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第四章
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「ほうっ…」
「国王陛下におかれましては、ご機嫌…」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶は良いよ」
やはり、対応も同じ。
「ネイトが今日はドレスを着るかもしれないと言っていたんだ。是非会いたいと思ってね」
ネイト・レッキーさまはアルシャント国の切れ者の宰相さまだ。
「その髪はウイッグだね?本物の髪も同じ色だと聞いたけど、小さな頃は違ったよね?」
「はい。学園に入学してから徐々に変わりました。今はほぼこのウイッグと同じです」
「そう。それでは御力を見せておくれ」
扉の所で控えている近衛兵に席を外すように命じられた。精悍な顔つきの二人は他の近衛兵とは肩のラインの色が違う。
国王陛下の色である紫を守るように、深緑のラインが両側に入る。陛下に仕える隊長である証だ。
「はい。畏まりました」
『アシュ、お願い』
『わかってる。今日はちゃんと支えるよ』
『信じてる。ありがとう』
癒す対象がないのに魔力を集めるのはまだ慣れない。しかし、昨日もしたけれど、アシュリーの力を借りなくてもそのくらいはできるようになった。昨日のはちょっとイレギュラーがあったけれど…。
掌にシルバーに輝く塊を掬うように乗せる。
「これは…」
「凄い…」
アシュリーの父君リンメルさまと兄君フランクさまが感嘆の声を漏らす。
「ブルーノ、良いか?」
陛下が父上に何かを確認するように聞かれている。
「陛下…、仕方ないですね。ジュリアン、陛下の仰るところに気を当てなさい。アシュリー…」
「腰がの、最近立っているのが辛い時がある」
陛下の後ろに周り、腰の辺りに手をかざす。アシュリーの手が肩に乗せられた。微かな冷たさは感じるけれど、セシリアや昨日の殿下のようにはわからない。腰が痛いと言うことは骨が原因なのだろうか?それなら僕は何も出来ないのではないだろうか?
その時、僕の右手の人差し指が温かくなり陛下の身体の奥が冷たく感じる。
「陛下、こちらを向いてくださいますか?」
「おお、こうか?」
僕の方を向いてくださり何故か両手を上げておられる。思わず笑いそうになり肩の力が抜けた。陛下の御前で知らずに緊張していたのだろう。
冷たく感じた所に意識を集中する。しかし、お腹全体に広がるその場所を特定できない。広範囲に広がるその場所は筋のようになっていて…腸なのかもしれない。その線をなぞるように手を動かした。
静かな部屋で、みんなの視線が僕の手に集まっているのがわかる。
「どうだ?」
「陛下、お腹の調子は如何ですか?」
「腰ではないのか?そうだな…良くはなかったな」
「今、腰は如何ですか?」
「腰か?」
伸ばしたり曲げたりしながらクネクネとコミカルな動きをして確かめておられる。
「……!痛くない」
「そうですか…申し訳ありません。原因まではわからないのです」
「いやいや、素晴らしいものを見せてもらった」
「本当に!」
リンメルさまが興奮して僕の手を握りしめる。痛いよ、アシュリー父君。
「父上、ジュリアンが困っています」
フランクさまが助けてくださった……。
「素晴らしい…」
今度はフランクさまの手に捕まえられる。なんだよ、助けてくれたんじゃないのか?アシュリー兄君。
「フランク、ジュリアンが困ってる」
クラレンス兄上が僕の手を取り、アシュリーの前まで連れて行ってくれた。腰を抱かれ、力が抜けそうになるのをアシュリーが支えてくれる。陛下の御前ではあるけれど、しばらくこうしていたい。
『アシュ、ありがとう』
『陛下は重篤な病…その初期段階だったのかもしれないな』
『そうかな?』
『今回、ジュリの魔力の消費が多いんだ。だから…。俺はジュリの変化しかわからないからな』
それからお茶の用意がされて、学生の四人は緊張の時間が…和やかに過ぎた。それからしばらくして、宰相さま自ら陛下のお迎えに来られた。
「ネイト、もう帰らなければならないのか?」
「左様でございます」
「お前は固いな」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「誰も褒めてなどいないぞ?」
「固い…私にとって最高の褒め言葉です」
「わかった、わかった。アシュリー、ジュリアン」
陛下に呼ばれ、二人で御前に並ぶ。
「アシュリー、先代のハーマンさまも聡明な方であった。そなたに任せておけば安心だな」
「ご存知なのですか?」
「訳あって…まあ、そなたはその訳も知っておろうがな…、あまり王宮にはお越しではなかったので、度々こちらに来てお話をお聞きしたんだ。…怒っているかい?」
「いえ…わたくしごときがそのようなことに口出しできるわけがありません。それに、先代は納得されていたと思います」
「そうか…そうだな。わたしの曾祖叔父になるんだ…。ハーマンさまには聞けなかった。いつもわたしを笑顔で迎えてくださり、それに甘えていたんだよ。わたしも若かったしね。晩年はジョナスの事を心配してくださってね、お優しい方だったよ」
陛下とアシュリーの会話は僕にはわからない内容だった。
「国王陛下におかれましては、ご機嫌…」
「ああ、そんな堅苦しい挨拶は良いよ」
やはり、対応も同じ。
「ネイトが今日はドレスを着るかもしれないと言っていたんだ。是非会いたいと思ってね」
ネイト・レッキーさまはアルシャント国の切れ者の宰相さまだ。
「その髪はウイッグだね?本物の髪も同じ色だと聞いたけど、小さな頃は違ったよね?」
「はい。学園に入学してから徐々に変わりました。今はほぼこのウイッグと同じです」
「そう。それでは御力を見せておくれ」
扉の所で控えている近衛兵に席を外すように命じられた。精悍な顔つきの二人は他の近衛兵とは肩のラインの色が違う。
国王陛下の色である紫を守るように、深緑のラインが両側に入る。陛下に仕える隊長である証だ。
「はい。畏まりました」
『アシュ、お願い』
『わかってる。今日はちゃんと支えるよ』
『信じてる。ありがとう』
癒す対象がないのに魔力を集めるのはまだ慣れない。しかし、昨日もしたけれど、アシュリーの力を借りなくてもそのくらいはできるようになった。昨日のはちょっとイレギュラーがあったけれど…。
掌にシルバーに輝く塊を掬うように乗せる。
「これは…」
「凄い…」
アシュリーの父君リンメルさまと兄君フランクさまが感嘆の声を漏らす。
「ブルーノ、良いか?」
陛下が父上に何かを確認するように聞かれている。
「陛下…、仕方ないですね。ジュリアン、陛下の仰るところに気を当てなさい。アシュリー…」
「腰がの、最近立っているのが辛い時がある」
陛下の後ろに周り、腰の辺りに手をかざす。アシュリーの手が肩に乗せられた。微かな冷たさは感じるけれど、セシリアや昨日の殿下のようにはわからない。腰が痛いと言うことは骨が原因なのだろうか?それなら僕は何も出来ないのではないだろうか?
その時、僕の右手の人差し指が温かくなり陛下の身体の奥が冷たく感じる。
「陛下、こちらを向いてくださいますか?」
「おお、こうか?」
僕の方を向いてくださり何故か両手を上げておられる。思わず笑いそうになり肩の力が抜けた。陛下の御前で知らずに緊張していたのだろう。
冷たく感じた所に意識を集中する。しかし、お腹全体に広がるその場所を特定できない。広範囲に広がるその場所は筋のようになっていて…腸なのかもしれない。その線をなぞるように手を動かした。
静かな部屋で、みんなの視線が僕の手に集まっているのがわかる。
「どうだ?」
「陛下、お腹の調子は如何ですか?」
「腰ではないのか?そうだな…良くはなかったな」
「今、腰は如何ですか?」
「腰か?」
伸ばしたり曲げたりしながらクネクネとコミカルな動きをして確かめておられる。
「……!痛くない」
「そうですか…申し訳ありません。原因まではわからないのです」
「いやいや、素晴らしいものを見せてもらった」
「本当に!」
リンメルさまが興奮して僕の手を握りしめる。痛いよ、アシュリー父君。
「父上、ジュリアンが困っています」
フランクさまが助けてくださった……。
「素晴らしい…」
今度はフランクさまの手に捕まえられる。なんだよ、助けてくれたんじゃないのか?アシュリー兄君。
「フランク、ジュリアンが困ってる」
クラレンス兄上が僕の手を取り、アシュリーの前まで連れて行ってくれた。腰を抱かれ、力が抜けそうになるのをアシュリーが支えてくれる。陛下の御前ではあるけれど、しばらくこうしていたい。
『アシュ、ありがとう』
『陛下は重篤な病…その初期段階だったのかもしれないな』
『そうかな?』
『今回、ジュリの魔力の消費が多いんだ。だから…。俺はジュリの変化しかわからないからな』
それからお茶の用意がされて、学生の四人は緊張の時間が…和やかに過ぎた。それからしばらくして、宰相さま自ら陛下のお迎えに来られた。
「ネイト、もう帰らなければならないのか?」
「左様でございます」
「お前は固いな」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「誰も褒めてなどいないぞ?」
「固い…私にとって最高の褒め言葉です」
「わかった、わかった。アシュリー、ジュリアン」
陛下に呼ばれ、二人で御前に並ぶ。
「アシュリー、先代のハーマンさまも聡明な方であった。そなたに任せておけば安心だな」
「ご存知なのですか?」
「訳あって…まあ、そなたはその訳も知っておろうがな…、あまり王宮にはお越しではなかったので、度々こちらに来てお話をお聞きしたんだ。…怒っているかい?」
「いえ…わたくしごときがそのようなことに口出しできるわけがありません。それに、先代は納得されていたと思います」
「そうか…そうだな。わたしの曾祖叔父になるんだ…。ハーマンさまには聞けなかった。いつもわたしを笑顔で迎えてくださり、それに甘えていたんだよ。わたしも若かったしね。晩年はジョナスの事を心配してくださってね、お優しい方だったよ」
陛下とアシュリーの会話は僕にはわからない内容だった。
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