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第四章

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「太田が会いたいってさ」
「えっと、二人で行くの?僕たちのこと、報告するの?」

この前、別れる時に今度は四人でとか言ってたな。本当にそんな日が来るとは思ってなかった。

「そうだな…嫌?」
「太田が嫌かなって思うんだ。友だち同士ができるのってさ…なんか…」
「それは大丈夫じゃないかな?隆、太田になんか相談した?」
「う、うん。少し…」

あれは、豊が僕のおでこにキスする理由を知りたかったから。相談の内容はそのまま伝えなかったけど、心配はしているかもしれないのにあれから報告はしていなかった。
相談の本当の中身も、結果どうなったかも太田くんに言えなかった。

「俺もした。だから、わかってるんじゃないか?最初から二人一緒にって言ってきたから」
「そうなの…じゃあ、麻里ちゃんも一緒かな」

麻里ちゃんと太田くんは大学から付き合ってて僕もよく一緒にご飯を食べたりした。

麻里ちゃんは元々僕の友だちだった。大学の最初のオリエンテーションで何となく隣にいた麻里ちゃんと仲良くなった。
麻里ちゃんが僕を見る目は恋愛感情を全く感じてなくて、その事が僕の居心地を良いものにした。

だから太田くんよりも先に仲良くなった麻里ちゃんを太田くんが僕の彼女だって勘違いした。
麻里ちゃんは実家から遠い大学で、土地にも大学にも慣れなくて、勿論一人暮らしも初めてでまだ友だちは僕しかいなかったみたいだからよく一緒に行動していた。

勝手に恋して、勝手に失恋したなんて思って落ち込んで…あの時は大変だったな。太田くんの誤解を解いて、太田くんのことばかり話す麻里ちゃんとをくっ付けた。
僕が二人のキューピッドなんだ。





先に着いたと連絡があり急いで居酒屋に入り店員に案内されて行くと半個室って感じの席に二人が並んで座ってた。

席の入り口には暖簾がかかり、隣のお客さんとの間は仕切りが天井まであるけど、通路側は細かい格子があって行き来する人がわずかに見える。

「隆ちゃん久しぶり!元気だった?」

麻里ちゃんのよく通る元気な声は落ち込みそうな大学時代を明るくしてくれた。何度も助けられた思い出がある。

豊と付き合ってるって、ゲイだって伝えた後でも同じように接してくれるか…不安だ。
太田くんもそう。豊は『大丈夫だって』と気楽に言うけど友だちの少ない僕は二人も一度に友だちをなくしてしまうかもしれないから…急に緊張してきた。

思わず隣に座る豊の手を握る。
テーブルで隠れているから二人には見えない。豊は驚いてピクッとしたけど、自然に見えるようにこっちを見ずに僕の手を…不安を包むように握り返してくれた。

「初めまして。中野麻里子です」
「ああ、初めまして。土屋豊。よろしく」

豊と麻里ちゃんは初対面の挨拶をして取り敢えずビール、と注文してくれた。僕には取り敢えずチュウハイだけどね。

「この前も一緒に行きたかったのに哲夫くんが『男同士の話に首突っ込むな!』とか偉そうに言ってさ、隆ちゃんはわたしの友だちだってのに!」
「だって、相談があるって俺に連絡があったんだからそりゃ女に邪魔されたくないよ。なあ?」

そう言って、こっちを向いて親指を立てる。いや…サムズアップの意味がわからないよ。そんなに有意義な時間だったか?それに僕に話を振らないで欲しい。

「女って…何よ!」

言い合いを初めてしまった二人に慌てる。

「け、喧嘩なんかしないでよ!」
「隆ちゃん、相変わらずちょっとした言い争いも嫌いだね。そんなとこ好きよ」

麻里ちゃんはそんなふうに僕に優しい。太田くんも今ではこの麻里ちゃんの優しさを男にではなく女友だちに、或いは弟に向ける類のものだと理解しているから三人で会っていても疲れることはない。

そんな和やかな雰囲気に一人、豊だけは僕の腕を掴んでいた。まるで、麻里ちゃんから遠ざけるように僕の肩を抱く。

「何?隆ちゃん…もしかして…この人…?」
「えっ?お前ら…ひょっとして…?」

二人ほぼ同時に発せられた驚きの言葉に、速攻でバレてしまったことに慌てた。

怒って帰るとか言われたら嫌だな…。蔑むように『近寄らないで』とか言われたら…耐えられない。

豊以外の人にカミングアウトしたことはない。親にも言ってない。うかがうように二人を見ると驚いた顔をしているけど、今すぐ席を立って出て行こうとするでもなく、睨むとか遠ざけようとかそんな雰囲気はなかった。

「あの…」
「隆、俺が」

豊を見ると僕の頭に手を置いて、笑ってる。
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