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蒼穹
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翌日には高倉安成の屋敷に来ていた。
被害の順番では島田実視よりも早かった。恐らく、都で貴族が狙われた最初の被害者だと思われる。
それなのに今まで面会が叶わなかったのは、安成の父君、高倉安相が陰陽師に会うことをなかなか認めなかったからだ。許されたのはほとんど脅しのようなやり方だったが、仕方ない。
『協力して頂けないなら、致し方ないですな…』
安倍雅季は安相に、ため息交じりに頷いた。
『申し訳ない』
『いやいや、ところで…』
『なんですかな?』
『近々、三条邸で宴が催されるとか。安相殿も招待されておられますか?』
『はい。ですが、お断りしております。今回のこと、太政大臣さまも気にして下さって…』
『ああ、そうだね。わたしは出席させて貰うよ。しかし……その席で、わたしは深酒をして、うっかりご子息が〈氷の君〉の被害者だと漏らしてしまっても、恨まないで下さいね。何せ、宴は無礼講。なぁに、冬助殿も同情の声が多い。ご子息も槍玉に上がることはないと思うよ。いやぁ、酒は怖い。うっかりすることはあるからねぇ…』
完全に脅しだが、冬助にも会うことを告げ、既に一人面会を済ませた人物がいることを知らせると渋々応じた。
あまりに若い尊を怪し気に見ながら、安相は渡殿を先導して歩く。
尊は出仕するには早い年齢である。童顔と華奢な身体がさらに頼りなく見えてしまうのだろう。
安成はどこの姫かと思うほど厳重に囲われていた。御簾を上げると冬助に負けず劣らず、安成も妖艶な仕草で三人を迎えた。年の頃は親彬より少し下で、身体つきも頼りない。島田実視の被害がなければ、〈氷の君〉が狙うのは華奢な男だと結論づけてしまっただろう。
冬助と全く同じ質問をする。こちらも、これといった珍しいことはない。前日は、いつものように仕事に出かけ、主人の屋敷では北の方に清水寺への言伝を頼まれた。当日は、連れと二人で市に出掛け、被害に遭った。安成は申一つ頃に、市の近くの空き家の庭で襲われた。
名前が上がらなかったのは、一緒に来ていた連れが見つけて、急いで、誰にも知られずに牛車に乗せて連れ出したからだ。どうしてその空き家に入ったかは、思い出せないらしい。連れとはほんの一瞬離れただけだった。
尊は安成の残留思念も見る。こちらもぼんやりしていたが、明らかに同じ男だ。蘇芳が印象的な衣装が同じだった。
被害の順番では島田実視よりも早かった。恐らく、都で貴族が狙われた最初の被害者だと思われる。
それなのに今まで面会が叶わなかったのは、安成の父君、高倉安相が陰陽師に会うことをなかなか認めなかったからだ。許されたのはほとんど脅しのようなやり方だったが、仕方ない。
『協力して頂けないなら、致し方ないですな…』
安倍雅季は安相に、ため息交じりに頷いた。
『申し訳ない』
『いやいや、ところで…』
『なんですかな?』
『近々、三条邸で宴が催されるとか。安相殿も招待されておられますか?』
『はい。ですが、お断りしております。今回のこと、太政大臣さまも気にして下さって…』
『ああ、そうだね。わたしは出席させて貰うよ。しかし……その席で、わたしは深酒をして、うっかりご子息が〈氷の君〉の被害者だと漏らしてしまっても、恨まないで下さいね。何せ、宴は無礼講。なぁに、冬助殿も同情の声が多い。ご子息も槍玉に上がることはないと思うよ。いやぁ、酒は怖い。うっかりすることはあるからねぇ…』
完全に脅しだが、冬助にも会うことを告げ、既に一人面会を済ませた人物がいることを知らせると渋々応じた。
あまりに若い尊を怪し気に見ながら、安相は渡殿を先導して歩く。
尊は出仕するには早い年齢である。童顔と華奢な身体がさらに頼りなく見えてしまうのだろう。
安成はどこの姫かと思うほど厳重に囲われていた。御簾を上げると冬助に負けず劣らず、安成も妖艶な仕草で三人を迎えた。年の頃は親彬より少し下で、身体つきも頼りない。島田実視の被害がなければ、〈氷の君〉が狙うのは華奢な男だと結論づけてしまっただろう。
冬助と全く同じ質問をする。こちらも、これといった珍しいことはない。前日は、いつものように仕事に出かけ、主人の屋敷では北の方に清水寺への言伝を頼まれた。当日は、連れと二人で市に出掛け、被害に遭った。安成は申一つ頃に、市の近くの空き家の庭で襲われた。
名前が上がらなかったのは、一緒に来ていた連れが見つけて、急いで、誰にも知られずに牛車に乗せて連れ出したからだ。どうしてその空き家に入ったかは、思い出せないらしい。連れとはほんの一瞬離れただけだった。
尊は安成の残留思念も見る。こちらもぼんやりしていたが、明らかに同じ男だ。蘇芳が印象的な衣装が同じだった。
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