天使のローブ

茉莉花 香乃

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第六章

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絶対何か知ってる。けれど、焦った様子はなくそれは僕を安心させはしたけれど、回を追う毎に重臣の中にも焦りのようなものが漂い始め落ち着かない。





『アシュ、あれ見て!』
『ん?』
『ほら、舞台だよ!』

丁度舞台に登壇したのはジミーとハリソンの他三人の七年生だった。ジミーは学園ですれ違ったりする時に声を掛けてくれる。勇者と発表されてからも態度が変わらない数少ない人だ。

僕が舞台を指差すのを周りのクラスメイトが気付き、見るかと聞いてくれた。頷いて返事するとゾロゾロと集団で移動する。学園の生徒は周りにいるクラスメイトを見て、この集団の中心には本物が隠れてると気付く。僕たちが座ろうとすると、まとまって座れるように席を譲ってくれた。有難いけど、申し訳ないと思う。

ジミーたちは学園のローブを着ていて横に一列になると一礼し、フードを被る。まるで、今日の僕たちのようだ。

みんなで下を向き、真ん中に立つジミーが杖を掲げた。大げさなほど大きく円を描くように杖を振る。すると五人のローブは勇者の五色に変わった。フードをハラリと下ろし改めて一礼すると観客から拍手が送られる。

五人はローブを脱いで空高く投げる。そのローブは形を変え五色の旗に変わった。その旗を上手に受け取り、また空中へ。ジャグリングのように大きな旗を操る。空中で交換したり、旗をたなびかせ舞うように移動する。

『あれ?ねぇ、アシュ…』
『ああ、ジュリも気付いた?』

旗はジミーの手には触れていない。滑らかに動くのはその動きを止めることがないからだ。それでも、まるで意思を持つように動く旗はジミーが操っているのだろう。ジミーの所に来ると旗は少しずつ光を纏う。そして、他の四人もだんだん手に触れることはなくなった。

両手を上に上げる。それでも旗は今までと同じように動く。五人が一斉に一度手を叩くと、破裂するような音がして旗は元どおり五色のロープになりそれぞの肩にフワリと掛かる。お辞儀をしてフードを被ると途端に学園のローブに変わった。

『凄かったね』
『そうだな。魔法自体は簡単な浮遊をちょっと工夫してるだけだけど、演出が良かったのかな。あの旗の色、時々変わってるのわかった?』
『うん、うん。見てて楽しかった』
「何か食べる?」

周りのクラスメイトが聞いてくれる。

「僕たちが座っても大丈夫かな?」
「問題ないだろ?」

テーブルにいっぱい料理を並べ、みんなで食べ始めた。どうしようとアシュリーを見る。去年までは食べる時にはフードは被ってなかった。このままでも、食べ辛くはあるけれど、食べられないわけじゃない。周りのクラスメイトは気にせずにフードを下ろし食べ始めた。僕が戸惑っていると慌てて被る。

『アシュ、どうしよう?アシュもだよ?』
『そうだな「俺たちは先に帰るよ」ジュリ』
「えっ?」
「みんな、ありがとう。おかげで楽しめたよ。ゆっくりして帰ってくれ」

立ち上がりかけたみんなを、肩を叩いて座らせた。

「この格好はみんながしてる。騒ぎにはならないさ」

みんなと離れ学園への道を歩く。

『楽しかったね』
『そうだな。でも、お腹すいたろ?寮に帰ったら何か作ろうか?』
『うん。お腹が、目の前の料理を食べる準備を始めたのに入ってこないから怒ってるみたいにグウグウなってるよ』
『ははっ、食いしん坊だな』
『なっ!アシュもでしょ?』

アシュリーと話しながらゆっくり進むとジョナス殿下がこちらに向かって歩いて来るのがわかる。

「楽しいことしてるみたいだな。ああ、そのままで構わない」

フードを下ろそうとするとそう言ってくれた。

「クラスメイトが気を使ってくれて、いつの間にか話が大きくなってしまいました」
「良いんじゃないか?警護の兵を増やしたけど、問題も起きてない」
「そうですか」
「明日、臨時の御前会議が開かれる。ダレルとイーノックにも伝えてくれるか?」
「はい、わかりました。しかし、随分急ですね?前回からそんなに日も過ぎてないのに」
「ああ、年始の…まあ、陛下から直接話を聞いてくれ。そんなに急ぎの話でもないんだけどな。陛下の気まぐれだ」
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