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蒼穹

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ここに来て、振り出しに戻るのか?他の二人は前日の同じ時間に雅季と何かがあった。雅季の記憶は曖昧だけど、接触は推察される。だから、接触があったその人が、その時間に襲われたと思ったのに……。やはり、只の偶然だったのか?

「その日、亥の刻…はどちらに…?」
「亥の刻…ですか?」

実視の手の中には鞠だろうか、綺麗な丸い物が見える。思い出そうとしているのだろう、眉間に皺を寄せ、手の中の鞠をもてあそび考え込んでいる。

尊は鞠をじっと見た。あれと同じ物を見たことがある。どこだったか?翁の所?堀川上皇や土御門の宮の屋敷?それとも後宮だったか?

(……思い出せない)

別々のことを思い出そうとして、先に思い出したのは実視だった。

「ああ、恋人の所へ…、あれから一度も行ってないのですけどね…」

噂が本当だとすると、もうその恋人とは別れているのかもしれない。寂しいかと思いきや、割とサバサバと元恋人の話をする。屋敷の場所を聞くと、とても雅季の屋敷の前を通りそうもない場所に、その恋人の家はあった。やはり、偶然だったのか?それでも、雅季との接触はあったのだから、時間だけは偶然だったのかもしれない。あと何件かある事件の被害者がわかっていれば、もう少し多く情報が集まるだろうに。

(取り敢えず、安倍さまには屋敷の前で誰であろうとしゃべるの禁止にしないとね!)

チラリとエロ上司を見ると、実視の手元を見ていた。

「その恋人の屋敷に行くのに、どの通りを通ったか、覚えていますか?」

親彬が実視に質問する。いくら碁盤の目の通りで、どこを通ってもたどり着けるとしても、わざわざ遠回りはしないだろう。どうしてそんなことを聞くのか尊はわからなかった。

「えっと…、確か…」



☆☆☆☆☆



「尊?どうした?」

親彬と屋敷に戻り、晩御飯を食べた。

「ん?…何でもない」
「〈氷の君〉、どうやったら、誘い出せる?」
「そうだね…。一つ、とっても簡単な方法があるんだけど…」
「ダメだ!」
「まだ何も云ってないよ?」
「どうせ、安倍さまの屋敷の前で、しゃべって囮になろうとか、そんなふざけたことだろう?」
「ふざけてなんかないよ。僕は真剣」
「真剣だから余計にダメ!それなら、俺が!俺がやる」
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