天使のローブ

茉莉花 香乃

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プロローグ

02

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「ジュリ!」

見事噴水に落っこちた。

あれはドレスが悪いんだ!
僕が鈍臭いからじゃない!

「ジュリ、大丈夫か?」
「はい…」

直ぐに抱き上げて助けられたけど、全身濡れてしまった。

日差しが暖かくなってきたとはいえ、ほっておいたら風邪をひく。クラレンス兄上は自分もずぶ濡れのまま僕を抱いてコテージに入り、濡れて重くなったドレスをルシアン兄上が脱がせてくれた。

僕を助けてくれたクラレンス兄上も濡れた服を次々脱いでいく。競争のように服を脱ぎ、兄上の裸の身体を見た時に衝撃が走った。

「わたしと同じ…」
「そうだ。同じだよ」
「ジュリアンは男の子だから」
「男の子……。じゃあ、ドレスは着ないの?」
「普通は着ない」

そして、盗み聞きしたあの時のことが頭をよぎりパニックになった僕は自分から意識を手放した。

目覚めた時は自分の部屋で、どのくらいの時間が経ったのかはわからなかった。

相変わらずフリルとリボンで埋め尽くされた見慣れた部屋は、窓から夕焼けが見えた。

寝かされていたベッドの天蓋は薄いカーテン…勿論ピンクの…が下ろされていて、僕の部屋じゃ見たことない人数の来客が薄いカーテンの陰から見える。

気を失う前の記憶が段々と戻り、今の自分の着ているものを見てみると、やはりいつもの無駄にフリフリしている寝間着だった。

きっとこれも『男』なら着ないんだ。

じゃあ何故、僕はこれを着てるのか?兄上や父上は髪もそんなに長くない。

きっとこんなに長くてくるくるしてないのだ……、『男』なら。

相当混乱していた僕の脳は、それでも再び気絶という選択をしてくれなかった。

いつまでも気付いてしまった異常なことに従っているのは耐えられない。兄上たちと同じようにズボンをはいて、髪を切り颯爽と庭の橋を渡りたい。噴水の縁を駆け回りたい。

もそもそと動き出したのがわかったのか父上の声が聞こえた。

「ジュリアン、目覚めたのか?」
「はい。あっ、待って下さい。着替えを持って来てもらってもよろしいですか?」

父上相手だと緊張する。

父上は僕とはあまり話したりしない。嫌われているのかもしれない。男の子が女の子の格好をしていたのだ。

ああ、それで…嫌われていたのかもしれない。

ボタンにかけていた手が止まり、溢れる涙を拭った。

「…ぐっ…うっ…」

カーテンの向こうには悟られまいと、圧し殺す嗚咽はくぐもったものとなり、余計に響いてしまったようだ。

「どうした?どこか痛いのか?水に落ちた時にどこか打ったのか?それとも気分が悪いのか?」

心配そうな父上の声色はいつもの威厳あるものではなく、親しみを感じられて嬉しかった。
嬉しかったから余計に涙が止まらない。

感情が上手くコントロール出来なくて、もう耐えることもできなくて大きな声で泣き出した僕の側に三人の兄上がカーテンを上げて入ってきた。

「どうした?」
「ジュリアン、大丈夫か?」
「熱は…ないみたいだな」

僕の腕を持って突っ伏している身体を起こし、おでこに手を当てたクラレンス兄上は安堵のため息を漏らした。

兄上たちの顔を見ると少し落ち着いてきた僕は兄上に訴えた。

「兄さまと同じ服が着たい。髪を切りたい。わたし…嫌われるの嫌だ」

また溢れそうになる涙を兄上が優しく拭いて、背中を撫でてくれた。

「ジュリアン、誰に嫌われてるの?」

クラレンス兄上が優しく聞いてくれるので、言ってもいいのだろうかと兄上を見ると頷いてくれた。

ちろりと父上を見て、視線をそらして…父上を指差した。

「わたしは嫌ってなどいないぞ!」

慌てたような父上の声はどこか芝居がかっていて…その時の僕はそう思った…信じられなかった。

「わたし、男の子なんだよね?」
「そうだよ」

優しいクラレンス兄上はどこまでも優しく僕の頭を撫でる。

「わたしの事、嫌いになる?」

また涙が出そうになるのがわかったのか、直ぐに三人の、いや…父上を入れて四人の否定の言葉が部屋に響いた。

「「「「大好きだよ!」」」」
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