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ヒューメニア戦争編

第100話 勇者の戦い ーレオンハルトー

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 霧の発生と共に魔王軍が進軍を開始した。天候を操作するなど……ヤツらどのような手を使ったのか。

 まぁいい。こちらの方が数は上。敵布陣を見極め対応すればいい。

「レオンハルト様! 東側の部隊も攻撃を受けました」

「ヤツら、攻撃部隊を二極化させたのか」

 視界を奪う霧に東西への攻撃……さらなる戦力の分散は考えられるか?

「東側にナルガインはいるか?」

「ナルガインの部隊が攻撃しているようです」

 魔王国へ送った密偵によると、戦においてはナルガインこそが奴らの主軸。全力を持って潰すべきか。

「メリーコーブの部隊へ対応するように通達しろ。敵幹部のナルガインを最優先で殺すようにとな」

「はっ」

 メリーコーブにはヴェドグラがある。しかし、まだだ。不足した戦力分は強化兵士を送るか。

 どれほどを回す? 全力を持って進軍を阻止するのであれば3分の2は投入した方が良い。

 ……いや、ナルガインが誘導であることも考えられる。

「強化兵士部隊の半数・・を東側へ」

「こちらの戦闘はどうされるので?」

「私が出よう」

「レオンハルト様が……ですか?」

「そうだ。何か問題があるか?」

「い、いえ……分かりました。各部隊へ通達致します」

 伝令の兵士が走り去って行くのを見送り、愛馬にまたがる。魔神竜の魔素により強化され、魔獣と化した愛馬に。


武装召喚ヴォイドウェポン


 召喚魔法を告げると、右手に燃え盛る聖剣が現れた。

 こちらの部隊の指揮は恐らくエスタ。いや、魔王デモニカ……貴様の首、私が頂く。



◇◇◇

 魔王軍の雑魚どもを斬り伏せながら最前線へと馬を走らせる。

「布陣を突破している者がいるではないか。部隊の者は何をやっている」

 前方には壁のように列を成して進軍するゴーレム兵。上空にはハーピー。フェンリル族も兵士達の隙間を縫うように攻撃を加えていた。


「死ねぇ魔法士!!」

「ひっ……!?」


 視界の端にハーピー兵が女魔法士へと襲いかかるのが目に入った。

「ぬるい攻撃だな」

 馬を2人へと突撃させ、ハーピーの脚を掴む。

「な!? 離せっ!?」

けがらわしい鳥女が、死ね」

 そのままハーピー兵の顔面にフレイブランドを突き刺した。
 
「ギァッ!?」

 断末魔の悲鳴を上げることなく、そのハーピーはフレイブランドの炎に飲み込まれた。

「アリス!? 皆あの男を狙え!」

 戦場を飛び回っていたハーピー達が攻撃対象を私へと変える。

「はぁ……鬱陶しい者どもだ。君。大地へ氷結魔法フロストを」

「は、はい!」

 女魔法士が放った魔法が大地を氷結させる。そこへフレイブランドの炎を灯し、上昇気流を発生させた。

 その風圧を利用し、ハーピー達のいる空へと舞い上がりスキルを放つ。

獄炎空舞斬ごくえんくうぶざん!」

 空中で回転するように斬撃を放つと、ハーピー達は一瞬にして消し炭となった。

「大丈夫か?」

「す、すごいですレオンハルト様!」

「そんなことを言っている場合ではない。今からゴーレム兵に対処する。君は他の魔法士達へ伝えてくれ。他の者を支援するようにと」

「分かりました!」

 女魔法士が後方へと走っていく。


 ……。


 ちっ。無能はこれだから困る。

 だが、らしく・・・振る舞っておかねばいかんな。

 拡声魔法エコーを使い、戦場の者達へと声をかける。

「聞け! 今から勇者レオンハルトがスキルを放つ! 巻き込まれぬよう後方へ下がれ!」 

「レオンハルト様だ!」
「勇者様が来てくれた!」
「巻き込まれぬよう早く下がれ!」

 兵士達が口々に叫び、大地が割れるように人の群れが開かれていく。その先には進軍せる魔王軍の部隊。


 聖剣を遥か前方のゴーレム兵へ向ける。


「意思の無い傀儡くぐつ共よ。焼き尽くしてやろう」

 フレイブランドを肩に担ぎ、スキルを放つ構えを取る。


 目標のゴーレム兵は1000体ほど。他にハーピー600、フェンリル族500、エルフ弓兵が300、アンデッドが800……か。


 一撃で消し飛ばしてやろう。


獄炎崩撃斬ごくえんほうげきざんッ!!」


 聖剣から放たれた炎が大地を駆け抜け、1体のゴーレムへと直撃する。


「……っ!?」


 瞬間。


 ゴーレム兵を中心として爆発が巻き起こり、とてつもない熱と爆風が周囲を支配した。

 巻き込まれた敵兵達の悲鳴が上がる。運悪・・く生き延びてしまった者は、炎に焼き尽くされ、地獄の苦しみの中悶え苦しむ。


 その後に巻き起こるのは歓声。


 我が兵士達が上げる雄叫び。


 私を称賛する声。


「レオンハルト様が道を開いて下さったぞ! 突撃を開始しろ!」

 兵士達が一斉に走り出す。その目に灯るのは勝利を確信した火の光。狂気を孕んだ希望の光。

 ふふふ。配下達は無能故に力を見せつければすぐに士気が上がる。


「クソぉ!! 生きている者は体制を立て直せ! ヒューメニア軍を迎え撃て!」


 かろうじて爆発を逃げ延びたフェンリル族達が戦場を駆け抜ける。

「……頃合いだ。強化兵士部隊を最前戦へ投入しろ」

 拡声魔法エコーにより私の声が響く。

 数秒後。

 我が部隊・・・・の者達が現れた。


 疾風のように現れたのは獣人の戦士達。


「先に到着したのは獣人か。貴様達の出来損ない……フェンリル族どもを食い殺せ」


「ガルアアアアア!!」


 半狂乱の獣人達が、フェンリル族達へと襲いかかる。

「は、速い!? ウワアアアアアッ!?」

 強靭な肉体に俊敏な動き、およそ人では取れぬ軌道で獣人達がフェンリル族共を食い尽くしていく。

「なんだコイツら……!? ぐあ"っ!? つ、強すぎる!?」

 魔王軍の兵士達が蹂躙されていく。引き裂かれ、噛みちぎられ、断末魔の声と共に息絶えていく。


 ……魔素による強化兵士の仕上がりは万全だな。


 この戦、我が軍の勝利は絶対だ。


 魔王デモニカと配下の者共。貴様達に屈辱的な敗北を与えてやろう。
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