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第五章
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控え室にコンコンとノック音がして、ゆっくりと扉が開き、遠慮がちにローザが顔を覗かせた。
ローザ・グレネルの父君は公爵さまでローザは王宮で育った。魔法の研究者として優秀で、出世などには見向きもしないで部屋に篭ってらっしゃるらしい。バーンズ先生とも共同で研究されているようで、学園でも見かけたことがある。ちなみに、バーンズ先生も公爵家の出身だ。
まあ、アルシャント国には貴族が出世を狙って何かを画策するなどあったことがない。
「ごきげんよう…」
いつもの元気さはなくおずおずと挨拶する。
「ローザちゃん!」
セシリアが従姉妹に走り寄った。
「ごめんなさい…ご兄弟がお集まりなのに。一言、お詫び…いえ、お祝いを…」
セシリアに手を引かれ僕の前まで来ると両手を前で合わし、片目を瞑る。
「ジュリアン、さま…あの…ご、め」
「ローザにさま…なんて呼ばれたら鳥肌立っちゃうよ」
「でも、わたし…謝らなくちゃ」
「何を?」
「だって、知らなかったから…あの、ほら、色々と…失礼なこと…」
「みんな知らなかったんだよ?」
「でも、父上と母上は知ってらして…どうして……教えてくだされば良かったのに…」
「グレネルさまは公爵だからご存じなんだ。無闇に人に話してはいけないんだよ?そんなこと知ってるでしょ?ローザ」
今まで僕にしてきた数々のいたずらは、同い年の従姉妹だから。それも小さな頃は女同士として遊んでた。
…不本意ながら…。
その時、ノックもなしに扉が開きジョナス殿下が入ってこられた。今、扉の前は殿下付きの近衛兵が詰めている。
「食べられたか?もう直ぐ、中庭に…君は?」
「ローザ・グレネルです。殿下…」
ローザが緊張気味に挨拶する。あれ?ローザは王宮で育った。例えしゃべったことがなくても、顔ぐらいは知ってると思うけど…。
「殿下、従姉妹なんです。お祝いに来てくれて」
「グレネル公の…、雰囲気が似てるな?」
口に手を当て、僕とローザを交互に見て呟かれた。
「お会いになられたことはないのですか?」
「遠くで…見たことはあるかもな。俺の周りは固められてた。いくらグレネル公の娘だとしても…な」
そう言えば、執務室にも侍女はいなかった。
「あの、わたし…失礼します」
「いいよ、俺の兄弟は忙しいからな、誰も来ていない。君が…ローザが側にいてくれないか?」
「はい。わたくしでよろしければ…、喜んで」
パレードは王都アデルの城門から王宮前の広場までを勇者の生まれ変わりは使い魔に乗って、両陛下と王太子殿下、デューク殿下は馬車に乗って進むことになる。
近衛兵を従えてゆっくりと行進する。戦争がないアルシャント国は凱旋パレードをしたことがない。収穫祭で踊ったりする小規模のものはあるけれど、これほど大掛かりなパレードは百年に一度、五人の勇者が揃った年に行われるこの時だけだ。
中庭にギルバートたち五匹の使い魔が勢ぞろいした。さっきまでの手乗りサイズじゃなく、僕たちを乗せるために大きな姿だ。
実家にいた時よりもひと回り大きくなったギルバートは更に逞しい。
「ギル、こんなに大きくなれるんだね」
「これが俺の本来の姿だよ」
「そうなんだ。凄くかっこいいよ」
前にアシュリーがマクシミリアンの事を大き過ぎるくらいって言ってたけど、この大きさのマクシミリアンにも乗ったことがあったのかもしれない。
何人もの近衛兵が護衛のためか中庭に詰めているけれど、大きな姿の五匹におっかなびっくりで一塊になっている。その中に去年の剣術大会の準優勝者、ランドル・ギブソンの姿も見える。
それじゃ護衛にならないぞとジョナス殿下が側にいるシルベスター・エルドレッド・エングルフィールドをけしかける。
護衛なんていらないと思うけど、兵たちが「是非、お側近くでお仕えしたい」と言って聞かないからのぉ、と国王陛下が仰っていた。
イーノックの隣にはアンブローズ・コーニーリアス・ティンバーレイクが寄り添っている。濃い青のフサフサの毛並みがマフラーのようになっていて、太陽の光に当たると紫のように見える深い青は落ち着きのある雰囲気だ。
「アンブローズ…アンだよ。よろしく、ジュリアン」
「こちらこそよろしく。この子はギルバートです。ギルはイーノックの事、知ってるよね?」
「ああ、同じ部屋だったからな。アンブローズ、元気でやってるか?」
「はい。あなたのパートナーはいつも可愛らしい方ですが今世は一層綺麗ですね。早く挨拶したかったですよ、ジュリアン。よろしく」
