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第三章

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今日ほど時間がゆっくり過ぎたことはない。

思い出したんだ…女の人と腕を組んで歩いてたこと。聞かない方が良いのかな?聞いたら…『あいつは彼女で、お前は彼氏』って言われたら耐えられないよ。
一人で考えても嫌なことばかり頭に浮かんでしまいダメだ。仕事にも集中できない。

夜に公園で過ごす事にあんなに心配してくれたのは、毎晩部屋に来てくれたのは僕のことが好きだからだと思う。どうでもいい奴のことなら心配なんかしないはず。今はその事を信じたい。

誰とも付き合ったことないから二股なんかかけられたこともない。でもそれがどんなに辛くて胸がギュって締め付けられるくらい苦しいかは知ってる。まあ、僕の場合はちょっと違うかもしれないけど…。違うからこそ誰も責めることができない辛さがあった。


高校の時、好きな子がいた。
勿論男。

遠藤陽平は高校二年の時に同じクラスだったから近くにいることも多くて、段々好きになってた。最初、共通の友だちがいなかったからあまり喋ることがなかったけど、修学旅行やクラス対抗である様々な行事の時には普通に会話する機会もあった。

体育の着替えやトイレでたまに会ったりするのは男女の恋愛では遭遇することのないドキドキがある。嬉しいやら恥ずかしいやら…。

告白するつもりはなくても目で追ってしまうのは仕方ない。着替えの時なんか見られるのは恥ずかしいけど、見たいから素早く着替えて友だちの向こうに遠藤くんが見えるように…友だちを見てますよって振りでその奥を見る。
友だちの多い遠藤くんは着替える時も楽しそうで、ふざけて友だちの着替えをヘッドロックで邪魔したり、筋肉自慢してるのか服脱いで見せ合ったりしてた。

自然に見えるように振る舞うなんてもう慣れてしまった。

もう直ぐ三年生になろうかという時、遠藤くんから呼び出された。

別に甘い期待をしていた訳じゃない。

ただこのところ僕を見つけると笑顔で挨拶してくれるし、よく話しかけてくれるようになった遠藤くんが同じクラスなのに、わざわざ人気のない特別教室に何の話なのかは気になった。

「悪いな…あのさ…」
「うん…」

ドキドキする。
真っ直ぐ顔を見られないから俯いて次の言葉を待った。でも僕がこんなに緊張しているのにも気付かないほど遠藤くんの方が緊張しているようだった。身体の横で握ったり開いたりしている掌は落ち着かない気持ちを代弁しているようだ。

「郷田の従兄弟…一組にいるだろ?紹介してくれないかなって思ってさ。ダメか?」

思わず顔を上げて遠藤くんを見ると、今度は後頭部に手を当てて視線を彷徨わせている。
なんか可愛い。
今の台詞さえなければよかったのに…。

従兄弟の郷田千明は僕とよく似ている女の子。よく姉弟?って聞かれるくらい。悲しいかな千明が姉さんに間違われる。女の方が大人っぽく見えるのは仕方ないよね。それに千明は不必要なほど背伸びしてるから尚更だ。同い年だってわかると双子かと言われることもある。

似ていると自分でも思う。でも…似ているのは見た目だけ。悔しいけど身長もあまり変わらないし、髪の長さは違うけどどうやら髪質も似ているようで嫌になる。
千明が地毛なんですって言って、高校入学前から淡い栗色に染めているせいで髪の色は違うけど、一ヶ月以上放っておいた頭頂部から覗く髪色は普通の黒で僕と同じだ。

所謂肉食系女子。清楚なお嬢さまを装い男を物色する。あまり関わりたくないのに、僕の家によく来るし、学校でも話しかけてくる。

素っ気なく返事をしてると本性を知らな友だちは「千明ちゃんが可哀想だろ?ちゃんと話聞いてやれよ。俺が代わりに聞いてやろうか?」なんてデレデレで毒牙にかかる。
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