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「じゃあ、森山の勉強は僕がみてあげよう。岩佐に比べると、頼りにならないかもしれないけど」
「えっ?」
間抜けな顔の森山が、ほんのり頬を染める。
「三年でA組に戻りたいのだろ?」
「ああ、できれば」
「筑紫でも良いだろうけど、田丸が心配するだろ?」
「何で?僕と文世が一緒に勉強してて、朗が出てくるの?」
美都瑠がププッと頬を膨らませ、可愛らしく中原に聞く。
「そんなの簡単さ。森山が筑紫の部屋に行くと、当然岩佐も居ることもある。すると、田丸はたちまち心配する」
「あっ、なるほど」
「その点、僕の部屋に来て、もし岩佐が居ても、その時は田丸も一緒と言うことさ」
「俺は、朗に睨まれながら勉強するのはちょっと勘弁して欲しいから…中原、お願いできるか?」
「ああ、大抵、自習室で読書か勉強をしてるから来れば良い」
「わかった。でも…その…大丈夫なのか?」
「何が?」
「いや…ほら、中原のファンは?」
「僕の何だって?」
「あっ、いや、何でもない、です。はい」
中原には隠れファンが多くいる。それには完全無視を貫いている。 森山は終始緊張しながらも嬉しそうだ。
美都瑠はこれから大沢の部屋に安田のお見舞いに行くと帰っていった。中原と森山も早速自習室で勉強すると出ていった。
明るい部屋で二人きりなんて、久しぶり過ぎて何を話せば良いかわからない。みんなが居る前では隣同士に座っていても、二人の間には少しの隙間があった。それが寂しいと思ってしまう僕はかなりヤバい。
「伊月…こっち」
「うん」
ピタリとくっ付き、田丸の腕が腰に回る。足りない。もっと隙間なく引っ付きたい。抱きついても良いだろうか?伺うように田丸を見ると惚けた笑顔がそこにある。こんな顔見たことない。いや、昨日は見たけどさ…。
一年間、意識して顔をまともに見なかった。僕の気持ちに気付かれるのは困るし、田丸に疎まれるのも嫌だった。心臓がドキドキうるさく音を立てて、顔に熱が集まる。
「伊月?どうしたの?」
「ううん」
首を振って恥ずかしさを誤魔化す。
「ホント、可愛い」
「可愛くなんか…ない…」
「ここ、座って?」
腰に回っていた腕に力を込めてグッと引き寄せ、膝の上に座らせてくれた。迷わず抱きついて隙間を埋める。
「はぁ…」
これ!これだよ。凄く安心する。
一年間、気持ちが落ち着くことはなかった。常にピリピリとした緊張があった。次に『抱いてやる』と連絡があるだろうか、それとも、もうないかもしれないと不安があった。連絡があったらあったで、二人の関係はセフレだと突きつけられたようで落ち込んだ。抱かれた後は、嬉しさと切なさが混ざり合い情緒不安定だった。
でも今は……はぁ…嬉しい…。
「伊月?ため息?」
「へぇっ?あっ!あぅ、ぇっ、ち、違…」
「素直な伊月、久しぶり。ため息じゃないって、わかってるよ。嬉しいな。俺のせいで意地っ張りになってたってとこは謝るけど…この一年間の伊月が更に愛おしくなるよ」
「朗…」
もう名前、呼んでも良いんだよね。いや、この一年だって呼んでも良かったんだけどね。自分で自分に、自分の心に鍵をかけてた。その鍵を開けて、連れ出してくれた。なあんだ。そもそも、鍵をかけたのは僕じゃなくて田丸で、その鍵を持ってたのも田丸じゃないか。
「朗…」
何度も呼んじゃぉ……。
良いよね?
