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ヒューメニア戦争編
第107話 ??????
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いつもの会社。いつもの事務所。
そして、いつもの怒号。
専務が俺のデスクへとやって来る。顔を赤くして明らかに怒っているという様子で。
「おい××。この案件クレームばっかじゃねぇか! めんどくせぇ仕事回すんじゃねぇよマジで」
「それは専務が仕様を変えたんですよ? 俺は先方と事前に……」
「はぁ!? 言い訳してんじゃねぇ! クレーム対応しとけよ!」
「言い訳じゃないですよ」
「何だその顔は? スカした顔しやがって」
専務に胸ぐらを掴まれる。
「罪にならねぇならお前マジぶっ殺してるわ」
専務は一通り怒鳴り散らすとデスクへと戻った。ほとぼりを覚めた頃を見計らって課長が書類を渡して来た。
「なぁ××。俺今日ちょっと用事あんだわ。これやっといて」
「……いつまでにやればいいですか?」
「明日の朝には出さなきゃ行けねぇからさ。頼んだぞ」
「俺に徹夜しろってことですか?」
「まあまあ。君ならできるでしょ。優秀なんだからさぁ」
「優秀って……別に」
「はぁ? 嫌味かよ。デカい案件決めて調子乗ってるね。君」
「あれは決めたのは俺ですけど……専務の案件になりましたよ」
「俺はそういうことを言ってんじゃないの。もっとわきまえろってこと。じゃ、頼んだからな」
課長は足早に事務所を後にした。
「おい! なんだこのミスはよぉ!」
再び専務の声が聞こえる。奥を見ると後輩が何か大きな失敗をしたようだった。
「え~? 自分××さんに言われた通りにやっただけなんスけど?」
「おい××!!」
専務にデスクへ呼び出される。
「お前はよぉ、どんな教育してやがんだ!」
「俺はちゃんと指示しましたよ。メモだって……」
「そんなの貰ってないっスよ」
「そんなことないだろ……それに大事になる前に報告できただろ」
「そんなの教わって無いですもん。勘弁して下さいよ俺のせいにするのは」
「……だってよ。テメェが尻拭いしてやれよ。俺は知らねぇからな」
専務はため息を吐くと吐き捨てるように言った。
「ホント使えねぇ。どうせクソみたいな人生だったんだだろうな。お前みたいな馬鹿は」
「……」
……下らない。何も考えるな。
「言い返してみろよ情けねぇ。ゴミが」
怒りを持っても無駄だ。
「お前なんで生きてんだよ? 俺に迷惑ばっかかけやがって。死ねよ。死ね。テメェに価値なんかねぇんだよ」
心を殺せ。そうすれば何も感じない。
「おい。なんだその顔は? 文句あるなら言えよ」
早く帰りたい。
どれだけ頑張ろうが、誰からも認められない。
成果は奪われる。
誰かに妬まれる。
トラブルは全部……俺のせい。
早く帰って「エリュシア・サーガ」がプレイしたい。
あれだけが、俺を……。
その時。急に声が聞こえた気がした。
女の声が。
——良くやった。貴様の働き、我の望む以上の成果を上げてくれた。
この声……知っている。誰の声だ?
——礼を言うのは我の方だ。其方無しには今日の成果はありえなかった。我1人ではな。
聞いていると嬉しさが込み上げる声。この声の主の為ならなんだってできる気がする。
——我には……其方が必要なのだ。
答えを探すように窓を見る。
そこに映るのは黒いフードの男。
黒い眼球に緋色の瞳。
魔王デモニカ・ヴェスタスローズの配下の男。
そうだ。
俺は××なんかじゃない。
俺は……。
「おい! 聞いてんのか××!!」
専務が詰め寄って来る。
突然、この風景に違和感を覚えた。どこか無機質な風景。ヴィダルのままの俺。その全てがチグハグだった。
……。
「あぁ。なるほどな。そういうことか」
「……? 何言ってんだテメェ!?」
右手を見ると、粗雑なダガーが握られている。
これは……初めて人身売買を目撃した時の……。
