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第五章
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ギルバートを手に乗せてスリスリする。
「来てくれたんだね。ありがとう」
「当たり前だろ?こんな頼りないジュリアンは俺が守ってやらなくちゃな」
「僕が攫われた時、マックスと仲良くしてたのに?」
「あれは…」
「話は後だ『ジュリ、ガイが犯人なのか?』」
『そうなんだけど…きっと誤解なんだ。ケントのために穏便に済ますことは出来ないかな?』
『ケントの?そう言えば、さっきも何か言いたそうだったな。後の二人はどうする?』
『隣国スローンの間者だよ。僕がマールクだと思ってた』
『もしかしてガイが?…』
『多分…でも…』
『わかった。ガイのことはジュリに任せる。ガイは適当に言ったと思うけど、マールクの名前を出したことでこいつらは国外には出せないだろうな…』
『そうだね』
『俺が下手に忘却の魔法を掛けたりしたらヤバイよな?』
『うん…王宮の魔導師に見破られた時にアシュリーが疑われたら嫌だ』
『ガイも……ジョナス殿下に相談するか。ジュリの頼みなら聞いてくれるかな…』
『…うん』
ジョナス殿下に借りを作るのは嫌だけど仕方ない。
僕を売ったことは、そのことに関しては許せない部分がある。しかし、観念したように小屋の隅で項垂れているガイはもう逃げられないと悟っているのか、暴れることも、逃げることも、言い訳をすることもなかった。
そんな様子を見ると何とかしてあげたくなる。甘いと言われるかもしれないけど…ケントは僕の初めての友だちなんだ。
ケントの悲しむ顔は見たくない。
「ガイ、ありがとう。ジュリを助けてくれて」
「な、何を!」
「こいつら連れてくの手伝ってくれないか?マクスウェルに乗せたら簡単なんだけど、こんな街中じゃ目立つから」
「俺は…」
「ほら、ジュリは一人で歩ける?」
「うん、大丈夫」
僕が連れて来られた場所は街外れの小屋だった。夜になればお酒を出す店が開いて賑やかな通りなのだと思うけど、今は太陽が真上にある昼間なので辺りは人通りも疎らだった。
学園とはそんなに離れていないけれど、ここからは市街地を通らなければ学園には戻れない。
「こいつら王宮に連れて行くから、ジュリは先に寮に戻ってて。馬車、二台用意しといて良かったよ。ルシアンが言ってくれたんだ」
「兄さまが?」
「ああ、ギルが学園とは離れた場所だって言うから、帰りに何があるかわからないって。馬車はルシアンが準備してくれたから、付いてこようとしてさ…困ったよ。あんな綺麗な顔して睨まれたら迫力半端ない。ちょうど、ジュリから返事があった時だったからさ。ギルに説得してもらった」
「そ、そうなんだ」
本当は先に寮の部屋まで僕を送りたいと言っていたけど、スローン国の間者をそのまま連れ回すわけにはいかない。
しかし、弱っちい賊だったな…。ほんとに間者なのか…。
寮に戻ると部屋の前にケントがいた。
「ジュリアン…あの、ガイ見なかった?この頃様子がおかしかったんだけど…朝から姿が見えないんだ…。一緒に探してくれないか?」
僕とアシュリーの部屋にケントとガイがいる。
ケントは凄く怒っていて、ガイは大きな身体を縮こませて俯いている。
「一体どういうつもりなのさ!ジュリアンにはちゃんと謝ったの?」
立ち上がったケントは今にも殴りかかりそうだ。
「……」
「黙ってたらわからないよ」
「俺はケントさまが…」
「俺がどうしたんだよ!」
「ケントさまを苦しめるジュリアンが許せなかった!」
「はぁ?何言ってる?」
「わかってるんだ…ケントさまがジュリアンの事…」
「俺がジュリアンの事をなんなんだよ?」
興奮しているケントはいつもの穏やかな可愛さはなかった。
「ケント、落ち着いて!ガイが話せないよ」
「…わかったよ…。ジュリアン」
椅子にドカッと乱暴に座り、それでもガイを睨み付けている。
「ガイ、話せる?」
僕とは話したくないのか目を合わせようとしないけれど、膝の上で握り拳をフルフルと震わせて何かに耐えていた。
「ケントさまは入学されてから変わられた。ご実家にいらっしゃる時は何にでも興味を持たれて、その話は多岐にわたっていた。しかし、学園に来られてからは俺に話すことと言えばジュリアンの事ばかりだ。ジュリアンがどうした…。ジュリアンは可愛い…。ジュリアン、ジュリアン…俺はケントさまがジュリアンの事が好きなら応援したいと思ってた。それなのにジュリアンはアシュリーとばかり一緒に居て、ケントさまを見向きもしない。こんなにケントさまが愛されているのに…。ケントさまが可哀想だ…」
