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第五章
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でも、ニコラスの言動が隊長として問題になってきた。ケントも僕に近寄ろうとする子には警戒はしているけれど、危害を加えないとわかると握手だったり、少しお話ししたりと穏やかな対応だ。でも、近頃のニコラスは誰彼構わずダレルに近寄らせない。
ダレルとニコラスの部屋にダレルの兄君のティムと僕とアシュリーとイーノックが集まった。
「ニコラス、俺の所に苦情が来ているんだけど。何の苦情かわかる?」
ティムが優しく問いかける。
「まあ、はい。多分…」
「それについてどう思う?」
「俺は…」
僕たちの方をチラチラ見て、下を向き次の言葉を言うのを躊躇っている。
「僕たちいない方がいい?」
自分の気持ちを言わなきゃならないなら、本人がいるというのに、関係ない人には言いたくないだろう。
ダレルにさえ言えていないのに。ダレルはニコラスに何も言われてないって言っていた。ここにはティムに呼ばれたから来たけれど、ニコラスは戸惑っていた。
「いや、構わない。……俺はダレルの事……」
「あのさ、止めようよ」
ダレルがニコラスの話を遮った。
「なあ兄貴、ニコラスが今まで通りにしてくれたら、それでいいんだろ?」
「それはそうだが。できるか?あまり苦情が多いと隊長を変わってもらわないといけない。これはルシアンやフランクからも言われたんだ。わかるよな?」
ティムがニコラスに聞く。
「そうだな。ははっ…ダレルがそう言うなら…」
切なそうなニコラスを見ていられない。
「ダレル、聞いてあげたらどうですか?」
イーノックが嗜めるように言う。
「このままじゃダレルも嫌でしょう?ニコラスが隊長を辞めるにしても、辞めないにしても二人の間にわだかまりがあれば学園全体に影響が出ます。部屋もこのまま一緒なら尚更だと思います」
「でも…」
「ダレル、聞いてくれ。迷惑かもしれないけど…」
ニコラスが一旦目をつむり、深呼吸してダレルを見た。
「俺、ダレルの事が好きだ」
「……」
「でも、このまま離れてしまうなら…隊長を辞めて、部屋を変わって…そんなことはしたくないんだ。応えてくれなんて言わない。悪かったよ。この気持ちに気付いた時はダレルは勇者でさ。それまでも人気はあったのに益々モテて。最初は隊長らしくしなきゃって気を張ってたけど、段々辛くなって。できれば、ダレルさえ良かったら、今まで通り、クラスメイトで、ルームメイトで、隊長でいさせてくれたら…俺、頑張るから」
「悪い…」
「謝らないでくれよ。俺の方こそごめん」
「ニコラスも謝るなよ。好きになってくれてありがとう。これからもよろしく。隊長さん」
「ああ、よろしく。ティム、迷惑かけて申し訳なかったです」
「いや、じゃあ、頑張って。どうしても辛くなったら、言ってくれ」
「はい」
『ニコラス…切ないね』
『そうだな。でも、みんながみんな自分の気持ちが成就するわけないからさ、仕方ないよ。俺たちは、これまで通りニコラスにもダレルにも接してやればそれでいいんじゃないか?』
『そうだね』
ニコラスは頑張った。
ニコラスの気持ちを知らない人たちは張り切りすぎたんだなと思ったようで、その苦労を労い、苦情を言ってくる人はいなくなった。
「ねえ、ニコラスは辛くないの?」
「ジュリアン、ありがとう。変なことに巻き込んで、ごめんな」
「そんなことは気にしないで」
「俺さ、浮かれてたんだ。盾の盗難事件があった時、ダレルは誰よりも俺のこと信じてくれて、解決しようとしてくれた。勿論、ジュリアンやアシュリー、疑わずにいてくれたイーノックにも感謝してるよ。でも、何よりダレルが自分の事のように怒ってくれた。それが嬉しかったんだ。その頃から、きっと好きになってた。でもさ、勇者だろ?ジュリアンも仲良くしてくれるけど勇者だもんな。大変だろ?気持ちもさ、みんなを見てたらよくわかる。注目されてさ…。だから、今度は俺が守ってやりたいって思ったんだ」
「偉いね」
「そうか?他の奴らも同じ気持ちさ。ただ、俺は…ダレルには違う気持ちも混ざってた。一緒にいる時間も増えるって考えたのは確かだけどさ…。ただ、ダレルの役に立ちたかった。断られたけど、いいんだ。さっぱりした。言えなかったから余計に好きって気持ちが内にこもってしまったんだ。
……ダレルが…」
「ダレルがどうしたの?」
「普通なんだよ。笑えるだろ?なんかさ、変に気を使って優しくされたり、冷たくされたりしたら落ち込みそうだけど、普通なんだよ。ああ、ダレルだなって思ったんだ。そんなダレルだから好きになったんだ、俺」
「そうだね。ニコラス…よく頑張ったね」
ニコラスを抱きしめた。
「…っ…ぅぅっ…」
静かに涙を流し、嗚咽を堪える。
「声出して、泣いてしまえよ」