「おい! 何とか言ったらどうなんだ!!」
専務の問いに答える代わりにその肩にダガーを突き刺した。
「がっ!? あ"ああああああああああ!?」
そのまま数度顔面をデスクへ叩きつけ、その瞳を覗き込む。
「人の過去を覗き見るとは随分趣味が悪いじゃないかレオンハルト」
「き、貴様……なぜ!?」
専務の声がレオンハルトの声へと変化する。
「大方アレだろう? 俺の精神に負荷をかけ体を乗っ取るつもりだったのだろう? デモニカ達の救出を待つ為に」
そう告げた途端。事務所の中だった景色が何もない空間へと変化していく。専務の体も瓦礫のように崩れ去り、その中から真の姿が現れる。
しかしその姿は……レオンハルトは真っ黒い影になっていた。
かろうじて人の形は保っているがのっぺりとした人影に。そして、両目があった場所には白い光が2つ灯っていた。
「魔神竜の力を得るとそんなことまで可能になるのか」
「か、過去を見たぞ! 貴様は我らの世界と何も関係は無いではないか! なぜ私の邪魔をする!?」
「そんなこと決まっているだろう?」
レオンハルトの瞳を覗き込む。もう意思すらも伝わって来ない弱々しい光を。
「貴様は俺の……いや、俺達の世界を穢したからだ」
「な……っ!?」
「精神拘束」
その白い光に鎖が繋がれる。
「ぐあぁううう……!?」
「このまま精神支配をかけるとどうなるか知っているか? お前の自我は崩壊し、永遠の苦痛に囚われる」
「や、やめてくれ! やめ——」
「精神支配」
レオンハルトの両目を覗き、命令を下した。ヤツが最も恐れる瞬間を。
「数百年前の記憶……魔神竜に殺された瞬間を永遠に繰り返せ」
「ああああああああぁぁぁ……あ……あ……」
レオンハルトの影がその存在感を失っていく。弱々しくなっていく。かつて勇者を名乗った男は……哀れなまでに臆病な存在となっていた。
「恨むなら、傲慢に支配された己を恨め」
レオンハルトが消えていく。色が徐々に薄くなっていく。やがてその存在が消えるように闇に溶け込んでいった。
辺りを見回してみる。何も無い空間が延々と続く空間。
「ここが、混沌世界……」
精神と物質が混ざったような……だから俺の記憶が具現化していたのか。
握られていたはずのダガーは跡形も無く消えていた。
レオンハルトは気が付かなかったのかもしれないが……精神がこの世界に影響を及ぼすのなら、強く願えば帰れるかもしれない。
……。
帰りたい。
俺のいるべき世界。みんなの所へ。
デモニカのいる場所へ。
「ヴィダル」
デモニカの声が聞こえる。俺の名前を呼ぶ声。
声が聞こえる先から、一筋の光が差し込む。
その光を掴むように手を伸ばすと、目の前が眩いまでの明るさに包まれた——。
◇◇◇
感覚が戻っていく。
横たわる大地の感触。頬を伝う風。そよぐ草の音……。
目を開けると、デモニカが俺のことを覗き込んでいた。
「ヴィダル!?」
彼女の顔が歪む。見たことのない顔……見たことのない表情。その瞳から水滴がこぼれ落ちた。
「貴方が涙を流すのは、珍しい、な……」
デモニカが涙を拭いながら笑う。
「これは、デモニカ・ヴェスタスローズの涙ではない……ただの神だった者の涙、だ」
デモニカに抱き起こされる。
「よく戻った。よくぞ……我らの元へ」
辺りを見回すと、みんなが俺を見ていた。
レオリアが俺の元にしゃがみ込む。
「ヴィダル。戻って来てくれて、ありがとう」
「何を……泣いているのですかレオリア? 私は信じていましたから。必ず戻って来ると」
「な、何を!? 僕だって信じてたんだから!」
「フィオナだってさっき泣いてたじゃないかよぉぉ……ううう~」
フィオナとレオリアが喧嘩をしているのをナルガインが号泣しながらなだめていた。
「ナルガイン様ってそんな風に泣くんですねぇ……」
その様子を見てザビーネがオロオロと狼狽える。彼女から戦闘中の邪悪さはすっかり消え去っていた。
「ふふ。皆、其方のことを心配していたぞ」
みんなが俺を?
