28 / 45
第五章
01
しおりを挟む
「待ってよ!」
やっと止まってくれたから、多分これくらいで半額だろうと思う金額を財布から出して遠藤くんに渡した。
「いや、いいよ。奢らせてくれよ」
「そんなこと出来ないよ…」
なかなか受け取ってくれなかったけど、奢ってもらう理由がないと強く言うと、仕方ないなと渋々受け取ってくれた。
「じゃあまた一緒に食べに行ってくれる?」
断る理由もないけど、そんなに何回も食事に行く仲でもないと思う。四年も会わなければそんなに会話が続かないよ。
千明の話をしないようにしていると当然会話はぎこちなくなる。初対面の方がまだお互いのことを話したりできるからそれよりも話し辛い。
「豊と一緒なら」
「なあ、俺はいつまでも名字でしか呼んでくれないけど、土屋は半年で名前なんだな。それに…二人でいいじゃん…土屋は…」
「えっ…?」
どう言うことなのだろう?高校の時からずっと『遠藤』って呼んでた。それは自然なことだよね?千明は『陽平』って呼んでたけど、僕がそんなふうに呼ぶと自分の中で忘れることが難しくなりそうで呼べなかった。
「あの…」
「いや…じゃ、土屋と三人で」
「う、うん」
遠藤くんはまだ何か言いたげだったけどそれ以上何も言わず、ぎこちない感じで別れた。
マンションに帰って、先にお風呂に入り豊が帰るのを待つ。あまり飲んでないと良いけどな。豊はお酒に強いけど明日も仕事だし身体が心配。
ガチャと玄関の開く音が聞こえた。
「お帰り」
リビングから廊下の扉を開けると豊がいきなり抱きしめてきた。
「お帰り。ど、したの?」
「黙って」
お酒と煙草の臭いがする。豊は煙草を吸わないけどお店で服に染み付いたのかな。
キスをする豊はいつもと違ってちょっと怖い。
言葉少なく僕を抱いたままソファーへと移動して少し乱暴に降ろされた。
「豊?」
ネクタイを緩めてシュルっと抜いた。
かっこいい。
僕は似合わないけどネクタイを緩める仕草って大人の男って感じで見惚れてしまう。
そんな惚けた考えとは違って、僕の両手を頭の上で固定してそのネクタイで括り始めた。
「いや、どうしたの?」
「何で、遠藤のこと追っかけてたんだ?知らないんじゃないのか?俺が飲みに行くの待ってたのか?ん?楽しかった?遠藤のこと、好きなの?」
「んっ…あ、っ…」
歯が当たるくらい乱暴にキスされた。
いっぱい質問したのにその答えを言わせて貰えない。いつものように胸をトントンと叩くこともできない。
どうして遠藤くんと会っていたのを知ってるかはわからないけど、そのこと以外は全部誤解だ。早くその誤解を解きたいのに豊の手は忙しなく動き僕のTシャツとハーパンを脱がしていく。
豊にされることは嫌なことじゃない。抵抗はしたくないけど、誤解はきちんと解いておきたかった。
顔をずらして、喋ろうとすると顎を持たれて元に戻される。何度かそんなことをしていると…、
「嫌なのか?俺とはキスするのも嫌なのか?」
強い口調なのにその瞳は悲しげで堪らない。
「ち、違うよ。誤解を解きたいだけなんだ」
「誤解?」
「そうだよ」
「でも、遠藤のことよく知らないって言ってたじゃないか?何で追いかけるんだよ?」
「…?さっきも追いかけてたって言ってたよね?…ああ、駅で豊からの電話を切った時遠藤に会ったんだ。で、食事に誘われて…」
「だから、知らないんだろ?」
未だにネクタイを解いてくれないし、Tシャツはその括られた両手首に絡まってハーパンも脱がされほぼ全裸の僕は恥ずかしさよりも情けなくなってきた。
抵抗するつもりはない。
…ないけど、変な誤解をしてる豊は僕の話を聞こうとしていない。
「これ、解いて?」
「ダメだ」
「どうして?」
「……」
「豊、キスして?」
「……」
「…してよ…僕からできない」
やっとキスしてくれた。
いつものキス。
チュッチュッと触れる唇に涙がこぼれた。
「ごめん」
ギュッと抱きしめてくれるけど、裸の身体にボタンやベルトが擦れて痛い。
「愛してる。豊だけだよ」
宥めるように囁けば、じっと顔を見つめられた。
「誤解を解きたいんだ」
「うん」
やっと止まってくれたから、多分これくらいで半額だろうと思う金額を財布から出して遠藤くんに渡した。
「いや、いいよ。奢らせてくれよ」
「そんなこと出来ないよ…」
