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第七章
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「でも、髪の色は違うぞ?」
「いや、俺、王都で見たことある、本物だよ!」
「視察か何か?」
「えっ…どうして、ここに?」
「でも、後ろにいるのは近衛じゃないぞ?」
「そうだよな…あっ!」
「そこまでにしてもらおうか。お前たちが騒ぎを起こす前に止めたから、実際の被害はダレルが払ったお前たちの食事代だけだ。でも、このままじゃな…」
「どうするよ?王都に連れて行くか?」
ジョナスとダレルが二人に背を向けて僕たちを見る。
「そうだな…、そうしよう。ダレル、一人を連れていってくれるか?」
「おう、良いぜ」
「おいおい…」
何を話してるのか気になるのか、ややぞんざいな物言いで一人が話しかけた。
「こら!なんて口の聞き方してんだよ!」
「あっ、ヤバッ…」
「俺たち、どうなるんですか?」
「王都で、一日くらい牢に入れて…」
「牢?俺たち何もしてない…」
「そうだ。でも、止めなかったら…騒いでただろ?そんなに酷いことはしないさ。その前に…どこの金鉱で働いていたんだ?」
「イクシュ鉱山です」
「ああ、あそこは規模は小さいが良質のものが採れるからな」
「どこですか?」
「あまり有名な場所じゃない。テニエルの領地の北にある街さ。そうか…確かにあの辺りは先日の地震で被害が出ていたな」
それから、ジョナスとダレルが一人ずつ連れて王都へ向かった。多分、忘却の魔法でも掛けてもらうんだろう。それと今回の報告か。程なくして二人が戻ってきた。
「ちょっと、寄り道しても良いか?」
「良いですけど、どこへ?」
「あの二人が働いていた金鉱へ行く」
一日かけてイクシュ鉱山へ行った。途中、土砂崩れで復旧作業の真っ最中の道を通ったため、その復旧を手伝いながら進んだので普段より時間がかかったと思う。
鉱山にはジョナスの顔見知りの魔道士が入り口に立って中の様子を伺っていた。
「ロバート、どうだ?」
「見ての通りですよ。今にも崩れそうでしょ?」
「崩れを防ぐことはできるか?」
「ジョナス、僕が。ダレル、手伝って」
ダレルと並ぶと鉱山の内部を探る。人体とは違うけれど血が巡るように坑道が入り組み、その気を辿り奥に進む。
「ジュリアン、どうだ?」
「所々崩落しているみたいだけど、元々地盤が硬いのでそれほど問題ないと思う。崩れてる入り口付近は地層が違うようだしね。奥は剥き出しみたいだし…。ダレル、僕の気を辿って、坑道を補強して」
「わかった」
ダレルが肩に手を置いた。強い気が坑道を補強していく。今までよりも強固な坑道になった。ダレルの手が僕の肩から下ろし深く息を吐いた。
「入ってみるか?」
ダレルがジョナスに問いかけると、ロバートと呼ばれた魔道士が慌てて走り寄ってきた。
「いえ、それはわたしたちがします。わざわざお越しいただきありがとうございます」
「後の被害はどこだ?」
「えっ、いえ、殿下におかれましては…」
「そのために来たんだ。案内しろ」
それから家屋や畑、道など地震で壊れた箇所を確認しながら修理していく。村人には勇者であることは伏せてあるから表立って治療はできないけれど、農夫のおじいさんにしたように少し癒しの気を混ぜて労いの言葉をかけた。
それからはただ北の山に向かうだけでなく、困ったことはないかと尋ねながら、手伝えることがあれば手を貸し北を目指す。
王都から離れれば必然的に援助が遅くなる。仕方のないことなのかも知れないけれど不満は出るだろう。
勿論、地方の料理を味わうことは楽しみだけど、人々の役に立てるのは嬉しいことだ。
この旅が終わり、学園を卒業したらこんなふうに地方を訪ね歩くのも良いかもしれない。一所に長く留まることは無理でも、少しでもみんなの役に立ちたい。地方では病院がない村もある。移転魔法が使えない人もいて、簡単に医師に診てもらうことができない環境だ。少しのことで命を落とすこともあるだろう。
僕一人の力ではいくらも救うことはできないかもしれないけれど、こうして地方の現状を見ると、今は災害の被害が大きいけれど日常でも不便を感じている人は多いだろう。