田丸の胸に手を置いて顔を見る。当たり前だけど目の前に顔がある。僕を見ていた田丸と目が合う。次に唇に視線が釘付けになる。
キスしたい。
あの唇に触れて欲しい。昨日は何度も触れてくれた。唇にも、頬にも、耳にも、腕にも、胸にも…それこそ身体中。胸に置いていた手を伸ばし唇に触れる。指先を動かし唇をなぞる。僕のすることを文句も言わずじっとしていてくれる。
急に唇に力が入り、田丸の顔に笑顔を作る。
「誘ってるの?」
「ち、違…」
「ふふっ、キス、してもいい?」
「うん…いっぱい」
「わかった。いっぱい、しよ」
田丸は僕を抱いたまま立ち上がり、寝室のドアを開けた。
「えっ?今日も?」
「嫌か?」
「やっ…嫌じゃないけど…」
「嫌だったら、キスだけ…。でも、もし、中原と森山が戻ってきたら、エロい伊月を見られたくないから」
「うん」
「伊月、好きだよ」
「僕も…朗が好き」
おわり
「えっ?」
間抜けな顔の森山が、ほんのり頬を染める。
「三年でA組に戻りたいのだろ?」
「ああ、できれば」
「筑紫でも良いだろうけど、田丸が心配するだろ?」
「何で?僕と文世が一緒に勉強してて、朗が出てくるの?」
美都瑠がププッと頬を膨らませ、可愛らしく中原に聞く。
「そんなの簡単さ。森山が筑紫の部屋に行くと、当然岩佐も居ることもある。すると、田丸はたちまち心配する」
「あっ、なるほど」
「その点、僕の部屋に来て、もし岩佐が居ても、その時は田丸も一緒と言うことさ」
「俺は、朗に睨まれながら勉強するのはちょっと勘弁して欲しいから…中原、お願いできるか?」
「ああ、大抵、自習室で読書か勉強をしてるから来れば良い」
「わかった。でも…その…大丈夫なのか?」
「何が?」
「いや…ほら、中原のファンは?」
「僕の何だって?」
「あっ、いや、何でもない、です。はい」
中原には隠れファンが多くいる。それには完全無視を貫いている。 森山は終始緊張しながらも嬉しそうだ。
美都瑠はこれから大沢の部屋に安田のお見舞いに行くと帰っていった。中原と森山も早速自習室で勉強すると出ていった。
明るい部屋で二人きりなんて、久しぶり過ぎて何を話せば良いかわからない。みんなが居る前では隣同士に座っていても、二人の間には少しの隙間があった。それが寂しいと思ってしまう僕はかなりヤバい。
「伊月…こっち」
「うん」
ピタリとくっ付き、田丸の腕が腰に回る。足りない。もっと隙間なく引っ付きたい。抱きついても良いだろうか?伺うように田丸を見ると惚けた笑顔がそこにある。こんな顔見たことない。いや、昨日は見たけどさ…。
一年間、意識して顔をまともに見なかった。僕の気持ちに気付かれるのは困るし、田丸に疎まれるのも嫌だった。心臓がドキドキうるさく音を立てて、顔に熱が集まる。
「伊月?どうしたの?」
「ううん」
首を振って恥ずかしさを誤魔化す。
「ホント、可愛い」
「可愛くなんか…ない…」
「ここ、座って?」
腰に回っていた腕に力を込めてグッと引き寄せ、膝の上に座らせてくれた。迷わず抱きついて隙間を埋める。
「はぁ…」
これ!これだよ。凄く安心する。
一年間、気持ちが落ち着くことはなかった。常にピリピリとした緊張があった。次に『抱いてやる』と連絡があるだろうか、それとも、もうないかもしれないと不安があった。連絡があったらあったで、二人の関係はセフレだと突きつけられたようで落ち込んだ。抱かれた後は、嬉しさと切なさが混ざり合い情緒不安定だった。
でも今は……はぁ…嬉しい…。
「伊月?ため息?」
「へぇっ?あっ!あぅ、ぇっ、ち、違…」
「素直な伊月、久しぶり。ため息じゃないって、わかってるよ。嬉しいな。俺のせいで意地っ張りになってたってとこは謝るけど…この一年間の伊月が更に愛おしくなるよ」
「朗…」
もう名前、呼んでも良いんだよね。いや、この一年だって呼んでも良かったんだけどね。自分で自分に、自分の心に鍵をかけてた。その鍵を開けて、連れ出してくれた。なあんだ。そもそも、鍵をかけたのは僕じゃなくて田丸で、その鍵を持ってたのも田丸じゃないか。
「朗…」
何度も呼んじゃぉ……。
良いよね?
田丸の胸に手を置いて顔を見る。当たり前だけど目の前に顔がある。僕を見ていた田丸と目が合う。次に唇に視線が釘付けになる。
キスしたい。
あの唇に触れて欲しい。昨日は何度も触れてくれた。唇にも、頬にも、耳にも、腕にも、胸にも…それこそ身体中。胸に置いていた手を伸ばし唇に触れる。指先を動かし唇をなぞる。僕のすることを文句も言わずじっとしていてくれる。
急に唇に力が入り、田丸の顔に笑顔を作る。
「誘ってるの?」
「ち、違…」
「ふふっ、キス、してもいい?」
「うん…いっぱい」
「わかった。いっぱい、しよ」
田丸は僕を抱いたまま立ち上がり、寝室のドアを開けた。
「えっ?今日も?」
「嫌か?」
「やっ…嫌じゃないけど…」
「嫌だったら、キスだけ…。でも、もし、中原と森山が戻ってきたら、エロい伊月を見られたくないから」
「うん」
「伊月、好きだよ」
「僕も…朗が好き」
おわり
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