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第一章
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「それだけ?」
「碧空く…大沢くんと牧野くんに嫌な思いさせて、申し訳ないなって…」
「えっ?俺?嫌なって?」
「だって、牧野くんが僕なんかと噂になったら嫌でしょ?ごめんね。邪魔するつもりなんてないから…」
「邪魔って?」
「だって……二人は…その…付き合っ…」
「俺たちはそんな怪しい関係じゃないから!鳥肌たった!」
そうなんだ。
未だに僕の腕を持たれているから、流れる涙を眼鏡を外して拭くことができない。
眼鏡も取りたくない。少しだけずらして隙間からなんとか涙を拭った。
「どうして泣いてるの?」
「わ、わからない」
「…あのさ、話変わるけど、俺たちどこかで会ったことある?」
「な、ないです!」
「眼鏡、取ってみてよ」
「嫌です!」
「即答かよ」
「…はい」
「じゃあさ、お詫びしてよ」
「お詫び?」
「そう、迷惑…は掛けられてないけどそのお詫び。一緒にご飯食べよ?」
「で、でも、噂が…」
「俺がここで一緒に食べるよ。智親は食堂行けばいい」
料理を作る僕のすぐ後ろで、碧空くんが見てる。緊張する。
「何か手伝おうか?」
「えっ、いえ…じゃあ…」
アボカドを渡した。躊躇うことなく切り込みを入れて種を取り皮をむく。その手つきはいつも料理を作っているみたいだ。今日はミートパイを作る予定だったから下拵えはしていた。
「俺も食べたい。凄くいい匂いしてきた。一口だけでも食べたい!」
そんなにミートパイが食べたかったのか?牧野くんはなんでもいっぱい食べてくれるし、美味しいって言ってくれる。やっぱり誰かに美味しいって言ってもらえると作り甲斐があるよね。
パイの焼ける香ばしい香がリビングにまで広がる。ミートパイと具沢山のスープとアボカドとトマトが乗ったグリーンサラダを山盛りにしてテーブルに運んだ。
「なんで俺だけ?碧空も来いよ」
「安田くん、一人で食べるの可哀想だろ?」
「そんな…僕は一人でも…」
いいからと片目をつむり人差し指を口に当てる。何キザなことをしてくれるんだ。でも、嫌味な感じは全然しなかった。
「ほら、噂、払拭して来いよ」
「別にいいし…」
「お前のファンが泣くぞ?」
「そんなのいない…。俺と噂になるより碧空と噂になる方がダメなんじゃないか?」
「ここ、俺の部屋じゃないし…大丈夫だろ?」
「そんないい加減な。迷惑するのは安田だぞ?」
「だから、大丈夫だって。お前が黙っててくれたら俺がここで食べてるの誰も知らないんだから」
しばらく言い争いのようなやり取りの後、牧野くんは渋々出て行った。ミートパイを一切れ置いといてと念を押して…。そんなにミートパイが好きなのか?
二人では食べきれないと思っていたけど、碧空くんはいっぱい食べてくれた。初めに切り分けて残しておいて良かった。じゃないと全部食べてしまいそうな勢いがあった。
「ごちそうさま。美味しかったよ…あいつ…こんな料理食べてたのか?だから食堂行くの嫌がったんだな」
後の方はブツブツと独り言のようで何を言ってるのかわからなかったけど、美味しかったのなら良かった。
「何淹れよう?コーヒー?紅茶?」
「俺がするよ」
「でも…」
お客様にキッチンに立たれると落ち着かない僕は、もはや主父なのか?
「片付けも手伝うからさ」
引いてくれない碧空くんに仕方ないから一緒に片付けをした。
「碧空く…大沢くんと牧野くんに嫌な思いさせて、申し訳ないなって…」
「えっ?俺?嫌なって?」
「だって、牧野くんが僕なんかと噂になったら嫌でしょ?ごめんね。邪魔するつもりなんてないから…」
「邪魔って?」
「だって……二人は…その…付き合っ…」
「俺たちはそんな怪しい関係じゃないから!鳥肌たった!」
そうなんだ。
未だに僕の腕を持たれているから、流れる涙を眼鏡を外して拭くことができない。
眼鏡も取りたくない。少しだけずらして隙間からなんとか涙を拭った。
「どうして泣いてるの?」
「わ、わからない」
「…あのさ、話変わるけど、俺たちどこかで会ったことある?」
「な、ないです!」
「眼鏡、取ってみてよ」
「嫌です!」
「即答かよ」
「…はい」
「じゃあさ、お詫びしてよ」
「お詫び?」
「そう、迷惑…は掛けられてないけどそのお詫び。一緒にご飯食べよ?」
「で、でも、噂が…」
「俺がここで一緒に食べるよ。智親は食堂行けばいい」
料理を作る僕のすぐ後ろで、碧空くんが見てる。緊張する。
「何か手伝おうか?」
「えっ、いえ…じゃあ…」
アボカドを渡した。躊躇うことなく切り込みを入れて種を取り皮をむく。その手つきはいつも料理を作っているみたいだ。今日はミートパイを作る予定だったから下拵えはしていた。
「俺も食べたい。凄くいい匂いしてきた。一口だけでも食べたい!」
そんなにミートパイが食べたかったのか?牧野くんはなんでもいっぱい食べてくれるし、美味しいって言ってくれる。やっぱり誰かに美味しいって言ってもらえると作り甲斐があるよね。
パイの焼ける香ばしい香がリビングにまで広がる。ミートパイと具沢山のスープとアボカドとトマトが乗ったグリーンサラダを山盛りにしてテーブルに運んだ。
「なんで俺だけ?碧空も来いよ」
「安田くん、一人で食べるの可哀想だろ?」
「そんな…僕は一人でも…」
いいからと片目をつむり人差し指を口に当てる。何キザなことをしてくれるんだ。でも、嫌味な感じは全然しなかった。
「ほら、噂、払拭して来いよ」
「別にいいし…」
「お前のファンが泣くぞ?」
「そんなのいない…。俺と噂になるより碧空と噂になる方がダメなんじゃないか?」
「ここ、俺の部屋じゃないし…大丈夫だろ?」
「そんないい加減な。迷惑するのは安田だぞ?」
「だから、大丈夫だって。お前が黙っててくれたら俺がここで食べてるの誰も知らないんだから」
しばらく言い争いのようなやり取りの後、牧野くんは渋々出て行った。ミートパイを一切れ置いといてと念を押して…。そんなにミートパイが好きなのか?
二人では食べきれないと思っていたけど、碧空くんはいっぱい食べてくれた。初めに切り分けて残しておいて良かった。じゃないと全部食べてしまいそうな勢いがあった。
「ごちそうさま。美味しかったよ…あいつ…こんな料理食べてたのか?だから食堂行くの嫌がったんだな」
後の方はブツブツと独り言のようで何を言ってるのかわからなかったけど、美味しかったのなら良かった。
「何淹れよう?コーヒー?紅茶?」
「俺がするよ」
「でも…」
お客様にキッチンに立たれると落ち着かない僕は、もはや主父なのか?
「片付けも手伝うからさ」
引いてくれない碧空くんに仕方ないから一緒に片付けをした。
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