ギルバートやマクシミリアンは目付き鋭い印象があるけどアンブローズは穏やかな優しい目で僕を見つめる。
ローザ・グレネルの父君は公爵さまでローザは王宮で育った。魔法の研究者として優秀で、出世などには見向きもしないで部屋に篭ってらっしゃるらしい。バーンズ先生とも共同で研究されているようで、学園でも見かけたことがある。ちなみに、バーンズ先生も公爵家の出身だ。
まあ、アルシャント国には貴族が出世を狙って何かを画策するなどあったことがない。
「ごきげんよう…」
いつもの元気さはなくおずおずと挨拶する。
「ローザちゃん!」
セシリアが従姉妹に走り寄った。
「ごめんなさい…ご兄弟がお集まりなのに。一言、お詫び…いえ、お祝いを…」
セシリアに手を引かれ僕の前まで来ると両手を前で合わし、片目を瞑る。
「ジュリアン、さま…あの…ご、め」
「ローザにさま…なんて呼ばれたら鳥肌立っちゃうよ」
「でも、わたし…謝らなくちゃ」
「何を?」
「だって、知らなかったから…あの、ほら、色々と…失礼なこと…」
「みんな知らなかったんだよ?」
「でも、父上と母上は知ってらして…どうして……教えてくだされば良かったのに…」
「グレネルさまは公爵だからご存じなんだ。無闇に人に話してはいけないんだよ?そんなこと知ってるでしょ?ローザ」
今まで僕にしてきた数々のいたずらは、同い年の従姉妹だから。それも小さな頃は女同士として遊んでた。
…不本意ながら…。
その時、ノックもなしに扉が開きジョナス殿下が入ってこられた。今、扉の前は殿下付きの近衛兵が詰めている。
「食べられたか?もう直ぐ、中庭に…君は?」
「ローザ・グレネルです。殿下…」
ローザが緊張気味に挨拶する。あれ?ローザは王宮で育った。例えしゃべったことがなくても、顔ぐらいは知ってると思うけど…。
「殿下、従姉妹なんです。お祝いに来てくれて」
「グレネル公の…、雰囲気が似てるな?」
口に手を当て、僕とローザを交互に見て呟かれた。
「お会いになられたことはないのですか?」
「遠くで…見たことはあるかもな。俺の周りは固められてた。いくらグレネル公の娘だとしても…な」
そう言えば、執務室にも侍女はいなかった。
「あの、わたし…失礼します」
「いいよ、俺の兄弟は忙しいからな、誰も来ていない。君が…ローザが側にいてくれないか?」
「はい。わたくしでよろしければ…、喜んで」
パレードは王都アデルの城門から王宮前の広場までを勇者の生まれ変わりは使い魔に乗って、両陛下と王太子殿下、デューク殿下は馬車に乗って進むことになる。
近衛兵を従えてゆっくりと行進する。戦争がないアルシャント国は凱旋パレードをしたことがない。収穫祭で踊ったりする小規模のものはあるけれど、これほど大掛かりなパレードは百年に一度、五人の勇者が揃った年に行われるこの時だけだ。
中庭にギルバートたち五匹の使い魔が勢ぞろいした。さっきまでの手乗りサイズじゃなく、僕たちを乗せるために大きな姿だ。
実家にいた時よりもひと回り大きくなったギルバートは更に逞しい。
「ギル、こんなに大きくなれるんだね」
「これが俺の本来の姿だよ」
「そうなんだ。凄くかっこいいよ」
前にアシュリーがマクシミリアンの事を大き過ぎるくらいって言ってたけど、この大きさのマクシミリアンにも乗ったことがあったのかもしれない。
何人もの近衛兵が護衛のためか中庭に詰めているけれど、大きな姿の五匹におっかなびっくりで一塊になっている。その中に去年の剣術大会の準優勝者、ランドル・ギブソンの姿も見える。
それじゃ護衛にならないぞとジョナス殿下が側にいるシルベスター・エルドレッド・エングルフィールドをけしかける。
護衛なんていらないと思うけど、兵たちが「是非、お側近くでお仕えしたい」と言って聞かないからのぉ、と国王陛下が仰っていた。
イーノックの隣にはアンブローズ・コーニーリアス・ティンバーレイクが寄り添っている。濃い青のフサフサの毛並みがマフラーのようになっていて、太陽の光に当たると紫のように見える深い青は落ち着きのある雰囲気だ。
「アンブローズ…アンだよ。よろしく、ジュリアン」
「こちらこそよろしく。この子はギルバートです。ギルはイーノックの事、知ってるよね?」
「ああ、同じ部屋だったからな。アンブローズ、元気でやってるか?」
「はい。あなたのパートナーはいつも可愛らしい方ですが今世は一層綺麗ですね。早く挨拶したかったですよ、ジュリアン。よろしく」
ギルバートやマクシミリアンは目付き鋭い印象があるけどアンブローズは穏やかな優しい目で僕を見つめる。
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