上 下
39 / 89
東雲

03

しおりを挟む
「そんなに固くならないで?」
「えっ?だって…」

親彬は尊の腰を抱いていた腕に力を込めて引き寄せ、膝の上に座らせた。チュッと音が響く。こめかみに触れる唇にピクリと尊の肩が揺れる。

「口付けも始めて?」
「うん…」
「恋人は?」
「恋人!恋人なんていないよ。……キスもまだなんて、呆れた?」
「呆れるなんてないよ。俺が何もかも、初めてってことだろ?嬉しいよ」

尊の心臓が喜びの鐘を鳴らす。

(嬉しいって云ってくれた…。僕はそれだけで満足だよ。例え、親が仕事だと思って僕に触っていても…僕は…)

「尊、コレって、キスって云うの?」

もう一度こめかみに触れる唇。

「うん…」

熱に浮かされたように親彬の精悍な顔を仰ぎ見る。

「尊、可愛い。ココに、キス、しても、良い?」

一音一音、言葉を切り、どこか心ここに在らずな尊にも理解できるように、ゆくっりと言葉を紡ぐ。その手が、『ココ』が唇であるのを教えるように親指でツツッとなぞった。

尊は頷くことで返事をした。真っ赤な顔を目の前の逞しい身体に擦り付け、腕を背中に回ししがみついた。二人きりになってから、尊は親彬の目を直視できないでいた。

「嫌じゃない?」

親彬は、そっと押し倒し覆いかぶさると、目を合わそうとしない尊の顔を覗き込む。

「嫌じゃないよ?」

そう、嫌じゃない。むしろ嬉しい。

(僕、親の事、好きなのかな?でも、これって、雛鳥が親鳥の後をついて行く、刷り込みのようなものなのかもしれない。こっちに来て、最初に会ったのが親だったから。親は迷惑…だよね)

「親は?親は僕が相手なんて、嫌でしょ?」

(僕って、ズルいよね。こんな状況で、優しい親が僕を否定する言葉なんて云うわけないのに)

「俺は光栄だよ、安倍さまが尊を抱くなんて、絶対に許せない。本当に、良かったよ。あそこで引いてくれなかったらと思うと…」

微かな独占欲のようなものを感じ尊は嬉しそうに笑った。

(僕の気持ちを高揚させるためのお為ごかしだとしても、…嬉しい)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお
BL
『あの日、北京の街角で』続編。 先に『あの日、北京の街角で』をご覧くださいm(__)m https://www.alphapolis.co.jp/novel/28475021/523219176 大連で始まる孝弘と祐樹の駐在員生活。 2人のラブラブな日常をお楽しみください。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

上司と俺のSM関係

雫@更新不定期です
BL
タイトルの通りです。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...