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第三章
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父上が待たれている部屋に入ると、母上とローザも一緒だった。
アシュリーは父上に型通りの挨拶をしている。父上は家族のようなものなんだからそんなに畏まらなくてもいいんだよと、リンメルさまが僕に対する態度と変わりなかった。
クラレンス兄上が報告すると言っていたけど、すんなり受け入れてもらえるか不安だったから安心した。
ローザとは小さい頃よく一緒に遊んだ。でも、その良く知っているはずのローザの眼がいつもとは違い怪しく光っているようで、思わずアシュリーの後ろに隠れてしまった。
ローザはそんな僕の態度に怒るでもなく、ますます瞳の光が増すようで…ますます怖くなる。
「初めまして、ローザ・グレネルです」
「初めまして、アシュリー・リンメル。今日はジュリアンをよろしく」
「あら、お任せあれ。何曲、踊ってもよろしくって?」
「一曲…二曲で」
僕を無視して会話が進んでいることに不安になり、ローザを見ると手巻きをする。
動かない僕に焦れて、強引に引っ張られた。
「昨日、ドレス着たんだって?」
「うん」
「今日は着ないの?」
「着ないよ!」
「あら、残念」
怖い。母上が二人いるようだ。
「伯母さまが仰ってたけど、来年のアシュリーの誕生パーティーにはドレス着るんだって?」
「えっ?母さま…しゃべっちゃったの?」
「しっかり、聞いたわよ」
「アシュリーの希望通り二曲で我慢したげるから、そのパーティーに招待してよね」
「誰か気になる子でもいるの?今日は来てないの?珍しいねローザ。僕が知ってる子なら、紹介してあげようか?ローザなら誰でも…」
「いゃあね、ジュリのドレス着た姿を見たいだけよ」
怖い。やっぱり母上が二人いる…。
水色の綺麗なパーティードレスは美しいドレープが優雅な雰囲気を醸し出している。そのドレスに身を包み、しゃべらなければ可愛いのに…。
五人で会場へ向かった。僕は仕方なくローザをエスコート。
『アシュ、ごめんね』
『仕方ないさ』
『ローザって、昔の印象と随分違うんだ…なんだか怖いよ』
『二曲だけ、踊っておいで。ちゃんと見てるから』
『アシュは?……』
踊らないの?見たくないのに、聞いてしまいそうになる。
『ジュリアンが踊るの見てるって言ったろ?』
『うん…』
ローザはきっちり二曲を踊って満足そうだ。
「楽しかったわ、来年もよろしくね。きっと、この役は安泰ね……ふふっ」
「ローザは良いの?他に踊りたい人がいたら…」
「あら、わたしはジュリの相手で満足よ?ジュリは嫌かしら?」
僕としても気心の知れたローザが相手なら良いけど…、意味深な含笑いがやっぱり怖かった。
新年の長期休暇は貴族にとって行事がたくさんあり忙しい。あっと言う間に学園に戻る日がやってくる。
セシリアは小さいながらも女の子で、フリフリのペチコートをこれでもかと覗かせて可愛いくヨチヨチ歩いてる。僕の事をちゃんとお兄ちゃんだと理解しているのかいつ抱っこしても泣かれることはなく、僕は上機嫌でセシリアとの別れを惜しみつつ寮に戻った。
休暇が終わりしばらくたった。このところ、アシュリーの機嫌が悪い。
「どうしたの?」と聞いても答えてくれない。こんなに不機嫌なアシュリーは初めてで、どうしていいかわからない。
僕が何かしたのだろうか?
