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朝朗

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普段あまり話さない陰陽頭との会話は緊張するものの嬉しくて、その後しばらく話し込んだ後、それではと暇を告げて帰った。

勝一の容姿は幼さが残るものの、身体つきは尊よりはるかにガッチリとしていた。陰陽師としての腕はそこそこで、これから将来を期待されている若手である。

そして、その翌日。
弓削勝一は今日もお使いをしていた。

普通なら嫌がるところだが、今日のこれは、実は嬉しかったりする。

東山にある寂れた屋敷。陰陽頭や先輩陰陽師の加茂親彬に留まらず、帝や上皇からも一目置かれる大先輩の陰陽師が住んでいる。そのお方に『これ』を届けて欲しいと頼まれたのだ。

頼んだのは賀茂親彬。これから行かなければならない所が出来た。今日『これ』を持って行くと約束していたので、代わりに持って行って欲しいと。『これ』は風呂敷に包まれた少し重さのある物だった。

大事に抱え、緊張しながら屋敷に入る。連絡が入っていたようで、笑顔で迎えられようやく緊張を少しだけ解いた。

「ようおいでなさった。ほら、上がりなさい。ああ、良い良い。そんなに畏まらずとも、取って食いやしないからのぉ、ふぉっふぉっ」
「は、はぁ…、あ、ありがとうございます」

ますます畏る勝一は『これ』を渡した。すると、一緒に食べようと云われて白湯を勧められた。そこでようやく、『これ』がこの翁の好物であるらしい菓子であることがわかった。菓子か…と思ったが、ダメにするのはもったいない。作ったのなら今日のうちに届けなければならなかったのも頷ける、と一人納得した勝一であった。

例え何であっても文句はない。同じ陰陽生の友が羨ましそうにしていたのは知っている。明日、どんなだったかと質問攻めにあうだろう。

勝一が屋敷に入った途端、翁はこの屋敷全体に結界を張った。何物も寄せ付けない結界を。

それから、面白おかしい翁の話に勝一が相槌を打ち、勝一の笛と翁の琵琶の合奏を楽しんだ。何や彼やと楽しい時間は過ぎて行く。いくらなんでも、もうそろそろ帰らなければと勝一が思ったのは一つであった。慌てていると、もう帰るのか?とのんびり云われ、恐縮しながら家路に着いた。
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