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第五章
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大人しく僕のしたいようにさせてくれるギルバートに抱き付いてその毛に顔を埋める。マフラーを巻いているように見えるシルバーの髪はツヤツヤで凄く触り心地が良い。
きっとだらけた顔になってるよ。自覚はあるけど、こうしてると実家の庭で走り回ってた頃を思い出す。ひとしきりギルバートを撫で回していた僕は、もう言い争いが終わったようなので二人を見ると二人とも僕とギルバートを見てた。
そう言えば、僕の事で言い争いをしていたんだった…。
「あの…?」
「ほんと、可愛いな…やっぱり、俺のとこに来いよ」
「殿下、懲りないですね」
「お前、もうちょっと敬意を払えよ。学園にいる時も敵意むき出しって感じでさ、なんか恨みでもあんの?」
「いえ、ジュリアンに手紙を渡したことは正直、はらわた煮えくりかえる…いえ、…」
えっ…アシュリー知ってたの?上級生に手紙を渡された時、殿下の手紙も紛れてた。
他の手紙は全て見せたけど、殿下の手紙だけは何故か見せられなかった。
そこには普通に愛が語られていて、冗談だと思った。…いや、本当に揶揄われていると思ったのならアシュリーに見せていた。見せられなかったのは、そこに真剣さが見え隠れしてたから…。
「なんだよ?見たのか」
「見てませんよ…それに、恨みなどは、ありません。……」
「どうした?…歯切れが悪いな」
「いえ…」
「もしかしてさ…」
「はい?」
「いや……、良いや。それよりジュリアン、時々会いに来てくれないか?」
話が僕に振られて、ギルバートの陰から顔だけ出して殿下を見ると先ほどとは違う落ち着いた様子だった。
『アシュ、どうしよう?』
アシュリーを見ずに心で問えば、僕の側まで来てくれた。
『ジュリアンは会いたい?』
『正直、会いたくはないけど…これからも無関係ではいられないなら…アシュと一緒なら』
アシュリーを見ると、とても嬉しそうな笑顔だった。
『わかった、殿下がどう言うつもりかはわからないからな』
なかなか返事をしない僕に、不思議そうに僕たちを見る。
「来てくれないのか?」
「あの、アシュリーと一緒なら」
「ああ、仕方ないな。今度は後の二人も一緒に来いよ」
「発表されてから伺わせて頂きます」
「ああ、待ってるよ」
殿下は後の二人の事をアシュリーが知っているのをわかってる?僕も知りたいなと思うことはあるけれど、アシュリーが言わないのは必要ないからだ。
二人の間には微妙な空気が漂ってるけど、流石は注目を浴びながら成長されただけはある。切り替えも早い。
でも、ギルバートは指輪には戻っていないから、警戒しているのかもしれない。
「ジョナス殿下、お聞きしてもよろしいですか?」
「出来れば、そんな堅苦しくしないで欲しいけどな…」
「いえ…はい。あの…アシュリーとの同室は陛下がお許しになられたと言うのは本当なのですか?」
「まあ、そうだな。俺の気持ちとしては嫌だったけど…仕方ないさ」
嬉しい…国王陛下にお伺いを立ててまで僕との同室を考えていてくれたんだ。
『ありがとう、アシュリー』
『ジュリの魔力の暴走があった時に抑える必要があったから…当たり前さ。でも、ただ俺がジュリの側に居たかっただけなんだ』
あの時の僕はまだアシュリーには嫌われていると思ってたから、僕の事を真剣に考えていてくれてたんだと思うと嬉しいなんて言葉では言い尽くせない。
「ところで、近頃は色々と騒がしいと聞いていますが、何があったのですか?封印が弱っているのですか?」
三人でソファーに座り、出されたお茶を飲んでいる時にアシュリーが殿下に質問をする。勿論僕の隣はアシュリーで、殿下は向かいのソファー。
「それがわからないんだ。調べさせているけどな」
「もし、封印が解ければどうなるのですか?」
「いや、それは問題ないとは思うけど…」
「何ですか?殿下、何か知っておられるのですか?あの物語のようなことが起こるのですか?」
「封印は後十年は、持つ筈なんだけどな…。もしかしたら、もう少し早く出発しなきゃならないかもな…覚悟しておいてくれ」
「俺たちの在学中にもあり得るということですか?」
「勿論。必要であるなら、最優先事項である。国の存亡に関わることだ。それに、それが俺たちの生まれた意味だからな…」
少し哀しそうなこんな表情は今まで見たことなかった。多分同じ運命に生まれた僕たちにしか見せない、僕たちだから見せられる殿下の弱い部分なのかもしれない。
18年間一人で背負ってきたんだ。
大変だったと思う。何でもないことのように…なんてのはやはり表の顔で、裏では葛藤があったのだろう。
嫌がらずに、また殿下を訪ねてこよう。勿論、アシュリーと一緒に。
ジョナス殿下が「ちょっと良いか」とアシュリーと部屋の隅に行って何か話してる。
僕には聞かせたくない話なのか?まあ、必要ならアシュリーが教えてくれるだろう。
まだ大きいままのギルバートに抱き付いて二人が戻ってくるまで待った。
「ジュリアン、どうした?」
ギルバートが聞いてくれた。大きなギルバートは声も低くなって逞しさが倍増する。
「ううん、何でもない」
そうは言ったけど…、なんか嫌な感じがするんだ。
何かはわからないけど、邪悪な者の存在を感じる。それは昔話の中のそれではない。僕に向かう敵意…。僕に向かう悪意…。それは身近な存在であるような気がするんだ。嫌な感じはずっとしていたけれど、何が嫌なのかはわからなかった。