「ちょっと相談があるんだ」
アシュリーが担任のバーンズ先生に呼ばれていない時にイーノックの部屋を訪ねた。同室の人は友だちの所に行っていていなかった。
「あの…この頃アシュリーが、なんだか怒ってて…。僕、何かしたのかな?わからないんだ」
「ああ、ジュリアン、この頃また手紙を渡されているでしょう?」
「うん」
二年生の時はクラスメイトからの手紙がほとんどで、たまに違うクラスの子もいたけど同級生からの手紙だった。
でも、休暇が明けてから上級生から手紙が届くようになった。いつの間にかローブのポケットに入っていたり、パタパタ僕の机まで飛んでくる手紙もある。寮の部屋は魔法で住人が招き入れた人や物しか入れないけれど教室はオープンな場所。それでも、授業により教室が違うのに、僕を追いかけてきてちょっと怖い。
「それ、どうしてます?」
「えっと、流石に上級生だね。文章も仕掛けられた魔法も、去年もらっていたものとは全然違って…」
「読んでいるのですね?」
「あっ、うん」
「ジュリアンはアシュリーが女からの手紙を隅から隅まで丁寧に読んでいたらどう思います?」
「嫌だな…。一度も封を開けた手紙を見たことないからきっと読んでないと思うけど、返事なんか書いてたら破いちゃうかも…」
「アシュリーも同じ気持ちなのですよ?」
「どう言うこと?」
「ジュリアンはその手紙の意味がわかりますか?」
僕も最近気付き始めた。
これはラブレターと言うものではないかと…。二年生の時の手紙には抽象的な表現で何が言いたいかがわからなかったけど、今回渡される手紙は直接的で、読んでて恥ずかしくなる内容のものまである。
「うん…最近気付いた」
「最近ですか…ジュリアンですね」
呆れながらも仕方ないですね、ジュリアンですから…と納得している。
「どうしたらいいの?」
「まずは、アシュリーに謝りなさい。それから、今後は手紙を見ないこと。魔法で送られてくるなら、魔法で防御もできるかもしれませんね。ジュリアンに受け取る意思があるから届くのです。拒絶すれば、直接手渡されない限り届かないかもしれませんね。俺は魔法は得意ではないので、アシュリーに相談しなさい」
「うん」
「アシュリーもわかっているのです。でも、やはり嫌なのでしょう」
頑張りなさいねと送り出してくれたイーノックと別れて部屋に帰った。
アシュリーは父上に型通りの挨拶をしている。父上は家族のようなものなんだからそんなに畏まらなくてもいいんだよと、リンメルさまが僕に対する態度と変わりなかった。
クラレンス兄上が報告すると言っていたけど、すんなり受け入れてもらえるか不安だったから安心した。
ローザとは小さい頃よく一緒に遊んだ。でも、その良く知っているはずのローザの眼がいつもとは違い怪しく光っているようで、思わずアシュリーの後ろに隠れてしまった。
ローザはそんな僕の態度に怒るでもなく、ますます瞳の光が増すようで…ますます怖くなる。
「初めまして、ローザ・グレネルです」
「初めまして、アシュリー・リンメル。今日はジュリアンをよろしく」
「あら、お任せあれ。何曲、踊ってもよろしくって?」
「一曲…二曲で」
僕を無視して会話が進んでいることに不安になり、ローザを見ると手巻きをする。
動かない僕に焦れて、強引に引っ張られた。
「昨日、ドレス着たんだって?」
「うん」
「今日は着ないの?」
「着ないよ!」
「あら、残念」
怖い。母上が二人いるようだ。
「伯母さまが仰ってたけど、来年のアシュリーの誕生パーティーにはドレス着るんだって?」
「えっ?母さま…しゃべっちゃったの?」
「しっかり、聞いたわよ」
「アシュリーの希望通り二曲で我慢したげるから、そのパーティーに招待してよね」
「誰か気になる子でもいるの?今日は来てないの?珍しいねローザ。僕が知ってる子なら、紹介してあげようか?ローザなら誰でも…」
「いゃあね、ジュリのドレス着た姿を見たいだけよ」
怖い。やっぱり母上が二人いる…。
