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蒼穹

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その夜、親彬は現代で云うと十九時ごろ出かけ、二十一時ごろ帰ってきた。

尊の部屋で隅に控えていたあかが、帰ってきましたと教えてくれた。朱は現代の一般人からすれば、見た目は恐ろしい異形の小鬼であるけれど、尊にとっては見慣れたルビーくんである。親しみを感じることはあっても、恐れることはない。式神が嘘を云うはずがないから、それは本当のことなのだろう。

もう遅い時間だからか親彬が尊の部屋に来ることはなかったけれど、恋人のところに行ったにしては、早い時間に帰ってきた。と云うことは女の所へ行ったのではなかったのかもしれないと尊は少し気分が浮上した。てっきり、恋人の所へ行ったとばかり考えていたので、かなり落ち込んでいたのだ。

朱はリンを相手にボソボソと会話する。無駄なことは何もしゃべらないけれど、勿論リンがイライラしたり怒ることはない。

尊は持ってきていた平安時代に関する本を閉じて、首を回した。夜は暗くて読書にはむかない。代わりに笛を出し、吹いてみる。もし、現代に行けるならソーラー電池のランタンでも持ってこようかと、思わず知ったことに予定を立てる。

(持って来たい物をリストアップしておこうかな…)

「朱、ありがと。あのね、親は…どこに行ってたの?」

やはり気になるので、聞いてみる。

「申し訳ございません…」
「そっか…親が云ってないことは云えないんだね?」
「はい。ですが、云えないことが隠匿ではないと知っていてくだされば、主さまはお喜びになられるでしょう」
「……?…ん?難しいね」
「そうですか?主さまを信じてあげてください」
「うん。よくわからないけど…、わかった。ありがと」
「いいえ。では、おやすみなさいませ」
「うん。おやすみ」

翌日は清水寺まで足を運んだ。尊にとっては観光である。キョロキョロと見ながら歩くけれど、どこにも変わったことはない。

「ねえ…」
「ん?」
「冬助さんと安成さんは襲われる前日に、安倍さまの屋敷の前を通ってたよね?」
「そうだな…確か…」
「それって、偶然?」
「まあ、そうだろうな」
「安倍さまの屋敷の隣とか…その近くの屋敷って、怪しい感じとか…ある?」
「いや、五条大路だろ?そんな怪しげな屋敷、あるわけないよ。尊も通っただろ?その時何か感じたのか?」
「えっ?…うーん」
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