上 下
5 / 45
第一章

04

しおりを挟む
「その前はどこに?」
「その前?」
「そう、公園の前」
「公園の前は…ファミレスとかスーパーとかコンビ……」

まずい!
これ以上嘘をついて、土屋くんを怒らせるのが嫌で誘導尋問のような質問に素直に答えていたら…全部喋ってた。

ずっと避けてたのバレバレですか?恐る恐る土屋くんを見ると怒った顔ではなく何故か泣きそうな顔だった。

「あ、あの…」
「俺のせいか?ルームシェアが嫌なら出て行くか?頼むからそんなとこで一人で時間潰すなよ。特に公園なんて危ない!…襲われるぞ」

いくら僕が華奢だからと言って、スーツ姿の男が襲われるなんて…ないない。
ああ、カツアゲとか?それも今まで経験ない。腕力には全然自信がないから襲われたらひとたまりもないだろうけど。

自分が同性しか好きにならないと自覚してからも誰にも言えずにいた。
好きになるだけの恋愛は出口がない。告って振られて次の人。そんな気楽に考えられないし告ることもないから色んなものが蓄積されて不安定な気持ちに押し潰されそうになった。
大学の時に一度だけゲイの人たちが集まる店に行ったことがある。自分の気持ちから逃げ出して発散したかったのかもしれない。

店に入ると一人の人が近づいてきた。背が高くがっちりとした体格で、ちょっと見強面のお兄さんが笑顔で話しかけてくる。

「誰かと待ち合わせ?それとも一人?」

一人だと答えると、一緒に飲もうと誘われた。お酒は好きじゃないけど、少し付き合うくらいならいいかと頷くと手を握られた。その人は飲もうと誘ったのにすぐにでもその店を出て多分…ホテルに行きたかったんだろう、手を引いて出口に向かう。

でも僕が嫌がったら、じゃあって個室に連れて行かれた。

抱きしめられ、キスされて、怖くなってその人を突き飛ばして逃げてしまった。
多分僕がそんな抵抗をするなんて思ってなかったんだろう。普通なら力尽くで突き飛ばしたってビクともしなさそうな逞しい身体だったから、逃げないようにするなんて簡単なことだったと思う。していることとは裏腹な優しげな声で「何だよ恥ずかしいのか?」なんて聞いてくる間に逃げ出した。

でも、普通に生活していれば、いくら平均より低い身長で、筋肉の付いていない細く頼りない身体の僕でも襲われそうになったことはない。

なんだか泣きそうな土屋くんに申し訳なさでいっぱいになった。

「ごめんね。違うんだ…ここはとっても気に入ってる。通勤にも便利だし、家賃もとっても満足してるんだ。土屋さえ良ければこれからもここにいたいんだけど…」

後は自分の問題だし。
いや…後も先も自分の問題しかないんだけど…。

「理由を聞いても良い?」
「……」

それは流石に言えないよ。

口を開けない僕に、「じゃあさ…」と提案をする。

「これからはまっすぐ帰って来て。絶対に公園であんなふうに時間潰さないで。後、……できたら…嫌、いい」
「わかった。ごめん」

土屋くんが何を言いたかったのかわからないけど、本人は僕の答えに満足したのか椅子から立ち上がり、僕の頭に手を置いてまるで『よしよし』と撫でるようにしてシャワーを浴びに浴室へと消えた。

「ふっ~…」

深く息を吐く。
酸欠になりそうなほど息を詰めてたのか?

なんだったんだ?まあ、そりゃ嫌かもしれない。自分を避けるようにされたら僕だって嫌な気持ちになる。いつ気付いたのかわからないけど、最初からと思われてたら期間も長いし、心配もされてたからもっとなじられたって文句は言えなかった。

失敗したな。
土屋くんに悪いことした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

とある隠密の受難

nionea
BL
 普通に仕事してたら突然訳の解らない魔法で王子の前に引きずり出された隠密が、必死に自分の貞操を守ろうとするお話。  銀髪碧眼の美丈夫な絶倫王子 と 彼を観察するのが仕事の中肉中背平凡顔の隠密  果たして隠密は無事貞操を守れるのか。  頑張れ隠密。  負けるな隠密。  読者さんは解らないが作者はお前を応援しているぞ。たぶん。    ※プロローグだけ隠密一人称ですが、本文は三人称です。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

処理中です...