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第五章
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
この頃、周りが騒がしくなった。
何年か前から毎年年末になるとザワザワと噂話があちこちで聞こえた。勿論、年中そんな話はみんながしていることだ。
自分が勇者なら…無邪気な下級生はきっとモテるだろうと勇者になりたがり、ジョナス殿下の苦労を知っている上級生はその責務の大きさに尻込みするのだ。
殿下が三年生ぐらいから毎年噂は凄かったけれど、ルシアン兄上が五年生の時は「遂にこの時が」と煩いくらいだった。兄上がそうではないのかと噂があったのは知っていた。
ジョナス殿下がアレースさまであることは国民全員が知っていることなので、殿下の年に近い年齢に他の勇者の生まれ変わりがいるに違いないと年末が近づくと、寄ると触るとその話だ。
何故年末かと言うと、重大な発表は年始に行われることが多いから。新年の祝賀行事に合わせて重要な発表が行われるけれど、勇者の誕生日である年始にはぴったりの発表だと思う。
アシュリーは他の二人の事も知っているらしい。僕は…ジョナス殿下にお会いして確信したことがある。
殿下の指には同じ指輪があった。魔法は掛かってなくて見ることが出来た。僕のと同じラブラドライトで、青い石の中には濃淡があり濃い青は黒くさえ見えた。落ち着いた色合いは殿下によく似合ってた。
それが意味するのは他の二人も同じ指輪を持っている可能性が高いということだ。その気配には覚えがある。すごく身近な存在の二人が恐らく後の二人の勇者だ。
この噂話は女子の間でも凄いらしい。ミシェルさまの生まれ変わりは女性だとみんなが思ってるからだ。先代はアレースさまと結婚された。多分その辺りが女子の噂の最も重要な部分なんじゃないかな。
ジョナス殿下は僕に無体を働いた人ではあるけれど、人気は絶大で顔も権力も何もかもが言うことない。誰がその羨ましい人なのかとその栄誉を得ている人を上げたり下げたりして話の中に置く。自分じゃないだろうか…と少しは期待して。
僕としてはとても複雑な気持ち。男でごめんなさい。
そして、今日は僕とアシュリーの誕生日。
国中に御触れが出た。
五人の勇者の生まれ変わりが揃う日だ。
僕たちは王宮の謁見の間に正装で座っている。
ダレル・マールク・グラントとイーノック・メリク・ハーシェルはまだ少し混乱している様子だ。
そう、一、二年生で寮の同室だった二人がそうだったんだ。あの時ギルバートがみんなには言わない方が良いと言ったのは覚醒していない二人に刺激を与えてはいけないとの配慮だった。あの時は僕も父上の魔法に掛かっていたから同じような立場だったと思う。
二人は御触れが出る前に父君から聞いたそうだ。僕たちは昨日から王宮に詰めているけれど、準備や覚えなければならないことがいっぱいあり、ゆっくり話もできなかった。
国王陛下と王妃殿下、コーディ王太子殿下、ジョナス殿下、お二人の弟君デューク殿下が上座に座り、その御前に僕たち四人が跪いて一列に並ぶ。
赤絨毯の上で緊張に身体が強張る。
それぞれの親と公爵さまが横に並び式は滞りなく進んでいく。
ジョナス殿下が席を立ち、四人を見る。一人ずつ目を合わせ何かを確かめるように頷いておられる。
いよいよだ。
五人は昔話の通り、漆黒、白銀、黄金、翡翠、瑠璃色のローブを身に付けている。
殿下は僕たちの中央に立ち両脇に跪く四人は一斉に立ち上がった。
殿下の右手には剣が握られている。宝石が散りばめられた鞘と柄は眩しいほどキラキラと輝いている。魔法で鍛えられた剣は持ち主を選ぶ。鞘から抜くことはアレース以外できないのだ。僕は持つことさえできないくらい重いだろう。いや、重く感じるだろう。アレースだけが持つことを許された剣だ。
それは代々受け継がれし秘宝。
その秘宝はこの指輪の中にある。使い魔と共に次代に受け継がれる。今、五人の指には同じ石がはめ込まれた指輪が輝いている。
儀礼的な今回の儀式の最も重要なことの一つ、それは秘宝をこの指輪から取り出すこと。この儀式は誰もが生きて見たことがない。ジョナス殿下が今、指輪から取り出した時、今までシンと静まり返っていた謁見の間はどよめいた。誰もがもっとよく殿下を見ようと身を乗り出した。
