3 / 173
プロローグ
02
しおりを挟む
「ジュリ!」
見事噴水に落っこちた。
あれはドレスが悪いんだ!
僕が鈍臭いからじゃない!
「ジュリ、大丈夫か?」
「はい…」
直ぐに抱き上げて助けられたけど、全身濡れてしまった。
日差しが暖かくなってきたとはいえ、ほっておいたら風邪をひく。クラレンス兄上は自分もずぶ濡れのまま僕を抱いてコテージに入り、濡れて重くなったドレスをルシアン兄上が脱がせてくれた。
僕を助けてくれたクラレンス兄上も濡れた服を次々脱いでいく。競争のように服を脱ぎ、兄上の裸の身体を見た時に衝撃が走った。
「わたしと同じ…」
「そうだ。同じだよ」
「ジュリアンは男の子だから」
「男の子……。じゃあ、ドレスは着ないの?」
「普通は着ない」
そして、盗み聞きしたあの時のことが頭をよぎりパニックになった僕は自分から意識を手放した。
目覚めた時は自分の部屋で、どのくらいの時間が経ったのかはわからなかった。
相変わらずフリルとリボンで埋め尽くされた見慣れた部屋は、窓から夕焼けが見えた。
寝かされていたベッドの天蓋は薄いカーテン…勿論ピンクの…が下ろされていて、僕の部屋じゃ見たことない人数の来客が薄いカーテンの陰から見える。
気を失う前の記憶が段々と戻り、今の自分の着ているものを見てみると、やはりいつもの無駄にフリフリしている寝間着だった。
きっとこれも『男』なら着ないんだ。
じゃあ何故、僕はこれを着てるのか?兄上や父上は髪もそんなに長くない。
きっとこんなに長くてくるくるしてないのだ……、『男』なら。
相当混乱していた僕の脳は、それでも再び気絶という選択をしてくれなかった。
いつまでも気付いてしまった異常なことに従っているのは耐えられない。兄上たちと同じようにズボンをはいて、髪を切り颯爽と庭の橋を渡りたい。噴水の縁を駆け回りたい。
もそもそと動き出したのがわかったのか父上の声が聞こえた。
「ジュリアン、目覚めたのか?」
「はい。あっ、待って下さい。着替えを持って来てもらってもよろしいですか?」
父上相手だと緊張する。
父上は僕とはあまり話したりしない。嫌われているのかもしれない。男の子が女の子の格好をしていたのだ。
ああ、それで…嫌われていたのかもしれない。
ボタンにかけていた手が止まり、溢れる涙を拭った。
「…ぐっ…うっ…」
カーテンの向こうには悟られまいと、圧し殺す嗚咽はくぐもったものとなり、余計に響いてしまったようだ。
「どうした?どこか痛いのか?水に落ちた時にどこか打ったのか?それとも気分が悪いのか?」
心配そうな父上の声色はいつもの威厳あるものではなく、親しみを感じられて嬉しかった。
嬉しかったから余計に涙が止まらない。
感情が上手くコントロール出来なくて、もう耐えることもできなくて大きな声で泣き出した僕の側に三人の兄上がカーテンを上げて入ってきた。
「どうした?」
「ジュリアン、大丈夫か?」
「熱は…ないみたいだな」
僕の腕を持って突っ伏している身体を起こし、おでこに手を当てたクラレンス兄上は安堵のため息を漏らした。
兄上たちの顔を見ると少し落ち着いてきた僕は兄上に訴えた。
「兄さまと同じ服が着たい。髪を切りたい。わたし…嫌われるの嫌だ」
また溢れそうになる涙を兄上が優しく拭いて、背中を撫でてくれた。
「ジュリアン、誰に嫌われてるの?」
クラレンス兄上が優しく聞いてくれるので、言ってもいいのだろうかと兄上を見ると頷いてくれた。
ちろりと父上を見て、視線をそらして…父上を指差した。
「わたしは嫌ってなどいないぞ!」
慌てたような父上の声はどこか芝居がかっていて…その時の僕はそう思った…信じられなかった。
「わたし、男の子なんだよね?」
「そうだよ」
優しいクラレンス兄上はどこまでも優しく僕の頭を撫でる。
「わたしの事、嫌いになる?」
また涙が出そうになるのがわかったのか、直ぐに三人の、いや…父上を入れて四人の否定の言葉が部屋に響いた。
「「「「大好きだよ!」」」」
見事噴水に落っこちた。
あれはドレスが悪いんだ!
僕が鈍臭いからじゃない!
