天使のローブ

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
39 / 173
第四章

07

しおりを挟む
百年に一度、勇者の生まれ変わりがこの国に生まれる。

それは、建国の志を忘れないようにと北の山に住む神からのお導きであると国民は信じている。国民にとって近いようで遠い存在が勇者の生まれ変わりなのだ。

勇者のするべき役割はとしての封印と、この国の安寧のために尽くすこと。北の山に赴き、祭壇に手を合わせる…くらいの誰でもできるものだと思われている。僕もそう思ってた。

しかし、実のところこの話には続きがある。

ーーー王家と公爵家、侯爵家にはその続きの話が伝わっている。


五人の勇者は封印することには成功した。

成功したけれど邪悪な力が強すぎて、その封印では百年間しか保てないと言うことだった。百年経ち、封印が破られればまた同じようなことが起こってしまうだろう。
そこで北の山に住む神の力を借りて百年後、封印が解ける前に再び封印し、百年間の安寧を得るのである。
勿論、儀式なんかじゃない。きちんと封印できなければ、恐ろしいことになってしまう。

このことが国外に知られると百年の封印が弱まる時、或いは勇者の生まれ変わりが小さな時に狙われてしまう。図らずも、この二つの時期は同じなのだから細心の注意が必要なのだ。

極秘事項のこのことは王家と公爵家、侯爵家だけで守られてきた。百年ごとに繰り返される奇跡のお陰で、貴族同士の争いはほとんど起きない。
勇者の生まれ変わりは貴族にばかり生まれるのではない。大体は侯爵家に生まれるけれど、数百年に一度は庶民の中から生まれてくる時もある。昔はその家で育てられたけれど、国外の脅威が強くなるにつれて生まれてすぐに侯爵家に養子に入るようになった。
そのことは勿論極秘事項。誰からも漏れてはならない。昔は有無を言わさずに、生まれたら直ぐに母親から離されたそうだ。しかし、百年という月日は長く、時代やその親により対応は違うらしい。

誰のところに生まれるか?
そして五人の内、誰なのか?
それはわかるそうだ。どのようにわかるのかは教えてもらえなかった。僕も母上のお腹にいる時からミシェルの生まれ変わりだとわかっていたんだもんね。

国王からミシェルの名を賜ったと聞いた時、内側から魔力が湧いて出た。

絵本で読んだ時と何が違うのか、父上が僕に何か魔法を掛けたのかはわからないけれどその変化に驚いた。この国ではその五つの名は付けてはいけないとされているから、その意味がわからないほど子どもではなかった。

ただわからなかったのは昔話の中のミシェルは五人の勇者の中では唯一女性だった。その名を男の僕が…と思うと複雑な気持ちになった。僕はその時までは知らなかったけど、父上から初代さまは男性だったと聞き少し安心した。

そして、成人した時に教わると言う王家と公爵家、侯爵家に伝わる話を聞かされた。この溢れる魔力はそのためだったんだ、と理解した。

僕が勇者の生まれ変わり…。
じゃあ、ミネルヴァは誰なんだろう?マールクやメリクは?と少しは考えた。けれど、それほど重要なことではなかった。重要なことではないとは語弊がある…自分の事で精一杯なのだ。他の勇者の生まれ変わりが誰であるかは気にはなったけど、同級生とは聞いたけど、気にしてられなかった。

自分でどうすることも出来ない強い魔力は僕を疲れさせた。動揺する僕に父上は入学式の前に忘却の魔法をかけた。
魔力の暴走を抑え、〈ミシェル〉に関する記憶を一時的に忘れられるものだった。
他の勇者のことも、戸惑う気持ちも全て。

それはアシュリーに「ミシェル」と最初に囁かれた時に少し解け、「ミネルヴァ」と聞いた時に全ての暗示が解けた。

そして僕に蘇る初代ミシェルの記憶。

全てではない。
そこへ行くまでの道のりはどんなものだったのか?どのように戦ったのか?何故倒せなかったのか?封印の術式は?闇黒とはいったいどのような相手だったのか?

肝心の記憶はなかった。
ただ、強くミネルヴァを愛していたと僕に伝えている。離れたくなかったと伝える、

その切なさは自分の事のように感じ僕まで切なくなる。まるで、僕に今世ではミネルヴァを離さないでと訴えるように…。

自分ができなかったことを僕に託すように…。

「勇者の生まれ変わりたちはだいたい長寿なんだ。みんな、百歳前後まで生きる。そして、引き継ぐかのように次代の誕生と入れ替わりに死んでいくんだ。
どの家に誰が生まれてくるかはわからないけど、俺の家に先代のミネルヴァさまがいたんだ。その爺さんは更に長生きでさ、107歳まで頑張っちゃって、俺よく爺さんの部屋に遊びに行ってたんだ。
そん時は何も考えてなかったから爺さんに『お前は見つけたら大切にするんだぞ。わしの代わりにお前が幸せにしてやってくれ』って言われても何のことかわからなかった。
でも同じ人の生まれ変わりが同時に二人、同じ空間にいることが普通じゃなかったんだろうな…爺さんの記憶が俺に入ってくるんだ。それが初代さまの記憶か爺さんの記憶かわからない時もあったけど、ごちゃごちゃの記憶は俺がミネルヴァだと父上から教えられる前にわかってた」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

斯波良久BL短編集

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
アルファポリス未投稿BL短編をまとめたものです。 ※ムーンライトノベルスより転載

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...