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幻妖
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雅季にも欲しい物はない。
しかし、会いたい人はいる。
昔、愛した人。まだ二十歳くらいの時だった。陰陽師になりたてで、頑張っていた時にいつも励ましてくれた恋人。雅季より五歳年下で可愛いかった恋人、陽毬。
突然、雅季の前から消えた。自分の力を全て使って探した。当時から、同類の兼道とはライバルだったが、兼道の年の離れた兄が検非違使別当だったので、捜査を依頼した。兼道は動いてくれたが、手がかりがさっぱりなかった。陽毬には親はなく、雅季が探さなくては誰も動いてくれない。結局、拐かしにあったと云われ、どうすることもできなかった。
できればもう一度会いたいけれど、陽毬が自分から雅季の元を離れたのだとしたら…もう、願いは叶わないだろう。
今も心の片隅に陽毬を隠し、虚しい恋人ごっこを繰り返す。兼道はそんな雅季の事を心配していて、高雄の事も本当はただ気に掛けていただけで、云うようなことはないとわかっていた。
「島田実視には会わせてくれるのか?」
「まあ、会うことはできるが、事情を話せるかはわからないぞ?」
「どのような状態なんだ?」
「もう身体は良いのだがな…」
「それじゃあ…」
「話したがらないんだよ」
「恥じているのか?」
普通の男が、妖とはいえ、男に組み伏せられるのは耐えられるものではないのかもしれない。
「いや…そんな感じではないんだよな」
「どう云うことだよ」
「いや、会ってみるか?」
「良いのか?」
「二人きりで会うなよ?」
「……?取り調べだぞ?二人きりだろうとなかろうと、そんなことは関係ない」
そんな節操なしに思われているのかと、憮然とする。
「いや、俺もあいつとは二人きりでは会わないようにしている」
「それは…」
「それは、つまり…抱きたくなってしまうんだよ。見てると、押し倒したくなる」
「なんだよ、実視って元々そうなのか?」
「お前も会ったこと、あるだろう?ほら、何日か前に文を届けさせた。ちょうど、屋敷の前で会えたから、直接渡したと報告されたがな」
「そう云えば、そんなことがあったな。あれが実視…。確かに、そんな雰囲気じゃなかったな」
「俺もだよ。今まで俺だってそんなこと、これっぽっちも思ったことないよ。あいつが襲われてからだ。何だろうな、あれ…。男を誘う…妖艶な…雰囲気なんだよ」
しかし、会いたい人はいる。
昔、愛した人。まだ二十歳くらいの時だった。陰陽師になりたてで、頑張っていた時にいつも励ましてくれた恋人。雅季より五歳年下で可愛いかった恋人、陽毬。
突然、雅季の前から消えた。自分の力を全て使って探した。当時から、同類の兼道とはライバルだったが、兼道の年の離れた兄が検非違使別当だったので、捜査を依頼した。兼道は動いてくれたが、手がかりがさっぱりなかった。陽毬には親はなく、雅季が探さなくては誰も動いてくれない。結局、拐かしにあったと云われ、どうすることもできなかった。
できればもう一度会いたいけれど、陽毬が自分から雅季の元を離れたのだとしたら…もう、願いは叶わないだろう。
今も心の片隅に陽毬を隠し、虚しい恋人ごっこを繰り返す。兼道はそんな雅季の事を心配していて、高雄の事も本当はただ気に掛けていただけで、云うようなことはないとわかっていた。
「島田実視には会わせてくれるのか?」
「まあ、会うことはできるが、事情を話せるかはわからないぞ?」
「どのような状態なんだ?」
「もう身体は良いのだがな…」
「それじゃあ…」
「話したがらないんだよ」
「恥じているのか?」
普通の男が、妖とはいえ、男に組み伏せられるのは耐えられるものではないのかもしれない。
「いや…そんな感じではないんだよな」
「どう云うことだよ」
「いや、会ってみるか?」
「良いのか?」
「二人きりで会うなよ?」
「……?取り調べだぞ?二人きりだろうとなかろうと、そんなことは関係ない」
そんな節操なしに思われているのかと、憮然とする。
「いや、俺もあいつとは二人きりでは会わないようにしている」
「それは…」
「それは、つまり…抱きたくなってしまうんだよ。見てると、押し倒したくなる」
「なんだよ、実視って元々そうなのか?」
「お前も会ったこと、あるだろう?ほら、何日か前に文を届けさせた。ちょうど、屋敷の前で会えたから、直接渡したと報告されたがな」
「そう云えば、そんなことがあったな。あれが実視…。確かに、そんな雰囲気じゃなかったな」
「俺もだよ。今まで俺だってそんなこと、これっぽっちも思ったことないよ。あいつが襲われてからだ。何だろうな、あれ…。男を誘う…妖艶な…雰囲気なんだよ」
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