……やっぱり、俺の居場所はここだ。
「コラァ!! 妾が真面目に仕事しとる間に何を感動シーンやっておるのじゃあ!!」
いつの間にかイリアスが後ろで飛び跳ねていた。
……怒り心頭といった様子で。
「そんなに怒らないで下さいよぉ~。さっきまでヴィダル様が大変だったんですからぁ」
「な、なんじゃとぉ……? 一体何があったのじゃ?」
訳が分からないという顔をするイリアスを見て笑いが込み上げた。
「さぁ、みんな戻ろう。デモニカ様も」
デモニカの手を取って立ち上がる。
「どこに戻るのヴィダル?」
不思議そうな顔をするレオリアの頭を撫でた。
「戦後の処理。俺達の仕事にさ」
そして、いつもの怒号。
専務が俺のデスクへとやって来る。顔を赤くして明らかに怒っているという様子で。
「おい××。この案件クレームばっかじゃねぇか! めんどくせぇ仕事回すんじゃねぇよマジで」
「それは専務が仕様を変えたんですよ? 俺は先方と事前に……」
「はぁ!? 言い訳してんじゃねぇ! クレーム対応しとけよ!」
「言い訳じゃないですよ」
「何だその顔は? スカした顔しやがって」
専務に胸ぐらを掴まれる。
「罪にならねぇならお前マジぶっ殺してるわ」
専務は一通り怒鳴り散らすとデスクへと戻った。ほとぼりを覚めた頃を見計らって課長が書類を渡して来た。
「なぁ××。俺今日ちょっと用事あんだわ。これやっといて」
「……いつまでにやればいいですか?」
「明日の朝には出さなきゃ行けねぇからさ。頼んだぞ」
「俺に徹夜しろってことですか?」
「まあまあ。君ならできるでしょ。優秀なんだからさぁ」
「優秀って……別に」
「はぁ? 嫌味かよ。デカい案件決めて調子乗ってるね。君」
「あれは決めたのは俺ですけど……専務の案件になりましたよ」
「俺はそういうことを言ってんじゃないの。もっとわきまえろってこと。じゃ、頼んだからな」
課長は足早に事務所を後にした。
「おい! なんだこのミスはよぉ!」
再び専務の声が聞こえる。奥を見ると後輩が何か大きな失敗をしたようだった。
「え~? 自分××さんに言われた通りにやっただけなんスけど?」
「おい××!!」
専務にデスクへ呼び出される。
「お前はよぉ、どんな教育してやがんだ!」
「俺はちゃんと指示しましたよ。メモだって……」
「そんなの貰ってないっスよ」
「そんなことないだろ……それに大事になる前に報告できただろ」
「そんなの教わって無いですもん。勘弁して下さいよ俺のせいにするのは」
「……だってよ。テメェが尻拭いしてやれよ。俺は知らねぇからな」
専務はため息を吐くと吐き捨てるように言った。
「ホント使えねぇ。どうせクソみたいな人生だったんだだろうな。お前みたいな馬鹿は」
「……」
……下らない。何も考えるな。
「言い返してみろよ情けねぇ。ゴミが」
怒りを持っても無駄だ。
「お前なんで生きてんだよ? 俺に迷惑ばっかかけやがって。死ねよ。死ね。テメェに価値なんかねぇんだよ」
心を殺せ。そうすれば何も感じない。
「おい。なんだその顔は? 文句あるなら言えよ」
早く帰りたい。
どれだけ頑張ろうが、誰からも認められない。
成果は奪われる。
誰かに妬まれる。
トラブルは全部……俺のせい。
早く帰って「エリュシア・サーガ」がプレイしたい。
あれだけが、俺を……。
その時。急に声が聞こえた気がした。
女の声が。
——良くやった。貴様の働き、我の望む以上の成果を上げてくれた。
この声……知っている。誰の声だ?
——礼を言うのは我の方だ。其方無しには今日の成果はありえなかった。我1人ではな。
聞いていると嬉しさが込み上げる声。この声の主の為ならなんだってできる気がする。
——我には……其方が必要なのだ。
答えを探すように窓を見る。
そこに映るのは黒いフードの男。
黒い眼球に緋色の瞳。
魔王デモニカ・ヴェスタスローズの配下の男。
そうだ。
俺は××なんかじゃない。
俺は……。
「おい! 聞いてんのか××!!」
専務が詰め寄って来る。
突然、この風景に違和感を覚えた。どこか無機質な風景。ヴィダルのままの俺。その全てがチグハグだった。
……。
「あぁ。なるほどな。そういうことか」
「……? 何言ってんだテメェ!?」
右手を見ると、粗雑なダガーが握られている。
これは……初めて人身売買を目撃した時の……。
「おい! 何とか言ったらどうなんだ!!」
専務の問いに答える代わりにその肩にダガーを突き刺した。
「がっ!? あ"ああああああああああ!?」
そのまま数度顔面をデスクへ叩きつけ、その瞳を覗き込む。
