン・ミシェル・アドラムです」
それぞれが握手して挨拶を終えると、先ほどの庭に案内された。杖をクルクルと回し、テーブルを大きくして、人数分の椅子を出す。すると、住居の方から女の人…奥さんのセアラ・リミントンがお盆にジャムやミルクを乗せてやってくる。
「あら、お客さまですね。いらっしゃいませ」
ここに二、三日滞在させてもらうのだ。
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