「来てくれたんだね。ありがとう」
「当たり前だろ?こんな頼りないジュリアンは俺が守ってやらなくちゃな」
「僕が攫われた時、マックスと仲良くしてたのに?」
「あれは…」
「話は後だ『ジュリ、ガイが犯人なのか?』」
『そうなんだけど…きっと誤解なんだ。ケントのために穏便に済ますことは出来ないかな?』
『ケントの?そう言えば、さっきも何か言いたそうだったな。後の二人はどうする?』
『隣国スローンの間者だよ。僕がマールクだと思ってた』
『もしかしてガイが?…』
『多分…でも…』
『わかった。ガイのことはジュリに任せる。ガイは適当に言ったと思うけど、マールクの名前を出したことでこいつらは国外には出せないだろうな…』
『そうだね』
『俺が下手に忘却の魔法を掛けたりしたらヤバイよな?』
『うん…王宮の魔導師に見破られた時にアシュリーが疑われたら嫌だ』
『ガイも……ジョナス殿下に相談するか。ジュリの頼みなら聞いてくれるかな…』
『…うん』
ジョナス殿下に借りを作るのは嫌だけど仕方ない。
僕を売ったことは、そのことに関しては許せない部分がある。しかし、観念したように小屋の隅で項垂れているガイはもう逃げられないと悟っているのか、暴れることも、逃げることも、言い訳をすることもなかった。
そんな様子を見ると何とかしてあげたくなる。甘いと言われるかもしれないけど…ケントは僕の初めての友だちなんだ。
ケントの悲しむ顔は見たくない。
「ガイ、ありがとう。ジュリを助けてくれて」
「な、何を!」
「こいつら連れてくの手伝ってくれないか?マクスウェルに乗せたら簡単なんだけど、こんな街中じゃ目立つから」
「俺は…」
「ほら、ジュリは一人で歩ける?」
「うん、大丈夫」
僕が連れて来られた場所は街外れの小屋だった。夜になればお酒を出す店が開いて賑やかな通りなのだと思うけど、今は太陽が真上にある昼間なので辺りは人通りも疎らだった。
学園とはそんなに離れていないけれど、ここからは市街地を通らなければ学園には戻れない。
「こいつら王宮に連れて行くから、ジュリは先に寮に戻ってて。馬車、二台用意しといて良かったよ。ルシアンが言ってくれたんだ」
「兄さまが?」
「ああ、ギルが学園とは離れた場所だって言うから、帰りに何があるかわからないって。馬車はルシアンが準備してくれたから、付いてこようとしてさ…困ったよ。あんな綺麗な顔して睨まれたら迫力半端ない。ちょうど、ジュリから返事があった時だったからさ。ギルに説得してもらった」
「そ、そうなんだ」
本当は先に寮の部屋まで僕を送りたいと言っていたけど、スローン国の間者をそのまま連れ回すわけにはいかない。
しかし、弱っちい賊だったな…。ほんとに間者なのか…。
寮に戻ると部屋の前にケントがいた。
「ジュリアン…あの、ガイ見なかった?この頃様子がおかしかったんだけど…朝から姿が見えないんだ…。一緒に探してくれないか?」
僕とアシュリーの部屋にケントとガイがいる。
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立ち上がったケントは今にも殴りかかりそうだ。
「……」
「黙ってたらわからないよ」
「俺はケントさまが…」
「俺がどうしたんだよ!」
「ケントさまを苦しめるジュリアンが許せなかった!」
「はぁ?何言ってる?」
「わかってるんだ…ケントさまがジュリアンの事…」
「俺がジュリアンの事をなんなんだよ?」
興奮しているケントはいつもの穏やかな可愛さはなかった。
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「…わかったよ…。ジュリアン」
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「ガイ、話せる?」
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「ケントさまは入学されてから変わられた。ご実家にいらっしゃる時は何にでも興味を持たれて、その話は多岐にわたっていた。しかし、学園に来られてからは俺に話すことと言えばジュリアンの事ばかりだ。ジュリアンがどうした…。ジュリアンは可愛い…。ジュリアン、ジュリアン…俺はケントさまがジュリアンの事が好きなら応援したいと思ってた。それなのにジュリアンはアシュリーとばかり一緒に居て、ケントさまを見向きもしない。こんなにケントさまが愛されているのに…。ケントさまが可哀想だ…」
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