水色の綺麗なパーティードレスは美しいドレープが優雅な雰囲気を醸し出している。そのドレスに身を包み、しゃべらなければ可愛いのに…。
五人で会場へ向かった。僕は仕方なくローザをエスコート。
『アシュ、ごめんね』
『仕方ないさ』
『ローザって、昔の印象と随分違うんだ…なんだか怖いよ』
『二曲だけ、踊っておいで。ちゃんと見てるから』
『アシュは?……』
踊らないの?見たくないのに、聞いてしまいそうになる。
『ジュリアンが踊るの見てるって言ったろ?』
『うん…』
ローザはきっちり二曲を踊って満足そうだ。
「楽しかったわ、来年もよろしくね。きっと、この役は安泰ね……ふふっ」
「ローザは良いの?他に踊りたい人がいたら…」
「あら、わたしはジュリの相手で満足よ?ジュリは嫌かしら?」
僕としても気心の知れたローザが相手なら良いけど…、意味深な含笑いがやっぱり怖かった。
新年の長期休暇は貴族にとって行事がたくさんあり忙しい。あっと言う間に学園に戻る日がやってくる。
セシリアは小さいながらも女の子で、フリフリのペチコートをこれでもかと覗かせて可愛いくヨチヨチ歩いてる。僕の事をちゃんとお兄ちゃんだと理解しているのかいつ抱っこしても泣かれることはなく、僕は上機嫌でセシリアとの別れを惜しみつつ寮に戻った。
休暇が終わりしばらくたった。このところ、アシュリーの機嫌が悪い。
「どうしたの?」と聞いても答えてくれない。こんなに不機嫌なアシュリーは初めてで、どうしていいかわからない。
僕が何かしたのだろうか?
「ちょっと相談があるんだ」
アシュリーが担任のバーンズ先生に呼ばれていない時にイーノックの部屋を訪ねた。同室の人は友だちの所に行っていていなかった。
「あの…この頃アシュリーが、なんだか怒ってて…。僕、何かしたのかな?わからないんだ」
「ああ、ジュリアン、この頃また手紙を渡されているでしょう?」
「うん」
二年生の時はクラスメイトからの手紙がほとんどで、たまに違うクラスの子もいたけど同級生からの手紙だった。
でも、休暇が明けてから上級生から手紙が届くようになった。いつの間にかローブのポケットに入っていたり、パタパタ僕の机まで飛んでくる手紙もある。寮の部屋は魔法で住人が招き入れた人や物しか入れないけれど教室はオープンな場所。それでも、授業により教室が違うのに、僕を追いかけてきてちょっと怖い。
「それ、どうしてます?」
「えっと、流石に上級生だね。文章も仕掛けられた魔法も、去年もらっていたものとは全然違って…」
「読んでいるのですね?」
「あっ、うん」
「ジュリアンはアシュリーが女からの手紙を隅から隅まで丁寧に読んでいたらどう思います?」
「嫌だな…。一度も封を開けた手紙を見たことないからきっと読んでないと思うけど、返事なんか書いてたら破いちゃうかも…」
「アシュリーも同じ気持ちなのですよ?」
「どう言うこと?」
「ジュリアンはその手紙の意味がわかりますか?」
僕も最近気付き始めた。
これはラブレターと言うものではないかと…。二年生の時の手紙には抽象的な表現で何が言いたいかがわからなかったけど、今回渡される手紙は直接的で、読んでて恥ずかしくなる内容のものまである。
「うん…最近気付いた」
「最近ですか…ジュリアンですね」
呆れながらも仕方ないですね、ジュリアンですから…と納得している。
「どうしたらいいの?」
「まずは、アシュリーに謝りなさい。それから、今後は手紙を見ないこと。魔法で送られてくるなら、魔法で防御もできるかもしれませんね。ジュリアンに受け取る意思があるから届くのです。拒絶すれば、直接手渡されない限り届かないかもしれませんね。俺は魔法は得意ではないので、アシュリーに相談しなさい」
「うん」
「アシュリーもわかっているのです。でも、やはり嫌なのでしょう」
頑張りなさいねと送り出してくれたイーノックと別れて部屋に帰った。
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