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黎明

05

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風が止み、足が地面に着く。

触っていた御神木は若木の弱々しい細いものに変わっていた。たけるの両腕を広げてもまだ回らない、太い立派な杉だったのに。ランタンの灯りはないが、代わりに松明が燃えている。

キンと冷えた、厳かな空気が辺りを包む。

「朱、ご苦労様」
「只今戻りました」

ルビーによく似た小鬼が、話しかけた人に返事をした。かっこいい人が尊を凝視していた。背が見上げるほどに高く、かっこいい。冠があるので更に背を高く見せているのか?心なしか、顔が赤い。この時代に尊を呼んだ人のようだ。

ここは森の中の開けた場所で、この小さな杉の他は一本の木ももなく、苔むした地面が広がっている。

ふと空を見ると驚いた。今まで住んでいた場所は京都の郊外だったから、そこから見える星は素晴らしく綺麗だと思っていた。それがどうだ、夜空の星たちは百倍煌めいている。降ってくるようだ。怖いとさえ思う程の、圧倒的な星のさざめき。

知らない場所、未知の出来事、覚悟していたこととは云え、不安でいっぱいだ。しかし、星が怖いと思いながらも、自然に包まれ心が落ち着いてくるのがわかる。

「ようこそ、未来からの客人。わたしは賀茂かもの親彬ちかあきらと申します」
「あっ、はじめまして。賀茂かも尊です。……名字、同じですね」

不思議なえにしを感じ、まじまじと目の前のイケメンを見る。親彬と名乗った青年が、また、顔を赤くした。尊は自分を見て照れる要素は一つもないと、その理由に思い至らなかった。

「尊殿、と呼んでも構いませんか?」

丁寧に対応してくれて、心細さが薄れる。怖い人でなくて良かった。

「そうですね。名字が同じなら下の名前の方が自然でしょう。ただ、僕の方が明らかに年下です。どうか、呼び捨てでお願いします」
「はい、わかりました。では、尊、で」
「それと、敬語もよしてください。くすぐったいです。あなたの事は、ちか、えっと、ごめんなさい…」
「親彬です」
「すみません…。親彬さん、で良いですか?それとも、親彬殿…んー、呼びにくいな…」

尊にとってそんなのは物語の中だけの呼び方だ。

「俺も呼び捨てで構わないよ」

(おっと、切り替え早いな。やっぱ、そっちの方が似合ってるよ、ワイルドなイケメンさん。でも。呼び捨てとか、無理。僕よりいくつ上だろ?それに、『ちかあきら』って長いし、言い辛い。名前だから仕方ないけどさ!)
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