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朝朗

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冷たい手が尻を撫でる。

「ひゃ…」

思わず声を出してしまい、慌てて手で口を押さえた。手が来ることはわかっていたが、何せ冷た過ぎるのだ。

「ねえ?」
『………』
「聞こえてるでしょ?」
『………』

意を決して話しかけるも、やはり応えてはくれない。このまま何もしなければ襲われる。果たして噂が本当かどうかを確かめる気はない。親彬に抱かれている尊をこの妖怪が諦めないなら、身の危険がそこにある。懐から勝一の髪の毛入りの御札を取り出し、身体から外した。途端に、妖怪の纏う雰囲気が変わる。

「びっくりした?」
『………』
「僕は、賀茂尊と云います。はじめまして、陽毬さん…とお呼びしても構いませんか?」
『………』

返事はないが、うつ伏せに押さえつけていた手はいつのまにか離れていた。物理的な重さは感じなかったが、霊気と冷気が混ざった圧がふっと身体から抜けるのがわかった。

「少し、話しませんか?」
『お前は、誰だ?何故わたしの昔の名を知っている?』
「やっと、返事してくれましたね、陽毬さん」
『その名は捨てた。わたしを捨てた男が呼んでいた名など、わたしには必要ない』
「あなたは、捨てられてなどいなかったのですよ?」
『嘘だ!』

取り乱した〈氷の君〉が五芒星の外に倒れそうになる。だが、外に出ることはなかった。不自然に壁のようなもので押し戻され、暴れ始める。懐から紐を取り出し、紐にお願いする。

「このを縛って」

尊は〈氷の君〉にも術をかけた。意思を持ってするすると紐が動き、するりと塀でもどこでもすり抜けるこの妖怪の身体をしっかり動けないように縛る。

「はぁ…親、縛ったよ」
「ああ…そのようだな」

(良かった……。一先ず、成功だ)

「でも、触らす前に縛れただろ?」
「えっ?そ、そうかな…」

親彬は何故か不機嫌に眉間に皺を寄せる。

「座りませんか?」

〈氷の君〉に向き直り話しかけると、今まであやふやだった顔がはっきりと見えた。その顔を見て、やはりと思った。

「な、何を…した?」
「さあ、どうなんでしょうね…」
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