この頃、周りが騒がしくなった。
何年か前から毎年年末になるとザワザワと噂話があちこちで聞こえた。勿論、年中そんな話はみんながしていることだ。
自分が勇者なら…無邪気な下級生はきっとモテるだろうと勇者になりたがり、ジョナス殿下の苦労を知っている上級生はその責務の大きさに尻込みするのだ。
殿下が三年生ぐらいから毎年噂は凄かったけれど、ルシアン兄上が五年生の時は「遂にこの時が」と煩いくらいだった。兄上がそうではないのかと噂があったのは知っていた。
ジョナス殿下がアレースさまであることは国民全員が知っていることなので、殿下の年に近い年齢に他の勇者の生まれ変わりがいるに違いないと年末が近づくと、寄ると触るとその話だ。
何故年末かと言うと、重大な発表は年始に行われることが多いから。新年の祝賀行事に合わせて重要な発表が行われるけれど、勇者の誕生日である年始にはぴったりの発表だと思う。
アシュリーは他の二人の事も知っているらしい。僕は…ジョナス殿下にお会いして確信したことがある。
殿下の指には同じ指輪があった。魔法は掛かってなくて見ることが出来た。僕のと同じラブラドライトで、青い石の中には濃淡があり濃い青は黒くさえ見えた。落ち着いた色合いは殿下によく似合ってた。
それが意味するのは他の二人も同じ指輪を持っている可能性が高いということだ。その気配には覚えがある。すごく身近な存在の二人が恐らく後の二人の勇者だ。
この噂話は女子の間でも凄いらしい。ミシェルさまの生まれ変わりは女性だとみんなが思ってるからだ。先代はアレースさまと結婚された。多分その辺りが女子の噂の最も重要な部分なんじゃないかな。
ジョナス殿下は僕に無体を働いた人ではあるけれど、人気は絶大で顔も権力も何もかもが言うことない。誰がその羨ましい人なのかとその栄誉を得ている人を上げたり下げたりして話の中に置く。自分じゃないだろうか…と少しは期待して。
僕としてはとても複雑な気持ち。男でごめんなさい。
そして、今日は僕とアシュリーの誕生日。
国中に御触れが出た。
五人の勇者の生まれ変わりが揃う日だ。
僕たちは王宮の謁見の間に正装で座っている。
ダレル・マールク・グラントとイーノック・メリク・ハーシェルはまだ少し混乱している様子だ。
そう、一、二年生で寮の同室だった二人がそうだったんだ。あの時ギルバートがみんなには言わない方が良いと言ったのは覚醒していない二人に刺激を与えてはいけないとの配慮だった。あの時は僕も父上の魔法に掛かっていたから同じような立場だったと思う。
二人は御触れが出る前に父君から聞いたそうだ。僕たちは昨日から王宮に詰めているけれど、準備や覚えなければならないことがいっぱいあり、ゆっくり話もできなかった。
国王陛下と王妃殿下、コーディ王太子殿下、ジョナス殿下、お二人の弟君デューク殿下が上座に座り、その御前に僕たち四人が跪いて一列に並ぶ。
赤絨毯の上で緊張に身体が強張る。
それぞれの親と公爵さまが横に並び式は滞りなく進んでいく。
ジョナス殿下が席を立ち、四人を見る。一人ずつ目を合わせ何かを確かめるように頷いておられる。
いよいよだ。
五人は昔話の通り、漆黒、白銀、黄金、翡翠、瑠璃色のローブを身に付けている。
殿下は僕たちの中央に立ち両脇に跪く四人は一斉に立ち上がった。
殿下の右手には剣が握られている。宝石が散りばめられた鞘と柄は眩しいほどキラキラと輝いている。魔法で鍛えられた剣は持ち主を選ぶ。鞘から抜くことはアレース以外できないのだ。僕は持つことさえできないくらい重いだろう。いや、重く感じるだろう。アレースだけが持つことを許された剣だ。
それは代々受け継がれし秘宝。
その秘宝はこの指輪の中にある。使い魔と共に次代に受け継がれる。今、五人の指には同じ石がはめ込まれた指輪が輝いている。
儀礼的な今回の儀式の最も重要なことの一つ、それは秘宝をこの指輪から取り出すこと。この儀式は誰もが生きて見たことがない。ジョナス殿下が今、指輪から取り出した時、今までシンと静まり返っていた謁見の間はどよめいた。誰もがもっとよく殿下を見ようと身を乗り出した。
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