「いや、俺、王都で見たことある、本物だよ!」
「視察か何か?」
「えっ…どうして、ここに?」
「でも、後ろにいるのは近衛じゃないぞ?」
「そうだよな…あっ!」
「そこまでにしてもらおうか。お前たちが騒ぎを起こす前に止めたから、実際の被害はダレルが払ったお前たちの食事代だけだ。でも、このままじゃな…」
「どうするよ?王都に連れて行くか?」
ジョナスとダレルが二人に背を向けて僕たちを見る。
「そうだな…、そうしよう。ダレル、一人を連れていってくれるか?」
「おう、良いぜ」
「おいおい…」
何を話してるのか気になるのか、ややぞんざいな物言いで一人が話しかけた。
「こら!なんて口の聞き方してんだよ!」
「あっ、ヤバッ…」
「俺たち、どうなるんですか?」
「王都で、一日くらい牢に入れて…」
「牢?俺たち何もしてない…」
「そうだ。でも、止めなかったら…騒いでただろ?そんなに酷いことはしないさ。その前に…どこの金鉱で働いていたんだ?」
「イクシュ鉱山です」
「ああ、あそこは規模は小さいが良質のものが採れるからな」
「どこですか?」
「あまり有名な場所じゃない。テニエルの領地の北にある街さ。そうか…確かにあの辺りは先日の地震で被害が出ていたな」
それから、ジョナスとダレルが一人ずつ連れて王都へ向かった。多分、忘却の魔法でも掛けてもらうんだろう。それと今回の報告か。程なくして二人が戻ってきた。
「ちょっと、寄り道しても良いか?」
「良いですけど、どこへ?」
「あの二人が働いていた金鉱へ行く」
一日かけてイクシュ鉱山へ行った。途中、土砂崩れで復旧作業の真っ最中の道を通ったため、その復旧を手伝いながら進んだので普段より時間がかかったと思う。
鉱山にはジョナスの顔見知りの魔道士が入り口に立って中の様子を伺っていた。
「ロバート、どうだ?」
「見ての通りですよ。今にも崩れそうでしょ?」
「崩れを防ぐことはできるか?」
「ジョナス、僕が。ダレル、手伝って」
ダレルと並ぶと鉱山の内部を探る。人体とは違うけれど血が巡るように坑道が入り組み、その気を辿り奥に進む。
「ジュリアン、どうだ?」
「所々崩落しているみたいだけど、元々地盤が硬いのでそれほど問題ないと思う。崩れてる入り口付近は地層が違うようだしね。奥は剥き出しみたいだし…。ダレル、僕の気を辿って、坑道を補強して」
「わかった」
ダレルが肩に手を置いた。強い気が坑道を補強していく。今までよりも強固な坑道になった。ダレルの手が僕の肩から下ろし深く息を吐いた。
「入ってみるか?」
ダレルがジョナスに問いかけると、ロバートと呼ばれた魔道士が慌てて走り寄ってきた。
「いえ、それはわたしたちがします。わざわざお越しいただきありがとうございます」
「後の被害はどこだ?」
「えっ、いえ、殿下におかれましては…」
「そのために来たんだ。案内しろ」
それから家屋や畑、道など地震で壊れた箇所を確認しながら修理していく。村人には勇者であることは伏せてあるから表立って治療はできないけれど、農夫のおじいさんにしたように少し癒しの気を混ぜて労いの言葉をかけた。
それからはただ北の山に向かうだけでなく、困ったことはないかと尋ねながら、手伝えることがあれば手を貸し北を目指す。
王都から離れれば必然的に援助が遅くなる。仕方のないことなのかも知れないけれど不満は出るだろう。
勿論、地方の料理を味わうことは楽しみだけど、人々の役に立てるのは嬉しいことだ。
この旅が終わり、学園を卒業したらこんなふうに地方を訪ね歩くのも良いかもしれない。一所に長く留まることは無理でも、少しでもみんなの役に立ちたい。地方では病院がない村もある。移転魔法が使えない人もいて、簡単に医師に診てもらうことができない環境だ。少しのことで命を落とすこともあるだろう。
僕一人の力ではいくらも救うことはできないかもしれないけれど、こうして地方の現状を見ると、今は災害の被害が大きいけれど日常でも不便を感じている人は多いだろう。
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