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ヒューメニア戦争編
第96話 転移の真実 ーヴィダルー
しおりを挟む「これが、我が今の姿……魔王となった経緯」
デモニカがゆっくりとその瞳を開いた。
「我は創世の神と魔神が結び付いた存在。人格はエスタを引き継ぎ、2つの記憶が混ざり合っている。もはやこの身の内に宿る感情は己が子供達への愛だけではない。裏切った者達への憎しみもまた、我の中核を成している」
彼女が自虐的に笑う。
「ふふ。しかし、レオンハルトまで転生しているとはな。魔神め、その記憶のみ我へと引き継がなかったのだろうな……性格の悪いことだ」
「……デモニカはなぜ仲間を求めた? 今の話を聞く限りとてもじゃないが再び誰かを信じることなどできないだろ?」
「……魔神竜は結束したレオンハルト達に討たれた。その記憶が我に魔王軍を作ることへ駆り立てた」
デモニカが魔王の間を進む。そして、石造りの王座へと腰を降ろした。
「だが、封印の暗闇を出たばかりの我は、この世界の人間を信用できなかった……だからこそ我は異なる世界に求めた。我と同志となってくれる者を」
王座を撫でるデモニカ。その姿は在りし日に想いを馳せるようでもあった。
「この古代遺跡はセレスティアが我の為に建造してくれた物なのだ」
「セレスティア……原初のエルフと言ったか?」
「そう。彼女が異世界への門としてこの遺跡を作った。創世の神エスタが消えてなお、蘇ることを信じて……その想いだけは、信用しても良いと思えた」
デモニカが何かを操作すると、遺跡内に轟音が響き渡り、王座の前に空間の歪みが現れた。
「そして、この門から其方達の世界へ送ったのだ。『我が作り、愛した世界』のイメージを」
「世界の……イメージ」
……。
そうか。
以前、ゲーム『エリュシア・サーガ』の制作インタビューを読んだことがある。そこには開発者の発言が記されていた。
「ある日、アイデアが波のように押し寄せ原案を作るのに苦労はしなかった」と。
俺がプレイしたのは女神エスタが体験した世界そのもの。そして、それは同志を見定める為の試験でもあった。
「そうして、我はこの世界を最も愛してくれる者……其方を見つけ出し、我の元へと引き摺り込んだ」
あの日、突然デモニカの手が現れた。俺をこの世界へと呼ぶ為に。
それが、俺がこの世界へと転移した真実。
今までのことが走馬灯のように頭を駆け巡る。元の世界での出来事が。
辛い日々。
認められず、嫌なことを押し付けられ、周囲の者達に騙され、利用され、裏切られ続けた日々。心を殺されるような日々。
深い海の底に沈んでいたかのような日々。
その中で唯一俺を救ってくれたのはエリュシア・サーガだけだった。
それを作ったのがデモニカ。創造と破壊を司る彼女。
俺が望んでいた世界は、本物だったんだ。虚構じゃなかった。
この世界で多くの命を奪ったことが現実だと突きつけられてなお、その喜びの方が勝る。
いつも思っていた。元の世界は俺の生きる場所じゃない。誤ってあの世界に生まれてしまったんだって。
「俺は……嬉しい。デモニカが全てを語ってくれたことも。俺を選んでくれたことも」
「其方が涙を流すのは、珍しい、な……」
「これは……ヴィダルの涙じゃない。ただの男だった者の涙、だ……」
込み上げる感情を抑え込む。
俺の理想は女神エスタの望む世界。
デモニカが目指す世界。
……なら。
「デモニカ。ヒューメニアへ戦争を仕掛ける。周りくどい侵略の正当性はもはや必要ない」
ここだ。ここが俺が生きるべき場所。
俺にとってここはもう異世界じゃない。
「魔王軍が、正面から勇者レオンハルトを討つ」
デモニカの瞳を見つめ、彼女の両手を取る。
「俺はデモニカに絶対の忠誠を誓う部下であり、理想を求める同志……」
思えば、デモニカはずっとそれを望んでいたのかもしれない。今までのやり取りを思い返せば……。
「ヴィダル」
デモニカも真っ直ぐ俺の瞳を見据えた。
「其方の言葉でもう一度だけ聞きたい。我と共に戦ってくれるか?」
「もちろん。俺は貴方の為ならなんだってやってみせる」
彼女は俺の言葉を噛み締めるように目を閉じる。
「この世界の全てを手に入れよう」
「この世界を取り戻そう。貴方の元に」
デモニカが両の眼を開く。黒い眼球に緋色の瞳……邪悪なる者の証を。
それは破壊を司る魔神の姿。
しかし、その先にあるのは女神の理想の世界……創造だ。
破壊と創造を司る聖戦。
これはシナリオだ。
全ての者達が支配を受け入れる最高のシナリオ……。
それを持って人間の国ヒューメニアを落とす。
神を裏切った男、勇者レオンハルト。
我が主君、デモニカ・ヴェスタスローズへ悲しみと屈辱を与えた張本人。
貴様に贈ろう。
最高の敗北を。
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