天使のローブ

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
30 / 173
第三章

12

しおりを挟む
父上が待たれている部屋に入ると、母上とローザも一緒だった。

アシュリーは父上に型通りの挨拶をしている。父上は家族のようなものなんだからそんなに畏まらなくてもいいんだよと、リンメルさまが僕に対する態度と変わりなかった。
クラレンス兄上が報告すると言っていたけど、すんなり受け入れてもらえるか不安だったから安心した。

ローザとは小さい頃よく一緒に遊んだ。でも、その良く知っているはずのローザの眼がいつもとは違い怪しく光っているようで、思わずアシュリーの後ろに隠れてしまった。

ローザはそんな僕の態度に怒るでもなく、ますます瞳の光が増すようで…ますます怖くなる。

「初めまして、ローザ・グレネルです」
「初めまして、アシュリー・リンメル。今日はジュリアンをよろしく」
「あら、お任せあれ。何曲、踊ってもよろしくって?」
「一曲…二曲で」

僕を無視して会話が進んでいることに不安になり、ローザを見ると手巻きをする。

動かない僕に焦れて、強引に引っ張られた。

「昨日、ドレス着たんだって?」
「うん」
「今日は着ないの?」
「着ないよ!」
「あら、残念」

怖い。母上が二人いるようだ。

「伯母さまが仰ってたけど、来年のアシュリーの誕生パーティーにはドレス着るんだって?」
「えっ?母さま…しゃべっちゃったの?」
「しっかり、聞いたわよ」
「アシュリーの希望通り二曲で我慢したげるから、そのパーティーに招待してよね」
「誰か気になる子でもいるの?今日は来てないの?珍しいねローザ。僕が知ってる子なら、紹介してあげようか?ローザなら誰でも…」
「いゃあね、ジュリのドレス着た姿を見たいだけよ」

怖い。やっぱり母上が二人いる…。

水色の綺麗なパーティードレスは美しいドレープが優雅な雰囲気を醸し出している。そのドレスに身を包み、しゃべらなければ可愛いのに…。

五人で会場へ向かった。僕は仕方なくローザをエスコート。

『アシュ、ごめんね』
『仕方ないさ』
『ローザって、昔の印象と随分違うんだ…なんだか怖いよ』
『二曲だけ、踊っておいで。ちゃんと見てるから』
『アシュは?……』
踊らないの?見たくないのに、聞いてしまいそうになる。

『ジュリアンが踊るの見てるって言ったろ?』
『うん…』

ローザはきっちり二曲を踊って満足そうだ。

「楽しかったわ、来年もよろしくね。きっと、この役は安泰ね……ふふっ」
「ローザは良いの?他に踊りたい人がいたら…」
「あら、わたしはジュリの相手で満足よ?ジュリは嫌かしら?」

僕としても気心の知れたローザが相手なら良いけど…、意味深な含笑いがやっぱり怖かった。

新年の長期休暇は貴族にとって行事がたくさんあり忙しい。あっと言う間に学園に戻る日がやってくる。

セシリアは小さいながらも女の子で、フリフリのペチコートをこれでもかと覗かせて可愛いくヨチヨチ歩いてる。僕の事をちゃんとお兄ちゃんだと理解しているのかいつ抱っこしても泣かれることはなく、僕は上機嫌でセシリアとの別れを惜しみつつ寮に戻った。




休暇が終わりしばらくたった。このところ、アシュリーの機嫌が悪い。

「どうしたの?」と聞いても答えてくれない。こんなに不機嫌なアシュリーは初めてで、どうしていいかわからない。

僕が何かしたのだろうか?

「ちょっと相談があるんだ」

アシュリーが担任のバーンズ先生に呼ばれていない時にイーノックの部屋を訪ねた。同室の人は友だちの所に行っていていなかった。

「あの…この頃アシュリーが、なんだか怒ってて…。僕、何かしたのかな?わからないんだ」
「ああ、ジュリアン、この頃また手紙を渡されているでしょう?」
「うん」

二年生の時はクラスメイトからの手紙がほとんどで、たまに違うクラスの子もいたけど同級生からの手紙だった。

でも、休暇が明けてから上級生から手紙が届くようになった。いつの間にかローブのポケットに入っていたり、パタパタ僕の机まで飛んでくる手紙もある。寮の部屋は魔法で住人が招き入れた人や物しか入れないけれど教室はオープンな場所。それでも、授業により教室が違うのに、僕を追いかけてきてちょっと怖い。

「それ、どうしてます?」
「えっと、流石に上級生だね。文章も仕掛けられた魔法も、去年もらっていたものとは全然違って…」
「読んでいるのですね?」
「あっ、うん」
「ジュリアンはアシュリーが女からの手紙を隅から隅まで丁寧に読んでいたらどう思います?」
「嫌だな…。一度も封を開けた手紙を見たことないからきっと読んでないと思うけど、返事なんか書いてたら破いちゃうかも…」
「アシュリーも同じ気持ちなのですよ?」
「どう言うこと?」
「ジュリアンはその手紙の意味がわかりますか?」

僕も最近気付き始めた。
これはラブレターと言うものではないかと…。二年生の時の手紙には抽象的な表現で何が言いたいかがわからなかったけど、今回渡される手紙は直接的で、読んでて恥ずかしくなる内容のものまである。

「うん…最近気付いた」
「最近ですか…ジュリアンですね」

呆れながらも仕方ないですね、ジュリアンですから…と納得している。

「どうしたらいいの?」
「まずは、アシュリーに謝りなさい。それから、今後は手紙を見ないこと。魔法で送られてくるなら、魔法で防御もできるかもしれませんね。ジュリアンに受け取る意思があるから届くのです。拒絶すれば、直接手渡されない限り届かないかもしれませんね。俺は魔法は得意ではないので、アシュリーに相談しなさい」
「うん」
「アシュリーもわかっているのです。でも、やはり嫌なのでしょう」

頑張りなさいねと送り出してくれたイーノックと別れて部屋に帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

処理中です...