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恋の駆け引きなんて知りません
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
今日も東宮たちが飛香舎(藤壺)にお見えになった。
ただ、いつもと違うのは二の宮の機嫌が悪いのだ。東宮は二の宮がお昼寝の時などたまに一人で飛香舎を訪れてはひとしきり甘えて帰られる。
いつもは弟君に弱いところを見せまいとして気丈に振舞われているけれど、まだ誰かに甘えたいのだろう。
今日も二の宮のお昼寝の間にこちらに向かわれる途中で二の宮が目を覚まされたらしい。ぐずぐずとわたしに抱きつき寝てしまわれた。
几帳の陰に二の宮を横たえて、東宮を見るとこちらも眠そうだ。二の宮の隣で東宮とひそひそと話しているとウトウト…眠ってしまわれた。
藤式部が梨壺の女房を呼びに行っている間、云っておかなければならない事を桔梗と日向に告げた。
『何も聞かずに里下がりをお許し下さい。わたくしを三条邸へ連れて帰って下さい』
桔梗にも日向にも云えなかった本音に、控えていた二人が驚いていた。
毎夜毎夜誰かが清涼殿に渡って行くのはもう耐えられない。
二人はわたしの気持ちに気付いていたのかわたしが云えなかった続きの言葉を代わりに父上に伝えてくれた事は嬉しかった。
「桔梗、日向…本当は云うつもりじゃなかったんだけど…わたしは主上が好きになってしまったんだ。誰かと一緒に夜を過ごして、涼しい顔をして飛香舎にいらっしゃる主上を見ていられない」
「気付いてましたわ」
日向が桔梗と顔を合わせて云ってくる。やはり…。
「……」
「だって、結構分かりやすかったわよ」
「桔梗…」
「主上が、秘密を知っていながら右大臣さまにも誰にも、何故仰らないかは正直わからないけど、まんざらでもないんじゃないかな」
「そんなことないよ。だって…」
…男だよ。
小さい声で云う。
「本当なら、あの時にお役御免になってたはずでしょ?そもそも、結婚の儀式の時にわたしたちの命は終わっていたはずだったのよ」
そうなのだ。
わたしは何故今も後宮にいるのか?
それは帝が男と知りながら撫子を追い出さないから。
「なんでかな?」
「分からないわ。でも、女御さまに興味を持たれてるのは確かね」
「そうですね。右近の少将さまが来られたら、必ず主上も顔を出されて…あれ、嫉妬じゃないかしら」
飛香舎から笛の音が聴こえたら帝もふいにいらっしゃる。
でも、
「嫉妬なんてないよ」
今日も東宮たちが飛香舎(藤壺)にお見えになった。
ただ、いつもと違うのは二の宮の機嫌が悪いのだ。東宮は二の宮がお昼寝の時などたまに一人で飛香舎を訪れてはひとしきり甘えて帰られる。
いつもは弟君に弱いところを見せまいとして気丈に振舞われているけれど、まだ誰かに甘えたいのだろう。
今日も二の宮のお昼寝の間にこちらに向かわれる途中で二の宮が目を覚まされたらしい。ぐずぐずとわたしに抱きつき寝てしまわれた。
几帳の陰に二の宮を横たえて、東宮を見るとこちらも眠そうだ。二の宮の隣で東宮とひそひそと話しているとウトウト…眠ってしまわれた。
藤式部が梨壺の女房を呼びに行っている間、云っておかなければならない事を桔梗と日向に告げた。
『何も聞かずに里下がりをお許し下さい。わたくしを三条邸へ連れて帰って下さい』
桔梗にも日向にも云えなかった本音に、控えていた二人が驚いていた。
毎夜毎夜誰かが清涼殿に渡って行くのはもう耐えられない。
二人はわたしの気持ちに気付いていたのかわたしが云えなかった続きの言葉を代わりに父上に伝えてくれた事は嬉しかった。
「桔梗、日向…本当は云うつもりじゃなかったんだけど…わたしは主上が好きになってしまったんだ。誰かと一緒に夜を過ごして、涼しい顔をして飛香舎にいらっしゃる主上を見ていられない」
「気付いてましたわ」
日向が桔梗と顔を合わせて云ってくる。やはり…。
「……」
「だって、結構分かりやすかったわよ」
「桔梗…」
「主上が、秘密を知っていながら右大臣さまにも誰にも、何故仰らないかは正直わからないけど、まんざらでもないんじゃないかな」
「そんなことないよ。だって…」
…男だよ。
小さい声で云う。
「本当なら、あの時にお役御免になってたはずでしょ?そもそも、結婚の儀式の時にわたしたちの命は終わっていたはずだったのよ」
そうなのだ。
わたしは何故今も後宮にいるのか?
それは帝が男と知りながら撫子を追い出さないから。
「なんでかな?」
「分からないわ。でも、女御さまに興味を持たれてるのは確かね」
「そうですね。右近の少将さまが来られたら、必ず主上も顔を出されて…あれ、嫉妬じゃないかしら」
飛香舎から笛の音が聴こえたら帝もふいにいらっしゃる。
でも、
「嫉妬なんてないよ」
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