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空蝉

06

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(どうして見つかってしまったの?ああ、またあの地獄のような場所に戻るの?)

絶望が尊を押しつぶす。こんなことで泣いてはいけないと思うが、あまりに幸せな一週間だっただけにショックは隠しきれない。

「尊」

仁の穏やかな声さえも、今の尊にとっては『騙したな』と変換される。

「尊、何も怖いことはない。さあ、俺にリンさまを紹介してくれ」

何かの違和感を感じ仁を見ると、いつもの優しい顔だった。

「リン…さま?」
「ああ、そのことは後でゆっくり話そうな」
「僕、ここに居ても良いの?」
「当たり前だろ?ここは嫌なのか?」
「嫌じゃない!」
「ははっ、威勢が良いな。泣き顔では迫力ないけどな」

自然な動作で涙を拭いて抱き寄せてくれた。

(新しいお父さんは、僕の事怖くないんだ)

ここに来て、初めて心から仁を受け入れた瞬間だった。

リンを紹介してから本殿に連れて行かれた。本殿にはその時初めて入った。この神社に拝殿はなく、社務所も賽銭箱もなかった。御神体が納められているであろう中央の厨子は固く閉ざされて、前には鏡があり、榊とお供え物があった。

厨子の下は両開き戸になっていて、仁はうやうやしく礼をするとその中からはこを出した。古めかしいそれは、しかし埃の一つも付いていなかった。

座りなさいと促され、慌てて従った。目の前にその筺が置かれる。仁の顔を見ると筺を真ん中にして尊の正面に座り深々と礼をした。

「えっ?何?…」

戸惑う尊を置き去りに、仁は頭を下げ続けた。

「その紐がほどけますか?」

今までとは違う口調にびっくりしながら、言われた通りに紐に手を伸ばす。蝶結びの紐の端を両手で持って、すっと引いた。

「ほおっ。やはり本物ですね。良かった」

何が本物なのか?何が良かったのか?仁を見ると今度は正面から尊を見ていた。まるで眩しいものでも見るように目を細める。ただ蝶結びの紐を解いだけなのに褒められる違和感に眉をひそめた。

(僕、幼稚園児じゃないよ?)
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