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姫と呼ばれています
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☆★☆ ★☆★ ☆★☆
何故こんなことになってしまったのか?
姉上の乳姉妹の姫さまにお仕えしていたはずなのに、髪には髢を付けられ十二単衣を着て座っている。
髢は姫さまの結婚相手の保憲殿が、云った通り本物の髪と見紛う素晴らしいものを用意してくれた。
当たり前である。
せっかく捕まえた姫なのだ。
離してなるものかと、今回の身代わりには並々ならぬ力の入れ様である。
そもそも、姫さまにはあちこちから文が来ていたのをわたしが厳選して保憲殿を選んだのだ。
経済的にしっかりしていて、世間に疎い姫さまをしっかり養ってくれる人でないと、仕えるわたしたちは大変なのだ。
自分が身代わりになってしまったので複雑だが、これくらいのことはして貰わなくてはいけない。
今日、姫さまのお父君の使者が迎えに来られる。
もう覚悟を決めなくてはならない……。
この格好をしている時点で諦めなくてはならないのは判っている。
けれど、万に一つでも可能性はあると思いたい。
何が悲しくてこんな格好をしなければいけないのか?
三条邸に行くに当たって、姉上に一緒に来てもらうことになった。酷い姉ではあるが、こうなっては頼るのは姉上のみである。気は強いが、はしこく、利発で面倒見がよい。色々なことによく気がつくし人当たりは抜群に良い。まあ、外面が良いと云えば身も蓋も無いので云わないけれど…。如才なくわたしの周りのこともしてくれるだろう。何しろ自分であれこれ動けないので、して貰うしかないのだ。
姫さまはなかなか離したがらなかったけれど、今回ばかりは姫さまに弱い姉上もわたしに付いて来てくれる。
「姫さま、今回のことは姫さまの我儘であります故、わたくしは惟忠に付いて行きたく思います。姫さまのことも勿論心配ではありますが、保憲さまがいらっしゃるので、わたくしは安心して惟忠に付いて行けます」
少しはわたしの心配をしてくれているのかもしれない。
「あちらで落ち着きましたら、必ず頃合いを見て迎えに来てくださいね」
保憲殿に念を押す。
これは重要なことなので何回も云った。
姫さまと一緒に生活し始めたら、こちらのことは忘れてしまわないか心配なのだ。
「そんなの忘れる訳ないわ」
姫さまも力強く姉上の手を取っていた……わたしが心配なのではなく、姉上が必要なのか?
ああっ、切ない。
今回、保憲殿の紹介で新しく女房を雇った。名を日向と云う。
保憲殿曰く、
「素性はしっかりしており、何があっても身代わりの姫のことを口外することはありません」
やけに自信満々だった。
「そんなことは、分からないじゃないですか?」
保憲殿に聞くと、またしても自信満々に宣った。
「今回雇ったのはわたしの知り合いの娘さんで、その知り合いは昔からわたしやわたしの父上が仕事で便宜を図ったりしてあげたんです。わたしとの縁が切れれば、果たして明日から都で生活していけるか…」
……脅したのですか?
それでもその娘は気立てがよく、お使者が来て、身代わりが決まった時から姫さまと同じ生活をさせられているわたしが男であることに驚いていたけれど、
「お綺麗でいらっしゃるので、絶対バレません。わたくしがお守りいたします」
姉上同様心強い同志となった。
……この女房に代わりに行って貰ってはいけなかったのか?
…最後の悪足掻きはわたしの心の中で響いた…。
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何故こんなことになってしまったのか?
姉上の乳姉妹の姫さまにお仕えしていたはずなのに、髪には髢を付けられ十二単衣を着て座っている。
髢は姫さまの結婚相手の保憲殿が、云った通り本物の髪と見紛う素晴らしいものを用意してくれた。
当たり前である。
せっかく捕まえた姫なのだ。
離してなるものかと、今回の身代わりには並々ならぬ力の入れ様である。
そもそも、姫さまにはあちこちから文が来ていたのをわたしが厳選して保憲殿を選んだのだ。
経済的にしっかりしていて、世間に疎い姫さまをしっかり養ってくれる人でないと、仕えるわたしたちは大変なのだ。
自分が身代わりになってしまったので複雑だが、これくらいのことはして貰わなくてはいけない。
今日、姫さまのお父君の使者が迎えに来られる。
もう覚悟を決めなくてはならない……。
この格好をしている時点で諦めなくてはならないのは判っている。
けれど、万に一つでも可能性はあると思いたい。
何が悲しくてこんな格好をしなければいけないのか?
三条邸に行くに当たって、姉上に一緒に来てもらうことになった。酷い姉ではあるが、こうなっては頼るのは姉上のみである。気は強いが、はしこく、利発で面倒見がよい。色々なことによく気がつくし人当たりは抜群に良い。まあ、外面が良いと云えば身も蓋も無いので云わないけれど…。如才なくわたしの周りのこともしてくれるだろう。何しろ自分であれこれ動けないので、して貰うしかないのだ。
姫さまはなかなか離したがらなかったけれど、今回ばかりは姫さまに弱い姉上もわたしに付いて来てくれる。
「姫さま、今回のことは姫さまの我儘であります故、わたくしは惟忠に付いて行きたく思います。姫さまのことも勿論心配ではありますが、保憲さまがいらっしゃるので、わたくしは安心して惟忠に付いて行けます」
少しはわたしの心配をしてくれているのかもしれない。
「あちらで落ち着きましたら、必ず頃合いを見て迎えに来てくださいね」
保憲殿に念を押す。
これは重要なことなので何回も云った。
姫さまと一緒に生活し始めたら、こちらのことは忘れてしまわないか心配なのだ。
「そんなの忘れる訳ないわ」
姫さまも力強く姉上の手を取っていた……わたしが心配なのではなく、姉上が必要なのか?
ああっ、切ない。
今回、保憲殿の紹介で新しく女房を雇った。名を日向と云う。
保憲殿曰く、
「素性はしっかりしており、何があっても身代わりの姫のことを口外することはありません」
やけに自信満々だった。
「そんなことは、分からないじゃないですか?」
保憲殿に聞くと、またしても自信満々に宣った。
「今回雇ったのはわたしの知り合いの娘さんで、その知り合いは昔からわたしやわたしの父上が仕事で便宜を図ったりしてあげたんです。わたしとの縁が切れれば、果たして明日から都で生活していけるか…」
……脅したのですか?
それでもその娘は気立てがよく、お使者が来て、身代わりが決まった時から姫さまと同じ生活をさせられているわたしが男であることに驚いていたけれど、
「お綺麗でいらっしゃるので、絶対バレません。わたくしがお守りいたします」
姉上同様心強い同志となった。
……この女房に代わりに行って貰ってはいけなかったのか?
…最後の悪足掻きはわたしの心の中で響いた…。
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