天使のローブ

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
145 / 173
第七章

14

しおりを挟む
「でも、髪の色は違うぞ?」
「いや、俺、王都で見たことある、本物だよ!」
「視察か何か?」
「えっ…どうして、ここに?」
「でも、後ろにいるのは近衛じゃないぞ?」
「そうだよな…あっ!」

「そこまでにしてもらおうか。お前たちが騒ぎを起こす前に止めたから、実際の被害はダレルが払ったお前たちの食事代だけだ。でも、このままじゃな…」
「どうするよ?王都に連れて行くか?」

ジョナスとダレルが二人に背を向けて僕たちを見る。

「そうだな…、そうしよう。ダレル、一人を連れていってくれるか?」
「おう、良いぜ」
「おいおい…」

何を話してるのか気になるのか、ややぞんざいな物言いで一人が話しかけた。

「こら!なんて口の聞き方してんだよ!」
「あっ、ヤバッ…」
「俺たち、どうなるんですか?」
「王都で、一日くらい牢に入れて…」
「牢?俺たち何もしてない…」
「そうだ。でも、止めなかったら…騒いでただろ?そんなに酷いことはしないさ。その前に…どこの金鉱で働いていたんだ?」
「イクシュ鉱山です」
「ああ、あそこは規模は小さいが良質のものが採れるからな」
「どこですか?」
「あまり有名な場所じゃない。テニエルの領地の北にある街さ。そうか…確かにあの辺りは先日の地震で被害が出ていたな」

それから、ジョナスとダレルが一人ずつ連れて王都へ向かった。多分、忘却の魔法でも掛けてもらうんだろう。それと今回の報告か。程なくして二人が戻ってきた。

「ちょっと、寄り道しても良いか?」
「良いですけど、どこへ?」
「あの二人が働いていた金鉱へ行く」

一日かけてイクシュ鉱山へ行った。途中、土砂崩れで復旧作業の真っ最中の道を通ったため、その復旧を手伝いながら進んだので普段より時間がかかったと思う。

鉱山にはジョナスの顔見知りの魔道士が入り口に立って中の様子を伺っていた。

「ロバート、どうだ?」
「見ての通りですよ。今にも崩れそうでしょ?」
「崩れを防ぐことはできるか?」
「ジョナス、僕が。ダレル、手伝って」

ダレルと並ぶと鉱山の内部を探る。人体とは違うけれど血が巡るように坑道が入り組み、その気を辿り奥に進む。

「ジュリアン、どうだ?」
所々ところどころ崩落しているみたいだけど、元々地盤が硬いのでそれほど問題ないと思う。崩れてる入り口付近は地層が違うようだしね。奥は剥き出しみたいだし…。ダレル、僕の気を辿って、坑道を補強して」
「わかった」

ダレルが肩に手を置いた。強い気が坑道を補強していく。今までよりも強固な坑道になった。ダレルの手が僕の肩から下ろし深く息を吐いた。

「入ってみるか?」

ダレルがジョナスに問いかけると、ロバートと呼ばれた魔道士が慌てて走り寄ってきた。

「いえ、それはわたしたちがします。わざわざお越しいただきありがとうございます」
「後の被害はどこだ?」
「えっ、いえ、殿下におかれましては…」
「そのために来たんだ。案内しろ」

それから家屋や畑、道など地震で壊れた箇所を確認しながら修理していく。村人には勇者であることは伏せてあるから表立って治療はできないけれど、農夫のおじいさんにしたように少し癒しの気を混ぜて労いの言葉をかけた。

それからはただ北の山に向かうだけでなく、困ったことはないかと尋ねながら、手伝えることがあれば手を貸し北を目指す。

王都から離れれば必然的に援助が遅くなる。仕方のないことなのかも知れないけれど不満は出るだろう。

勿論、地方の料理を味わうことは楽しみだけど、人々の役に立てるのは嬉しいことだ。

この旅が終わり、学園を卒業したらこんなふうに地方を訪ね歩くのも良いかもしれない。一所に長く留まることは無理でも、少しでもみんなの役に立ちたい。地方では病院がない村もある。移転魔法が使えない人もいて、簡単に医師に診てもらうことができない環境だ。少しのことで命を落とすこともあるだろう。

僕一人の力ではいくらも救うことはできないかもしれないけれど、こうして地方の現状を見ると、今は災害の被害が大きいけれど日常でも不便を感じている人は多いだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

<番外編>政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
< 嫁ぎ先の王国を崩壊させたヒロインと仲間たちの始まりとその後の物語 > 前作のヒロイン、レベッカは大暴れして嫁ぎ先の国を崩壊させた後、結婚相手のクズ皇子に別れを告げた。そして生き別れとなった母を探す為の旅に出ることを決意する。そんな彼女のお供をするのが侍女でドラゴンのミラージュ。皇子でありながら国を捨ててレベッカたちについてきたサミュエル皇子。これはそんな3人の始まりと、その後の物語―。

処理中です...