天使のローブ

茉莉花 香乃

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第五章

06

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「ちょっと待って」
「良いから、来いよ!」

ギルバートに指輪に戻ってもらおうと思ったけど、ガイに手首を持たれて強引に部屋から連れ出された。

「痛いよ!離して!」
「黙れ!」

僕を部屋から引っ張り出して、口にハンカチを当てられた。咄嗟のことで対抗する術はない。薬を染み込ませていたハンカチで僕の意識は闇に沈んだ。

『大丈夫だよ。僕が守ってあげる』
『君は…ああ、遊びに行く約束だったよね?ごめんね、まだどこに行けば良いか、思い出せないんだ』
『良いんだ、もう直ぐ会えるよ。それより、大丈夫だから。僕が守るからね………』







気がつくと両手が後ろで括られて、両足も同じように足首で括られていた。口にハンカチが入った状態で更に吐き出せないように別のハンカチで覆うように後ろで括られていて喋ることは出来ないし、目隠しもされて見えない。冷たい床に頭を付けて周りの様子を窺う。

どのくらいの時間が経ったのかわからないし、ここがどこだかわからない。

『アシュ!アシュ、聞こえる?』

アシュリーに話し掛けても返事は無い。学園内なら…寮と教室くらいの距離なら会話が出来ることはアシュリーと調べた。それ以上離れるとわからない。
ジョナス殿下に王宮に呼び出された時はアシュリーの声は聞こえなかったからあまり遠いと会話は出来ないと思う。もしかしたら王宮の中は魔法で結界が張られていて、他の建物とは違う防御があり二人の会話を妨害していたのかもしれないけれど…。

「んっ……んっ」

言葉にならない声は少し響いた。気密性のある部屋らしい。僕が気が付いたことがわかっても、返事は無い。しかし、その気配はすぐそこにある。ガイだけじゃなく他にも二人この部屋の中に居る。

そんなに広い部屋ではないのか?
どこかに連れ出されてしまったのか?
そもそも僕をどうするつもりなのか?

「これで良いか?」
「ああ、本当に連れてくるとはな」

ガイの声とどこか訛りのある声がした。そして今の訛りのある男がアルシャント国の隣国スローン国の言葉で話し出した。
まるで僕がここに居ることを無視するかのように、僕に対するリアクションは無い。

【こいつ・・・、マールク・・・・なのか?】
【もし・・・、・・だ。・・売れ・・・】
【それもそうだな】
【国境・・・馬車で・・・・。・・はどうする?】

早口で喋られては隣国の言葉を聞き取れない。けれど理解出来た部分だけでも誘拐されて、国外に連れ出されてしまうようだ。

「俺はここに残る」
「じゃあ、謝礼はこれだ」

ジャランと音がして、金貨だろうか床に落ちた音がした。スローン国とアルシャント国では流通している貨幣が違う。だから…金貨ではなく金そのものかもしれない。
ガイはお金のために僕をこいつらに売ったのか?この賊は僕がマールクの生まれ変わりかもしれないと思っている。

百年の封印が出来なければこの国は滅びる。しかし、きちんと封印出来ていれば、神の加護が与えられているために作物はたわわに実り、結界があるので他国からの侵入もない。

授業では攻撃魔法も、接近戦に備え剣も習うが何百年も実際に戦いにはなっていない。そうだ、封印をする前に五人のうち誰か一人を殺めればアルシャント国を攻めることなく落とせると言うことか…。

だから、発表は成人してから。自分の身を自分で守れる強さや、使命に押し潰されない意思など様々なことが備わって初めて発表となるのだ。
しかし、僕はミシェルだけどマールクではない。ガイは国をも売るつもりなのか?どう言うことなのだろう?

ガイの目的がわからない。

そんなに目障りだったのか?国外に連れ出してしまいたくなるくらいに…。しかし、封印のことは国民でさえ知らされていない。儀礼的な儀式があるのは知られているけれど、詳しいことは公表していない。
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