上 下
59 / 108
バイス王国征服編

第59話 魔王と暴君 ーヴィダルー

しおりを挟む
 ナルガインが開戦の一撃を放ってから数時間後。

 ——バイス王国。


「や、やめろぉぉぉぉ!?」

 ダロスレヴォルフが兵士の身体を食いちぎる。それに続いてフェンリル族達が縦横無尽に走り回り、残りの兵士達を打ち倒して行く。

 1分も経たずに辺りには血溜まりが出来上がっていた。住民達は逃げ惑い、皆王宮から離れて第一区画の方へと逃げて行く。

「ヴィダル様。逃げて行く者達はどう致しましょう?」

 フェンリル族部隊のリーダー。クシルが駆け寄って来る。

「向かって来る者以外、住民は殺すな。後に響くからな」

「分かりました」

「今より王宮へ突入する。フェンリル族は突入経路の確保を頼む。ダロスレヴォルフを連れて行け」

「はっ」

 指示を出すとクシルは疾風のように駆け出して行く。

「これ以上向かって来るヤツなんているかなぁ?」

 レオリアが笑いを堪えるように言った。彼女自身も全身に返り血を浴びて真っ赤になっていた。

「ヴィダルよ。我らの損害状況は?」

 デモニカがゆっくりと舞い降りる。

「ダロスレヴォルフを含め魔王軍に損害は無い。今より王宮へ突入する」

「そうか。この国の王……その尊顔とやらを拝んでやろうではないか」


◇◇◇

 フェンリル族を先行部隊として王宮へと突入した。彼らの機動力はむしろ屋内戦の方が有効だ。壁も含めありとあらゆる面が彼らの機動力に貢献する。敵の守備部隊はその動きに翻弄されながら数を減らして行った。

「ここからは俺がデモニカ様を導こう」

 過去の知識を活かして王宮の中を迷いなく進む。何度も補修された形跡のある王宮の通路は、俺の記憶と一切の齟齬そごなく玉座の間へと続いていた。

 向かって来る兵士を「精神拘束メンタル・バインド」で無力化していく。暴君による統治。その弱点・・・・を知っている俺にとって兵士の無力化は難しい問題では無かった。


 そして、玉座の間への扉を開く。


 扉を開くと、玉座に座る王とその脇に控える双剣の男、老人が見えた。そして、部屋を取り囲むように複数の兵士達。

「魔法障壁を展開せよ」

 俺達が部屋へ入ると、老人の指示に合わせて魔法士達が手をかざす。すると、部屋中が薄い緑の光に包まれた。

「なにこれ? ヴィダル知ってる?」

「魔法障壁。発動した自身も含め結界内の全ての魔法発動を封じる術だ」

 部屋の奥へと目を向けると、最奥の玉座に1人の男が座っていた。

「これはこれは……宣戦布告した魔王とやらが私の元まで来られるとは。和平の交渉かな?」

 玉座の男……ルドヴィック・フォン・バイスは俺達を品定めするように俺達を見渡す。


 攻め込まれてのこの態度。何か秘策でもあるのか? 魔法障壁以外にも他に……。


「しかし、魔王と名乗る者が麗しき女性とは。活かして辱めを与えるのも一興かもしれん……ゼフィルス」

 ルドヴィックが手で合図をすると、双剣の男が前に出る。

「魔法が使えないこの中では、戦闘スキルが物を言う。乗り込んだつもりだろうが、貴様達はここで終わりだ」

 男が腰から双剣を抜く。

「この『神殺しの双剣』の力、身をもって味わい死んで行け」

 ゼフィルスという男が持つ双剣。その特徴的な形状……俺の見覚えのある装備だった。

 聖剣クラウ・ソラス。それは古代ドワーフ族が作り出した聖剣シリーズの1つのはず。なぜバイス王国にそれがあるんだ?


「……神殺しの剣か」


 デモニカが憎悪に満ちた眼をしていた。俺達の見たことの無い本物の怒り。それがあの剣と彼女に何か関係があることを告げていた。


「その剣を持つ者、バイスの末裔よ。貴様は……生かしておかん」


 魔王より明確な殺意を向けられた暴君は一瞬だけ怯んだ顔をした。


「何を訳の分からないことを言っている! ゼフィルス!」

「はっ!!」

 ゼフィルスがその双剣を構え、デモニカの元へと飛び込む。


「レオリア。ゼフィルスを殺せ。ヤツは特殊な武器を使う。俺がフォローする」

「特殊な武器ぃ? ふふ。興奮して来たぁ!!」

 ゼフィルスの双剣がデモニカを捉える刹那。レオリアが立ち塞がる。

 交差された剣先をレオリアのショートソードが切り上げ、斬撃を逸らす。そのまま彼女が蹴りを繰り出すとゼフィルスは後方へと吹き飛んだ。 

「何っ!?」

 空中で身を翻し、ゼフィルスが着地する。

「お前の相手は僕だよ。ふふ。最強なんでしょ? ふひひひひひははふふふ。じゃあお前を殺せば僕がこの国最強ってことだねぇふふふ」

 レオリアが笑いをこぼす。

「レオリア。クラウソラスは光の刃という遠距離斬撃のアビリティが付与されている。懐へ飛び込みその優位性を殺せ」

「分かったよっ!!」

 レオリアがゼフィルスへと向け走り出す。

「近づけさせぬ! 双月斬そうげつざん!」

 ゼフィルスが双剣を重ね斬撃を放つ。通常ではあり得ないほどの大きさとなった光の刃がレオリアを襲う。

 この威力……クラウソラスの力か。

 しかし、この技を俺は知っている・・・・・・・。サイズは違おうともその対策は同じだ。

「双月斬は触れる直前に斬撃が分離する。ギリギリで交わそうとするな!」

 レオリアが壁を蹴り、大きく上へと飛ぶ。

「多少見識があるようだが無駄だ!!」

 ゼフィルスが双剣を合わせ、1つの剣へと束ねて|技(スキル》を放つ。

月影斬げつえいざん!!」

 先程の双月斬をさらに大きくした一撃が放たれた。

「月影斬は追尾能力を持つ技だ。ギリギリまで引き付けて避けろ!」

 レオリアの耳がピクリと動く。空中で斬撃を真っ直ぐ見つめる。そして、体を回転させて斬撃を紙一重で避ける。

「あはははははは!! 甘いんだよぉっ!!」

 レオリアが回転の勢いを利用ショートソードを投擲する。

「……っ!?」

 回転して飛んで来るショートソードにゼフィルスの意識が逸らされた。

 クラウソラスでショートソードを防いだ隙にレオリアがヤツの懐へと飛び込む。

「オラオラぁ懐に飛び込まれちゃったよぉ!!」

 飛び込んだレオリアのショートソードがゼフィルスを狙う。

「剣を自ら捨てるとは馬鹿な奴だっ!!」

 ゼフィルスがクラウソラスを双剣へと戻しレオリアの斬撃を受け止める。

「死ねぇ!!」

 奴が双剣の片割れ、『クラウ』をレオリアへと振り下ろした。


「もっと警戒しなよ」


 彼女を仕留める為に大振りになった一瞬を突き、彼女はその喉元に掌底を叩き込んだ。

「がっ!?」

 予期せぬ攻撃を受けたことでゼフィルスの太刀筋がブレる。放たれた斬撃を避け、彼女はゼフィルスの首筋を掴んだ。

「何のつもりだ貴様!?」


「お前って電撃耐性・・・・あるぅ?」


 馬鹿にするように呟くと、彼女は叫んだ。


 そのスキル名を。


雷鳴斬らいめいざんっ!!」


 直後。


 本来剣が帯びるはずの電撃・・が、ゼフィルスへと流れ込む。


「がああああ"ああああ"ああああっ!!?」


「あっはははははははははははははははははははははははははははははははっ!」


 ゼフィルスの苦悶の声とレオリアの笑い声が玉座の間にこだまする。


「な……っ!? 何が起こっている!? 魔法は封じているはずだぞ!?」

「ルドヴィック。お前は知らぬようだな。雷鳴斬は生体エネルギーを雷へと変換するスキル。応用次第で体内へ直接電撃を送り込むことも可能だ」

「な、なんだそれは!? 聞いたこともないぞ!」

 辺りに肉の焦げる臭気が漂う。やがて、黒焦げとなったゼフィルスが手放したクラウとソラスが地面へと転がった。


「お上品な動きばっかだから負けたんだよ。いい勉強になったねぇ。あ、もう死んでるから意味ないか。あははははははは!!」


 レオリアの嬌声が玉座の間へと響き渡った。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...