上 下
66 / 108
復活の厄災編

第66話 王国への罠 ー王女マリアー

しおりを挟む
 魔王国建国の日からヒューメニアの様相はすっかり変わってしまった。

 お父様達は連日会議詰め。私も何かあった時の為に参加するよう言われた。ずっと入りたかった政治に参加できるから良いのだけど……。

「市民の不満が噴出しております。貧困層の中には魔王国へと向かおうとする者すら現れました」

 役人の報告にトルコラが喚き散らす。

「奴らは何者なのだ!? 突然現れて我らの作り上げた物を冒涜しおって! バイス王国が落とされただと!? そんなことはあってはならぬ!」

「落ち着きなさいトルコラ。そんなことを言ったところで起きた現実は覆すことはできませんわ」

 トルコラが面食らった顔でお父様を見る。

「……くっ!? 陛下! これからどのようにされるおつもりで!?」

「……まずは民達を抑えねばなるまい。警備の兵を増やせ。役人には民の意見を吸い上げるよう指示しなさい」

「た、民に屈するというのですか! 大国ヒューメニアの王が!?」

「トルコラよ。それができなかったからこそバイス王は国を奪われたのでは無いのか?」

「う……」

「今は外敵に備え、内輪の揉め事を抑える時。そうは思わぬか?」

「……そ、そのように致します」

 トルコラが数人の部下を引き連れて会議室を出て行った。

「ふぅ。アレにも困りものだな」

 ため息を吐かれるその顔には疲れが浮かんでいた。

「お父様。お疲れのところ申し訳ございませんが、今後の魔王国への対応はどうされるおつもりですか?」

「あの魔王の口ぶり。一国の主で収まる器では無いだろうな。必ず他国へと攻め入るだろう」

 お父様が手を払うと、他の者が席を外す。それだけで私の意見を聞いて下さるということが分かった。

 全員がいなくなったのを確認し、お父様へと意見を述べる。

「私はハーピオンとの同盟を結ぶべきだと思いますわ。今の2カ国の関係は良好。非公式の軍事同盟ならば結べるかと」

「なるほど……だが、長きにわたる遺恨。そう易々と無くなる物ではないぞ」

「王族が直接交渉せねばならぬでしょうね」

 この状況で動ける者は1人しかいない。お父様には国内を治めて貰わなければならない。弟のアレクはまだ幼すぎる。親類では……難しいだろうな。

「私がハーピオンへと向かいます」

「……我が娘が聡明で良かった。この国のおきてさえ無ければ其方そなたに正式な王位を渡したいほどだ」

「私はアレクセイへの『つなぎ』。そのお心だけで十分ですわ」

「これで後もう少し私の助言を聞いてくれると良いのだが」

 お父様が少年のような笑みを浮かべる。

「もう! 真面目な話をしているのに!」

「はっはっは。いや、期待しているぞ。後はハーピオンへと送り出す理由を考えねばな。王女の出国なのだ。皆の耳に入る。真実を告げる訳にもいかぬしな……」

 お父様が唸っていると、扉を叩く音がした。

「入れ」

 1人の兵士が中へと入る。

「陛下。謁見の願いが出ております」

「おぉ。思ったより早かったな」

「来客? 誰ですの?」

「グレンボロウのアルフレド殿だ。先日より熱心に使い魔を送ってくれておってな」

 アルフレド様が? あの方のお父上はヒューメニア王族と懇意にしていたけれど……なぜこのタイミングで?

「何やら伝えねばならぬことがあるらしい。其方も来るか?」

「はい」


◇◇◇

 応接室に入ると貴族の青年が人の良さそうな笑みを浮かべた。

「そちらの美しい女性は?」

「娘のマリアだ。アルフレド殿と会うのは幼い時以来か」

「姫様でしたか。あまりに美しくなられていたので……失礼致しました。いけませんね。いつまでも子供時代の印象を持っていては」

「久しく会う者には皆そう言われるよ。中々聡明な子なのだが、それがたたったのか相手がおらんのだ」

「お、お父様? 何を……」

 急に縁談の話を出されたので顔が熱くなってしまう。

「いやいやすまん。して、何用で我が国へ来られたのかな?」

「その前にまず謝罪を。申し訳ございません。陛下にこのような形で謁見をお願い致しまして」

「良い。他の者には聞かれたく無いことであったのだろう?」

「実は……先日より我が国の交易ルートにあるナイヤ遺跡にて不可思議な現象が起きておりまして。陛下ならば何かご存知では無いかと」

「ナイヤ遺跡だと? どのような現象なのだ?」

「はい。遺跡の奥より黒い霧が発生し、周辺のモンスターが凶暴化しております」

「黒い霧……か」

 ナイヤ遺跡。我が国の古文書では何かが封印されているという記述があったはずだ。相当古い本だったから詳細までは分からなかったけれど。

「ご存知の通り我が国は貴族と商人の集合体。我が国の部隊だけでは凶暴化したモンスターが彷徨うろつくあの場所の調査は困難を極めます。お力添えを頂ければと」

「ふむ」

「かの交易ルートはヒューメニアへと至る道でもあります。このまま行けば貴国にも損害があるかと思いまして」

 お父様が何かを考えるように髭をさすった。

「お父様。私が部隊を率いて調査を致します。私は回復魔法と浄化魔法が使えますから、戦闘に置いても役に立てるはずです」

「何? 危険が伴うかもしれん。お前に任せる訳には……」

「我が国を脅かす危機を孕んでるかもしれません。民を守る為に王女の命1つ惜しくはありませんわ。それに……先程の件・・・・もありましょう?」

 ある意味これはハーピオンへおもむくチャンスとも言える。遺跡の調査という大義名分があれば民も文句は言わないだろう。

 お父様が私の瞳を見つめる。


 そしてしばらくの沈黙の後、肩をすくめながら言った。

「……分かった。しかし、深追いはするな。危険と見ればすぐ離れるのだぞ?」

「分かっておりますわ」

「陛下。当然ながら我らも同行致します。何があった時姫様を逃がすことくらいはできましょう」


 アルフレド様は再び微笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

処理中です...