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第三章

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僕のベッドで一緒に寝たいと言い出した土屋くんをなんとかなだめて、お互いの部屋で寝た。シングルベッドは狭いけど、その狭さが一緒に寝られない理由じゃない。

恋なんか実ることがないと思い込んでいたから今の気持ちや状況が上手く整理できていない。おでこにキスする理由を聞きたかっただけなのに、急展開にただ驚くばかりだ。
恋人は一生出来ないと思ってた。夢みたいだ。自分から一歩を踏み出す勇気もないし、ゲイの人が集まるお店にも大学の時に怖い思いをしたからあれきり行ってない。

土屋くんは「それじゃあ俺のベッドでもいいよ」って…別に僕のベッドだからダメだって言った訳じゃないのにな…。

「もう遅いから、何もしないのに」

と残念そうにブツブツつぶやく土屋くんに『時間があったら何するんですか?』とは聞けなかった。それに、その言葉は信用しない。さっきもキスしかしないって言ったのに…べ、別に期待してるわけじゃないから…。
恥ずかしいです…。

僕だって一緒にいたい。ずっと我慢してた。触れることすら出来ないと思ってた人がこんなに側にいたいって言ってくれてるんだ。嬉しくないはずはない。けど、そんなの緊張しちゃって寝られるはずないよ。

別々のベッドで寝たにも関わらず気持ちがたかぶってなかなか寝付けなかった僕は朝、土屋くんの濃厚なキスで起こされた。

「っん…ふぁん…ぁっん…」

自分が発する甘い声と息苦しさで目を開けると、目の前に大好きな顔がある。

「…えっ…あ…えっ…?」
「おはよ…隆之助…う~ん隆ちゃん…太田と一緒は嫌だな。隆…『りゅう』にしよう。良いよな?隆」
「えっ…はい」
「隆は『ゆたか』ね。はい、呼んで!」
「…豊くん」
「違うよ…豊」
「…豊」

よく出来ました…とご褒美を与えるようにキスされた。
さりげない仕草にも見惚れてしまう。見てないからはっきりわからないけど、いつもおでこにキスしてたように肘を付き、前髪を弄ぶ。

部屋に置いてある時計で時間を確認するといつもの朝の時間より少し早めで、昨夜あまり眠れなかった僕の瞼が再び閉じてゆく。

こんなことなら一緒に寝ればよかった。どうせ眠れないなら一緒にいたかったな。もしかしたら…案外落ち着けるかもしれないし…。

豊に抱きしめられたまま寝てしまいそうになる。ほら、豊の腕の中は落ち着くよ。まだふわふわしてるけど不安定なふわふわじゃなくって、僕を離さないこの腕が頼もしいから身体を委ねることができる。凄く安心する。今まで感じたことのない安心感。ずっとこのままでいたくなる。

「ああ、ダメダメ」

ほっぺをペチペチと叩きおでこにキスをすると、抱きしめられた。

「俺たち恋人で良いよな?」

何を今更…これで同居人なんて僕は耐えられないよ。恥ずかしいので、頷いて返事を返す。

「よし!」と嬉しさ一杯な笑顔が眩しい。いやいや…『よし!』はこっちの台詞なんだけどね。

僕たちの生活は表向きは変わらずルームシェアで男二人が同居してるってことなんだけど、朝の雰囲気から違うんだ。隙あらば僕の身体を触るし、ハグするし、キスするし…。これから出勤だってのに、困るよ。
おまけに「コーヒーはここで飲む?」と膝を叩かれた時は思わず座りそうになるじゃないか!俯いて、首を横に振ると「残念…」って…「もうちょっとだったのに」って言われたら「今度ね…」と答えてしまった。

「今日、何時に帰れる?」

豊は早速今日の予定を聞いてくる。今度こそ素直に答えた。もう嘘をつく理由もないしね。それにこれ以上、豊を傷付けたくない。

「じゃあ、外で待ち合わせてどっかで…いや、一緒に作ってここで食べよ。でも買い物行きたいし…」

と待ち合わせ場所と時間を決めて僕たちは出勤した。
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