なかなか受け取ってくれなかったけど、奢ってもらう理由がないと強く言うと、仕方ないなと渋々受け取ってくれた。
「じゃあまた一緒に食べに行ってくれる?」
断る理由もないけど、そんなに何回も食事に行く仲でもないと思う。四年も会わなければそんなに会話が続かないよ。
千明の話をしないようにしていると当然会話はぎこちなくなる。初対面の方がまだお互いのことを話したりできるからそれよりも話し辛い。
「豊と一緒なら」
「なあ、俺はいつまでも名字でしか呼んでくれないけど、土屋は半年で名前なんだな。それに…二人でいいじゃん…土屋は…」
「えっ…?」
どう言うことなのだろう?高校の時からずっと『遠藤』って呼んでた。それは自然なことだよね?千明は『陽平』って呼んでたけど、僕がそんなふうに呼ぶと自分の中で忘れることが難しくなりそうで呼べなかった。
「あの…」
「いや…じゃ、土屋と三人で」
「う、うん」
遠藤くんはまだ何か言いたげだったけどそれ以上何も言わず、ぎこちない感じで別れた。
マンションに帰って、先にお風呂に入り豊が帰るのを待つ。あまり飲んでないと良いけどな。豊はお酒に強いけど明日も仕事だし身体が心配。
ガチャと玄関の開く音が聞こえた。
「お帰り」
リビングから廊下の扉を開けると豊がいきなり抱きしめてきた。
「お帰り。ど、したの?」
「黙って」
お酒と煙草の臭いがする。豊は煙草を吸わないけどお店で服に染み付いたのかな。
キスをする豊はいつもと違ってちょっと怖い。
言葉少なく僕を抱いたままソファーへと移動して少し乱暴に降ろされた。
「豊?」
ネクタイを緩めてシュルっと抜いた。
かっこいい。
僕は似合わないけどネクタイを緩める仕草って大人の男って感じで見惚れてしまう。
そんな惚けた考えとは違って、僕の両手を頭の上で固定してそのネクタイで括り始めた。
「いや、どうしたの?」
「何で、遠藤のこと追っかけてたんだ?知らないんじゃないのか?俺が飲みに行くの待ってたのか?ん?楽しかった?遠藤のこと、好きなの?」
「んっ…あ、っ…」
歯が当たるくらい乱暴にキスされた。
いっぱい質問したのにその答えを言わせて貰えない。いつものように胸をトントンと叩くこともできない。
どうして遠藤くんと会っていたのを知ってるかはわからないけど、そのこと以外は全部誤解だ。早くその誤解を解きたいのに豊の手は忙しなく動き僕のTシャツとハーパンを脱がしていく。
豊にされることは嫌なことじゃない。抵抗はしたくないけど、誤解はきちんと解いておきたかった。
顔をずらして、喋ろうとすると顎を持たれて元に戻される。何度かそんなことをしていると…、
「嫌なのか?俺とはキスするのも嫌なのか?」
強い口調なのにその瞳は悲しげで堪らない。
「ち、違うよ。誤解を解きたいだけなんだ」
「誤解?」
「そうだよ」
「でも、遠藤のことよく知らないって言ってたじゃないか?何で追いかけるんだよ?」
「…?さっきも追いかけてたって言ってたよね?…ああ、駅で豊からの電話を切った時遠藤に会ったんだ。で、食事に誘われて…」
「だから、知らないんだろ?」
未だにネクタイを解いてくれないし、Tシャツはその括られた両手首に絡まってハーパンも脱がされほぼ全裸の僕は恥ずかしさよりも情けなくなってきた。
抵抗するつもりはない。
…ないけど、変な誤解をしてる豊は僕の話を聞こうとしていない。
「これ、解いて?」
「ダメだ」
「どうして?」
「……」
「豊、キスして?」
「……」
「…してよ…僕からできない」
やっとキスしてくれた。
いつものキス。
チュッチュッと触れる唇に涙がこぼれた。
「ごめん」
ギュッと抱きしめてくれるけど、裸の身体にボタンやベルトが擦れて痛い。
「愛してる。豊だけだよ」
宥めるように囁けば、じっと顔を見つめられた。
「誤解を解きたいんだ」
「うん」
2
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。
天海みつき
BL
何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。
自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる