天使のローブ

茉莉花 香乃

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第五章

05

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その日、僕は寮の自室で一人で寛いでいた。

図書館から借りた古い魔法学や魔法薬学、医学の本をゆっくりと読むのが日課になっている。わからないところはメモしておいて先生に聞きに行く。

今年から魔法薬学はおじいちゃん先生のセオドア・キサック先生で、僕がする質問にいつもニコニコと答えてくださる。
学園の先生方は僕が覚醒したことを知っておられるのか、先代の話をして下さる。国王陛下も教え子だと仰って、陛下の学園時の話もして下さる。

僕の周りには先代の話をしてくれる人はいなかったのでそのお話はとても楽しみだ。

アシュリーはフランクさまに呼び出されて、今はこの部屋に居ない。
こんなふうに呼び出されたことがなかったから、余程のことなのかもしれないと慌てて出て行った。

ギルバートとマクスウェルは本来なら僕の…今では二匹の寛ぎの場所であるベッドでじゃれあってる。

小さい姿でキャッキャしている姿は、見ていてとても癒される。キラキラと輝くシルバーの毛並みが綺麗なギルバートと眩しいほどに曇りのないブロンドの髪が揺れるマクスウェルは僕たちが寮にいる時は、校舎にいる時よりも魔法の防御があるから心配ないと指輪には戻らない。

対面した最初の頃はマクスウェルの僕に対する視線は鋭いものがあったけれど、今では睨まれることはない。ギルバート曰く、マクスウェルはシャイなんだ。人見知りするから…可愛いジュリアンに、どういう態度をとって良いかわからなかったんだよ…だって。

マクスウェルが聞いていたら間違いなく怒りそうだけど、見ていると徐々に僕に対する態度が変わるのは、やはり人見知りなのかと思った。
それに、一番最初こそ睨まれたけどその鋭い視線は僕を敵視しているものではなく、観察しているようだった。僕がアシュリーの相手として相応しいかどうか見ていたのだろうか?

合格点がもらえたのだろうか…いつの頃からか僕にもその綺麗なブロンドの髪を撫でさせてくれるようになった。

カーテンは閉められてはいないけど、二匹の話す声は聞こえない。恐らく僕とアシュリーのように二匹だけで会話してるんだろう。

その時、ドアを叩く音がした。

僕たちの部屋には普段あまり訪問者は無い。ダレル、イーノック、ケントがたまに遊びに来るくらいだ。兄上も友だちを伴って時々来てくれる。

今日も誰かが遊びに来たのかなと、ドアを開けるとクラスメイトが立っていた。
その子の名前はガイ・テニエル。剣術大会の出場者の一人。ケント・テニエルの家の分家の息子だ。地方の伯爵家の長男とその分家の三男では上下関係があるのかクラスメイトであっても、ガイはケントに敬語を崩さなかった。
侯爵家の僕たちには普通に話しかけていたけど、ケントにだけは違った。

何をするにもケントが最優先で教授が出した課題よりもケントに頼まれたことの方がガイにとっては重要なことなのだと思う。

「ケントは来てないよ」

てっきりケントを探してここに来たのかと思った。ケントは決してガイに対して尊大に振る舞うことはなかった。けれど、ガイにとっては違うようだったから今日もケントに用事があるのだと思ったんだ。

「違う、ジュリアンに用事があって。ちょっと、来て」

ケントと同じはしばみ色の瞳がゆらゆら揺れている。同じ色でもこんなに印象が違うのかと思うくらいガイの瞳とケントの瞳は違った。
いつも僕に向けられるのは射殺すような鋭い視線だ。ケントは人懐っこい柔らかい印象があって、僕にもいつもニコニコと話しかけてくれる。

今のガイの瞳はいつもの激しさはないけれど、ぎこちない雰囲気で僕の方が落ち着かない。

何かあったのかな?
ガイは今まで僕に話しかけることはほとんどなかった。ケントに馴れ馴れしくするなと言われたことはあったけど、それも僕とはおしゃべりしたくないって顔に書いてあるくらい歪んだ顔だった。

みんなの態度が変わっても、ガイだけは変わらなかった。むしろ冷たくなった気がする。アシュリーと一緒にいる時にケントと話しているとその後ろに控えているガイからの睨みは鋭く、チッっと舌打ちする声がこちらまで響いてケントにたしなめられている時があるくらいだ。
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