「人の過去を覗き見るとは随分趣味が悪いじゃないかレオンハルト」
「き、貴様……なぜ!?」
専務の声がレオンハルトの声へと変化する。
「大方アレだろう? 俺の精神に負荷をかけ体を乗っ取るつもりだったのだろう? デモニカ達の救出を待つ為に」
そう告げた途端。事務所の中だった景色が何もない空間へと変化していく。専務の体も瓦礫のように崩れ去り、その中から真の姿が現れる。
しかしその姿は……レオンハルトは真っ黒い影になっていた。
かろうじて人の形は保っているがのっぺりとした人影に。そして、両目があった場所には白い光が2つ灯っていた。
「魔神竜の力を得るとそんなことまで可能になるのか」
「か、過去を見たぞ! 貴様は我らの世界と何も関係は無いではないか! なぜ私の邪魔をする!?」
「そんなこと決まっているだろう?」
レオンハルトの瞳を覗き込む。もう意思すらも伝わって来ない弱々しい光を。
「貴様は俺の……いや、俺達の世界を穢したからだ」
「な……っ!?」
「精神拘束」
その白い光に鎖が繋がれる。
「ぐあぁううう……!?」
「このまま精神支配をかけるとどうなるか知っているか? お前の自我は崩壊し、永遠の苦痛に囚われる」
「や、やめてくれ! やめ——」
「精神支配」
レオンハルトの両目を覗き、命令を下した。ヤツが最も恐れる瞬間を。
「数百年前の記憶……魔神竜に殺された瞬間を永遠に繰り返せ」
「ああああああああぁぁぁ……あ……あ……」
レオンハルトの影がその存在感を失っていく。弱々しくなっていく。かつて勇者を名乗った男は……哀れなまでに臆病な存在となっていた。
「恨むなら、傲慢に支配された己を恨め」
レオンハルトが消えていく。色が徐々に薄くなっていく。やがてその存在が消えるように闇に溶け込んでいった。
辺りを見回してみる。何も無い空間が延々と続く空間。
「ここが、混沌世界……」
精神と物質が混ざったような……だから俺の記憶が具現化していたのか。
握られていたはずのダガーは跡形も無く消えていた。
レオンハルトは気が付かなかったのかもしれないが……精神がこの世界に影響を及ぼすのなら、強く願えば帰れるかもしれない。
……。
帰りたい。
俺のいるべき世界。みんなの所へ。
デモニカのいる場所へ。
「ヴィダル」
デモニカの声が聞こえる。俺の名前を呼ぶ声。
声が聞こえる先から、一筋の光が差し込む。
その光を掴むように手を伸ばすと、目の前が眩いまでの明るさに包まれた——。
◇◇◇
感覚が戻っていく。
横たわる大地の感触。頬を伝う風。そよぐ草の音……。
目を開けると、デモニカが俺のことを覗き込んでいた。
「ヴィダル!?」
彼女の顔が歪む。見たことのない顔……見たことのない表情。その瞳から水滴がこぼれ落ちた。
「貴方が涙を流すのは、珍しい、な……」
デモニカが涙を拭いながら笑う。
「これは、デモニカ・ヴェスタスローズの涙ではない……ただの神だった者の涙、だ」
デモニカに抱き起こされる。
「よく戻った。よくぞ……我らの元へ」
辺りを見回すと、みんなが俺を見ていた。
レオリアが俺の元にしゃがみ込む。
「ヴィダル。戻って来てくれて、ありがとう」
「何を……泣いているのですかレオリア? 私は信じていましたから。必ず戻って来ると」
「な、何を!? 僕だって信じてたんだから!」
「フィオナだってさっき泣いてたじゃないかよぉぉ……ううう~」
フィオナとレオリアが喧嘩をしているのをナルガインが号泣しながらなだめていた。
「ナルガイン様ってそんな風に泣くんですねぇ……」
その様子を見てザビーネがオロオロと狼狽える。彼女から戦闘中の邪悪さはすっかり消え去っていた。
「ふふ。皆、其方のことを心配していたぞ」
みんなが俺を?
……やっぱり、俺の居場所はここだ。
「コラァ!! 妾が真面目に仕事しとる間に何を感動シーンやっておるのじゃあ!!」
いつの間にかイリアスが後ろで飛び跳ねていた。
……怒り心頭といった様子で。
「そんなに怒らないで下さいよぉ~。さっきまでヴィダル様が大変だったんですからぁ」
「な、なんじゃとぉ……? 一体何があったのじゃ?」
訳が分からないという顔をするイリアスを見て笑いが込み上げた。
「さぁ、みんな戻ろう。デモニカ様も」
デモニカの手を取って立ち上がる。
「どこに戻るのヴィダル?」
不思議そうな顔をするレオリアの頭を撫でた。
「戦後の処理。俺達の仕事にさ」
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