僕たちを見守ってたアシュリーがニコラスの肩をトントンと叩く。うわぁんと激しく泣き出したけど、しばらくしたら僕から離れ、笑顔を見せた。まだ、涙でグチャグチャの顔だけど、少し照れて頭を掻く。
「ジュリアン、ありがとな。アシュリーもありがとう」
ダレルとニコラスの部屋にダレルの兄君のティムと僕とアシュリーとイーノックが集まった。
「ニコラス、俺の所に苦情が来ているんだけど。何の苦情かわかる?」
ティムが優しく問いかける。
「まあ、はい。多分…」
「それについてどう思う?」
「俺は…」
僕たちの方をチラチラ見て、下を向き次の言葉を言うのを躊躇っている。
「僕たちいない方がいい?」
自分の気持ちを言わなきゃならないなら、本人がいるというのに、関係ない人には言いたくないだろう。
ダレルにさえ言えていないのに。ダレルはニコラスに何も言われてないって言っていた。ここにはティムに呼ばれたから来たけれど、ニコラスは戸惑っていた。
「いや、構わない。……俺はダレルの事……」
「あのさ、止めようよ」
ダレルがニコラスの話を遮った。
「なあ兄貴、ニコラスが今まで通りにしてくれたら、それでいいんだろ?」
「それはそうだが。できるか?あまり苦情が多いと隊長を変わってもらわないといけない。これはルシアンやフランクからも言われたんだ。わかるよな?」
ティムがニコラスに聞く。
「そうだな。ははっ…ダレルがそう言うなら…」
切なそうなニコラスを見ていられない。
「ダレル、聞いてあげたらどうですか?」
イーノックが嗜めるように言う。
「このままじゃダレルも嫌でしょう?ニコラスが隊長を辞めるにしても、辞めないにしても二人の間にわだかまりがあれば学園全体に影響が出ます。部屋もこのまま一緒なら尚更だと思います」
「でも…」
「ダレル、聞いてくれ。迷惑かもしれないけど…」
ニコラスが一旦目をつむり、深呼吸してダレルを見た。
「俺、ダレルの事が好きだ」
「……」
「でも、このまま離れてしまうなら…隊長を辞めて、部屋を変わって…そんなことはしたくないんだ。応えてくれなんて言わない。悪かったよ。この気持ちに気付いた時はダレルは勇者でさ。それまでも人気はあったのに益々モテて。最初は隊長らしくしなきゃって気を張ってたけど、段々辛くなって。できれば、ダレルさえ良かったら、今まで通り、クラスメイトで、ルームメイトで、隊長でいさせてくれたら…俺、頑張るから」
「悪い…」
「謝らないでくれよ。俺の方こそごめん」
「ニコラスも謝るなよ。好きになってくれてありがとう。これからもよろしく。隊長さん」
「ああ、よろしく。ティム、迷惑かけて申し訳なかったです」
「いや、じゃあ、頑張って。どうしても辛くなったら、言ってくれ」
「はい」
『ニコラス…切ないね』
『そうだな。でも、みんながみんな自分の気持ちが成就するわけないからさ、仕方ないよ。俺たちは、これまで通りニコラスにもダレルにも接してやればそれでいいんじゃないか?』
『そうだね』
ニコラスは頑張った。
ニコラスの気持ちを知らない人たちは張り切りすぎたんだなと思ったようで、その苦労を労い、苦情を言ってくる人はいなくなった。
「ねえ、ニコラスは辛くないの?」
「ジュリアン、ありがとう。変なことに巻き込んで、ごめんな」
「そんなことは気にしないで」
「俺さ、浮かれてたんだ。盾の盗難事件があった時、ダレルは誰よりも俺のこと信じてくれて、解決しようとしてくれた。勿論、ジュリアンやアシュリー、疑わずにいてくれたイーノックにも感謝してるよ。でも、何よりダレルが自分の事のように怒ってくれた。それが嬉しかったんだ。その頃から、きっと好きになってた。でもさ、勇者だろ?ジュリアンも仲良くしてくれるけど勇者だもんな。大変だろ?気持ちもさ、みんなを見てたらよくわかる。注目されてさ…。だから、今度は俺が守ってやりたいって思ったんだ」
「偉いね」
「そうか?他の奴らも同じ気持ちさ。ただ、俺は…ダレルには違う気持ちも混ざってた。一緒にいる時間も増えるって考えたのは確かだけどさ…。ただ、ダレルの役に立ちたかった。断られたけど、いいんだ。さっぱりした。言えなかったから余計に好きって気持ちが内にこもってしまったんだ。
……ダレルが…」
「ダレルがどうしたの?」
「普通なんだよ。笑えるだろ?なんかさ、変に気を使って優しくされたり、冷たくされたりしたら落ち込みそうだけど、普通なんだよ。ああ、ダレルだなって思ったんだ。そんなダレルだから好きになったんだ、俺」
「そうだね。ニコラス…よく頑張ったね」
ニコラスを抱きしめた。
「…っ…ぅぅっ…」
静かに涙を流し、嗚咽を堪える。
「声出して、泣いてしまえよ」
僕たちを見守ってたアシュリーがニコラスの肩をトントンと叩く。うわぁんと激しく泣き出したけど、しばらくしたら僕から離れ、笑顔を見せた。まだ、涙でグチャグチャの顔だけど、少し照れて頭を掻く。
「ジュリアン、ありがとな。アシュリーもありがとう」
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