二人で寮の部屋に戻ったけれど、殿下に何を言われたのか、アシュリーは教えてくれなかった。
きっとだらけた顔になってるよ。自覚はあるけど、こうしてると実家の庭で走り回ってた頃を思い出す。ひとしきりギルバートを撫で回していた僕は、もう言い争いが終わったようなので二人を見ると二人とも僕とギルバートを見てた。
そう言えば、僕の事で言い争いをしていたんだった…。
「あの…?」
「ほんと、可愛いな…やっぱり、俺のとこに来いよ」
「殿下、懲りないですね」
「お前、もうちょっと敬意を払えよ。学園にいる時も敵意むき出しって感じでさ、なんか恨みでもあんの?」
「いえ、ジュリアンに手紙を渡したことは正直、はらわた煮えくりかえる…いえ、…」
えっ…アシュリー知ってたの?上級生に手紙を渡された時、殿下の手紙も紛れてた。
他の手紙は全て見せたけど、殿下の手紙だけは何故か見せられなかった。
そこには普通に愛が語られていて、冗談だと思った。…いや、本当に揶揄われていると思ったのならアシュリーに見せていた。見せられなかったのは、そこに真剣さが見え隠れしてたから…。
「なんだよ?見たのか」
「見てませんよ…それに、恨みなどは、ありません。……」
「どうした?…歯切れが悪いな」
「いえ…」
「もしかしてさ…」
「はい?」
「いや……、良いや。それよりジュリアン、時々会いに来てくれないか?」
話が僕に振られて、ギルバートの陰から顔だけ出して殿下を見ると先ほどとは違う落ち着いた様子だった。
『アシュ、どうしよう?』
アシュリーを見ずに心で問えば、僕の側まで来てくれた。
『ジュリアンは会いたい?』
『正直、会いたくはないけど…これからも無関係ではいられないなら…アシュと一緒なら』
アシュリーを見ると、とても嬉しそうな笑顔だった。
『わかった、殿下がどう言うつもりかはわからないからな』
なかなか返事をしない僕に、不思議そうに僕たちを見る。
「来てくれないのか?」
「あの、アシュリーと一緒なら」
「ああ、仕方ないな。今度は後の二人も一緒に来いよ」
「発表されてから伺わせて頂きます」
「ああ、待ってるよ」
殿下は後の二人の事をアシュリーが知っているのをわかってる?僕も知りたいなと思うことはあるけれど、アシュリーが言わないのは必要ないからだ。
二人の間には微妙な空気が漂ってるけど、流石は注目を浴びながら成長されただけはある。切り替えも早い。
でも、ギルバートは指輪には戻っていないから、警戒しているのかもしれない。
「ジョナス殿下、お聞きしてもよろしいですか?」
「出来れば、そんな堅苦しくしないで欲しいけどな…」
「いえ…はい。あの…アシュリーとの同室は陛下がお許しになられたと言うのは本当なのですか?」
「まあ、そうだな。俺の気持ちとしては嫌だったけど…仕方ないさ」
嬉しい…国王陛下にお伺いを立ててまで僕との同室を考えていてくれたんだ。
『ありがとう、アシュリー』
『ジュリの魔力の暴走があった時に抑える必要があったから…当たり前さ。でも、ただ俺がジュリの側に居たかっただけなんだ』
あの時の僕はまだアシュリーには嫌われていると思ってたから、僕の事を真剣に考えていてくれてたんだと思うと嬉しいなんて言葉では言い尽くせない。
「ところで、近頃は色々と騒がしいと聞いていますが、何があったのですか?封印が弱っているのですか?」
三人でソファーに座り、出されたお茶を飲んでいる時にアシュリーが殿下に質問をする。勿論僕の隣はアシュリーで、殿下は向かいのソファー。
「それがわからないんだ。調べさせているけどな」
「もし、封印が解ければどうなるのですか?」
「いや、それは問題ないとは思うけど…」
「何ですか?殿下、何か知っておられるのですか?あの物語のようなことが起こるのですか?」
「封印は後十年は、持つ筈なんだけどな…。もしかしたら、もう少し早く出発しなきゃならないかもな…覚悟しておいてくれ」
「俺たちの在学中にもあり得るということですか?」
「勿論。必要であるなら、最優先事項である。国の存亡に関わることだ。それに、それが俺たちの生まれた意味だからな…」
少し哀しそうなこんな表情は今まで見たことなかった。多分同じ運命に生まれた僕たちにしか見せない、僕たちだから見せられる殿下の弱い部分なのかもしれない。
18年間一人で背負ってきたんだ。
大変だったと思う。何でもないことのように…なんてのはやはり表の顔で、裏では葛藤があったのだろう。
嫌がらずに、また殿下を訪ねてこよう。勿論、アシュリーと一緒に。
ジョナス殿下が「ちょっと良いか」とアシュリーと部屋の隅に行って何か話してる。
僕には聞かせたくない話なのか?まあ、必要ならアシュリーが教えてくれるだろう。
まだ大きいままのギルバートに抱き付いて二人が戻ってくるまで待った。
「ジュリアン、どうした?」
ギルバートが聞いてくれた。大きなギルバートは声も低くなって逞しさが倍増する。
「ううん、何でもない」
そうは言ったけど…、なんか嫌な感じがするんだ。
何かはわからないけど、邪悪な者の存在を感じる。それは昔話の中のそれではない。僕に向かう敵意…。僕に向かう悪意…。それは身近な存在であるような気がするんだ。嫌な感じはずっとしていたけれど、何が嫌なのかはわからなかった。
二人で寮の部屋に戻ったけれど、殿下に何を言われたのか、アシュリーは教えてくれなかった。
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