「ジュリ、大丈夫か?」
「はい…」
直ぐに抱き上げて助けられたけど、全身濡れてしまった。
日差しが暖かくなってきたとはいえ、ほっておいたら風邪をひく。クラレンス兄上は自分もずぶ濡れのまま僕を抱いてコテージに入り、濡れて重くなったドレスをルシアン兄上が脱がせてくれた。
僕を助けてくれたクラレンス兄上も濡れた服を次々脱いでいく。競争のように服を脱ぎ、兄上の裸の身体を見た時に衝撃が走った。
「わたしと同じ…」
「そうだ。同じだよ」
「ジュリアンは男の子だから」
「男の子……。じゃあ、ドレスは着ないの?」
「普通は着ない」
そして、盗み聞きしたあの時のことが頭をよぎりパニックになった僕は自分から意識を手放した。
目覚めた時は自分の部屋で、どのくらいの時間が経ったのかはわからなかった。
相変わらずフリルとリボンで埋め尽くされた見慣れた部屋は、窓から夕焼けが見えた。
寝かされていたベッドの天蓋は薄いカーテン…勿論ピンクの…が下ろされていて、僕の部屋じゃ見たことない人数の来客が薄いカーテンの陰から見える。
気を失う前の記憶が段々と戻り、今の自分の着ているものを見てみると、やはりいつもの無駄にフリフリしている寝間着だった。
きっとこれも『男』なら着ないんだ。
じゃあ何故、僕はこれを着てるのか?兄上や父上は髪もそんなに長くない。
きっとこんなに長くてくるくるしてないのだ……、『男』なら。
相当混乱していた僕の脳は、それでも再び気絶という選択をしてくれなかった。
いつまでも気付いてしまった異常なことに従っているのは耐えられない。兄上たちと同じようにズボンをはいて、髪を切り颯爽と庭の橋を渡りたい。噴水の縁を駆け回りたい。
もそもそと動き出したのがわかったのか父上の声が聞こえた。
「ジュリアン、目覚めたのか?」
「はい。あっ、待って下さい。着替えを持って来てもらってもよろしいですか?」
父上相手だと緊張する。
父上は僕とはあまり話したりしない。嫌われているのかもしれない。男の子が女の子の格好をしていたのだ。
ああ、それで…嫌われていたのかもしれない。
ボタンにかけていた手が止まり、溢れる涙を拭った。
「…ぐっ…うっ…」
カーテンの向こうには悟られまいと、圧し殺す嗚咽はくぐもったものとなり、余計に響いてしまったようだ。
「どうした?どこか痛いのか?水に落ちた時にどこか打ったのか?それとも気分が悪いのか?」
心配そうな父上の声色はいつもの威厳あるものではなく、親しみを感じられて嬉しかった。
嬉しかったから余計に涙が止まらない。
感情が上手くコントロール出来なくて、もう耐えることもできなくて大きな声で泣き出した僕の側に三人の兄上がカーテンを上げて入ってきた。
「どうした?」
「ジュリアン、大丈夫か?」
「熱は…ないみたいだな」
僕の腕を持って突っ伏している身体を起こし、おでこに手を当てたクラレンス兄上は安堵のため息を漏らした。
兄上たちの顔を見ると少し落ち着いてきた僕は兄上に訴えた。
「兄さまと同じ服が着たい。髪を切りたい。わたし…嫌われるの嫌だ」
また溢れそうになる涙を兄上が優しく拭いて、背中を撫でてくれた。
「ジュリアン、誰に嫌われてるの?」
クラレンス兄上が優しく聞いてくれるので、言ってもいいのだろうかと兄上を見ると頷いてくれた。
ちろりと父上を見て、視線をそらして…父上を指差した。
「わたしは嫌ってなどいないぞ!」
慌てたような父上の声はどこか芝居がかっていて…その時の僕はそう思った…信じられなかった。
「わたし、男の子なんだよね?」
「そうだよ」
優しいクラレンス兄上はどこまでも優しく僕の頭を撫でる。
「わたしの事、嫌いになる?」
また涙が出そうになるのがわかったのか、直ぐに三人の、いや…父上を入れて四人の否定の言葉が部屋に響いた。
「「「「大好きだよ!」」」」
0
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
スイート・スパイシースイート
鈴紐屋 小説:恋川春撒 絵・漫画:せつ
BL
佐藤裕一郎は経営してるカレー屋から自宅への帰り道、店の近くの薬品ラボに勤める研究オタクの竹川琢を不良から助ける。そしたら何か懐かれちまって…? ※大丈夫っ(笑)この小説はBLです。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる