撫子の華が咲く

茉莉花 香乃

文字の大きさ
上 下
6 / 98
姫と呼ばれています

01

しおりを挟む
☆★☆  ★☆★  ☆★☆


何故こんなことになってしまったのか?

姉上の乳姉妹の姫さまにお仕えしていたはずなのに、髪にはかもじを付けられ十二単衣を着て座っている。

髢は姫さまの結婚相手の保憲殿が、云った通り本物の髪と見紛う素晴らしいものを用意してくれた。

当たり前である。
せっかく捕まえた姫なのだ。
離してなるものかと、今回の身代わりには並々ならぬ力の入れ様である。

そもそも、姫さまにはあちこちから文が来ていたのをわたしが厳選して保憲殿を選んだのだ。
経済的にしっかりしていて、世間に疎い姫さまをしっかり養ってくれる人でないと、仕えるわたしたちは大変なのだ。

自分が身代わりになってしまったので複雑だが、これくらいのことはして貰わなくてはいけない。




今日、姫さまのお父君の使者が迎えに来られる。

もう覚悟を決めなくてはならない……。

この格好をしている時点で諦めなくてはならないのは判っている。

けれど、万に一つでも可能性はあると思いたい。

何が悲しくてこんな格好をしなければいけないのか?
三条邸に行くに当たって、姉上に一緒に来てもらうことになった。酷い姉ではあるが、こうなっては頼るのは姉上のみである。気は強いが、はしこく、利発で面倒見がよい。色々なことによく気がつくし人当たりは抜群に良い。まあ、外面が良いと云えば身も蓋も無いので云わないけれど…。如才なくわたしの周りのこともしてくれるだろう。何しろ自分であれこれ動けないので、して貰うしかないのだ。

姫さまはなかなか離したがらなかったけれど、今回ばかりは姫さまに弱い姉上もわたしに付いて来てくれる。

「姫さま、今回のことは姫さまの我儘であります故、わたくしは惟忠に付いて行きたく思います。姫さまのことも勿論心配ではありますが、保憲さまがいらっしゃるので、わたくしは安心して惟忠に付いて行けます」

少しはわたしの心配をしてくれているのかもしれない。

「あちらで落ち着きましたら、必ず頃合いを見て迎えに来てくださいね」

保憲殿に念を押す。
これは重要なことなので何回も云った。
姫さまと一緒に生活し始めたら、こちらのことは忘れてしまわないか心配なのだ。

「そんなの忘れる訳ないわ」

姫さまも力強く姉上の手を取っていた……わたしが心配なのではなく、姉上が必要なのか?

ああっ、切ない。

今回、保憲殿の紹介で新しく女房を雇った。名を日向と云う。
保憲殿曰く、

「素性はしっかりしており、何があっても身代わりの姫のことを口外することはありません」

やけに自信満々だった。

「そんなことは、分からないじゃないですか?」

保憲殿に聞くと、またしても自信満々に宣った。

「今回雇ったのはわたしの知り合いの娘さんで、その知り合いは昔からわたしやわたしの父上が仕事で便宜を図ったりしてあげたんです。わたしとの縁が切れれば、果たして明日から都で生活していけるか…」

……脅したのですか?

それでもその娘は気立てがよく、お使者が来て、身代わりが決まった時から姫さまと同じ生活をさせられているわたしが男であることに驚いていたけれど、

「お綺麗でいらっしゃるので、絶対バレません。わたくしがお守りいたします」

姉上同様心強い同志となった。


……この女房に代わりに行って貰ってはいけなかったのか?

…最後の悪足掻きはわたしの心の中で響いた…。


☆★☆  ★☆★  ☆★☆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじまりの恋

葉月めいこ
BL
生徒×教師/僕らの出逢いはきっと必然だった。 あの日くれた好きという言葉 それがすべてのはじまりだった 好きになるのに理由も時間もいらない 僕たちのはじまりとそれから 高校教師の西岡佐樹は 生徒の藤堂優哉に告白をされる。 突然のことに驚き戸惑う佐樹だが 藤堂の真っ直ぐな想いに 少しずつ心を動かされていく。 どうしてこんなに 彼のことが気になるのだろう。 いままでになかった想いが胸に広がる。 これは二人の出会いと日常 それからを描く純愛ストーリー 優しさばかりではない、切なく苦しい困難がたくさん待ち受けています。 二人は二人の選んだ道を信じて前に進んでいく。 ※作中にて視点変更されるシーンが多々あります。 ※素敵な表紙、挿絵イラストは朔羽ゆきさんに描いていただきました。 ※挿絵「想い03」「邂逅10」「邂逅12」「夏日13」「夏日48」「別離01」「別離34」「始まり06」

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。 面接落ちたっぽい。 彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。 占い通りワーストワンな一日の終わり。 「恋人のフリをして欲しい」 と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。 「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。

処理中です...