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朝朗

02

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「わたしには若い頃、恋人がいてね。その子の名が陽毬だったんだ」

突然消えてしまった恋人の話を淡々とする雅季は、どこか投げやりな雰囲気があった。

「ほら、可愛いだろ?陽毬だよ」

後ろに控える美貌の青年式神はいつものようにおとなしく座っている。この式神の名前が陽毬だった。おそらく姿を消したその頃のまま、そっくりに作ったのだろう。

「出会ったのは陽毬が五歳の頃だよ。わたしの乳母の妹の子どもだったのだけど、両親が流行病で一度に亡くなって、屋敷に引き取られて一緒に育ったんだ。その頃から可愛くてね。わたしがあの鞠をプレゼントしたのは出会った頃だったな。陽毬はあの鞠では遊んでなかったから…。最初、気に入らなかったのかと思っていたよ。わたしも幼かったから、そこまで気にならなかった。忘れていたよ…持っていたんだな…」

後悔と、寂寥だけが心をいっぱいにする。どんなに探したか、どんなに悲しかったか、どんなに絶望したか…

「会えないなら、死んでしまおうと思ったこともあったよ。でも、わたしが死んだら、この子も死んでしまうだろ?」

式神をちらりと見やり、優しい顔で微笑んだ。

「何度作ってもこの子になるんだ。もう一緒に生きてゆくしかないだろ?」

手を握りしめ、肩を震わせる。

「……陽毬は、…陽毬はわたしを、恨んでいるんだね…」

陽毬が突然雅季の前から消えたのは、二人が心だけではなく初めて身体を繋げた日の翌日だった。前日が幸せだった分、陽毬が消えた日は奈落の底に突き落とされたような、悲惨な気分だった。陽毬にとっても同じことだろう。どのように姿を消したのかはわからないが、もしかしたら、捨てられたと思ったのかもしれない。

今思い出しても、悲しいのだろう。いつもは尊を揶揄う目元からは、また、つうっと涙がこぼれた。そんな雅季の涙を式神の陽毬がそっと拭いている。

この式神を見る度に、懐かしさと一緒に、後悔や、寂しさを感じているのだろう。もう他には恋人は作らないと、自分に枷を与えるように。
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