撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

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華綻ぶは撫子

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飛香舎ひぎょうしゃ(藤壺)に行くのが楽しみだ。

帝と撫子の仲睦まじい姿を見ていると『強引でも、入内させて良かった』と思う。

ただ、撫子を見ていると、押し倒したい衝動が『ふっ』っとした時に現れて困ってしまう。『あれは娘だ』と自分に云い聞かせて気持ちを落ち着ける。

女御さまがたのお渡りがプツリとなくなり、近頃は帝が飛香舎にお渡りになられている。六条大納言が物云いたげに睨んでくるが、相手にしないようにしている。

今日は撫子から「お願いしたいことがあるので、飛香舎にお越し下さい」と連絡があった。
お願いと云えば、里下がりや殿舎を移りたいなど云っていたが帝とあんなに仲睦まじいので、それではないだろう。

部屋に入ると人払いしてあるのか、女房が戸を閉めて退出した。

『えっ、二人きり?それは困る。間違いを起こしてしまう』と思ったが、
「兼道、悪かったね」

帝が主座に座られて、撫子が側に控えていた。

『はっ』っと安堵の吐息をもらした。

「や、如何されたのですか?」
「折り入って、頼みたいことがあってね。撫子…」
「はい…」

撫子が手を付いて深々と頭を垂れている。

「そのような、おやめ下さい」
「いえ、謝らなければならないことがあります」

そこまで云って黙ってしまわれた。

「女御さま?…なんでも仰って下さい」
「…わたしは父上…いえ、右大臣さまの本当の娘ではないのです」
「えっ…?それは…」
「わたしは女でもないのです。今まで騙していて申し訳ございません」

言葉にはならない。

それで…得心がいった。

わたしが間違いを起こしてしまいそうになるのは、仕方のないことだったのだ。

怒りより、納得の方が先にきた。

「怒らないでおくれ…わたしからも頼むよ」
「えっ、主上はご存知で?」
「後宮に出仕した時から、気付いていたよ」
「はあ…」

撫子は相変わらず深く頭を下げている。

「ちょっと待って下さい。では、本当の娘はどこに?今、目の前にいる女御さまは誰ですか?主上は…えっとご存知でも…それでも良いと?えっ?!ええっ?!…こちらにお渡りになられていたのは…」

混乱している頭では上手く言葉も出てこない。
撫子は一瞬上げた顔が紅く染まり、また額がつくくらい項垂れて震えてしまった。倒れてしまいそうだ。

「兼道に感謝しているんだ。わたしはこの人を愛している。だからどうか、撫子を叱らないで」

帝が労わるように撫子の背中をさすっていらっしゃる。

「とりあえず、わかるように話をして頂けますか?」
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