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朝朗

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隣の部屋からはボソボソと話をする声が聞こえる。時折鼻をすすり、嗚咽を堪えるような声もする。

現代の部屋ならばもう少し遮音されたかもしれないけれど、この時代では無理な話だ。微かに身動みじろぐ音さえも、全てを克明にさらけ出す。周りが静かすぎるのも音を響かせる要因だろう。

耳を澄ませると、先程から降り出した雨音が聞こえた。まるで二人の心のように静かに都に降り注ぐ。しとしとと降る雨は、雑音を全て吸い取って静かな雨音だけが響く。風を受けた木の葉の擦れる音が、二人の気配をほんの少しだけ尊と親彬から遠ざけた。

隣からは、もはや会話は聞こえない。啜り泣くような声。衣擦れの音。粘膜が擦れるような水音。思わず漏れた、鼻に抜ける少し苦しそうな声。倒れた時に床に当たったであろう衝撃音。そして、衣擦れの音。

尊は親彬に抱きついて二人の情事の様子を聞いた。見届けるように少しも身動ぎしない。グチュ、と耳を塞ぎたくなるような淫猥な音が聞こえた。先日、目の前の親彬と過ごした時間を思い出し更に恥ずかしくなる。

やがて、あえかな喘ぎ声が聞こえ、肌と肌のぶつかる激しい音の合間にもすすり泣く声と少し低い、抑えた声が聞こえた。

どのくらいその時間が続いたかわからない。辺りはすっかり暗くなって、部屋の隅には灯台の灯りが弱々しく瞬いている。背中をさすっていた親彬の手にトントンと叩かれ、ピクンと肩が跳ねた。緊張していた四肢が、親彬の笑顔で幾分弛緩する。

「親…」
「ん?」

キスを強請った。両手を広げ目を瞑り顔を親彬に向ける。何も言わずとも、ちゃんと欲しいものをもらい尊は安堵した。最近『これ』が親彬の薫りだとわかるようになった。親彬が好きな香は黒方くろぼうで、今ではその香を嗅ぐと親彬を連想し、ソワソワしたりする。その香りを思いっきり吸い込み、身体を離した。

正直、これで良かったのかと、後悔する気持ちもある。親彬が反対したように、余計に現世に未練を残してしまうのではないかと。
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