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メリーコーブの巫女編
第48話 憤怒の炎 ーナルガインー
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ヴィダル達がブランドール貿易店に現れた頃。
——メリーコーブ郊外の神殿。
神殿に到着し、警備の様子を伺う。かなり厳重な警備。外だけでも10人以上の海竜人兵士が警備に当たっている。
後は、ヴィダル達の起こす騒ぎにどれだけの者が反応するか……。
——キュオオオオオオオォォォンッ!!
様子を伺っていると、やがて遠くから轟音と甲高い鳴き声が聞こえて来た。
ヴィダル達、上手くドラゴンを呼び込めたみたいだな。
鳴き声が近づくと、神殿内から兵士達が慌てて走って行いった。
……そろそろ行けるな。
残った警備兵達を薙ぎ倒し、急いで地下へと向かう。階段を降り、狭い通路を超えると広い空間に出た。
石造りの薄暗い空間。点々と壁にかけられた松明が室内を照らしており、その最奥に白いベールが設置されている。
近付いてベールを開くと、そこには探し求めていた少女が眠っていた。
滑らかな鱗にうっすらと赤みを帯びた肌。整った顔の少女は、最後に見たままの姿でベッドに横になっていた。
ずっと見たかった顔。小さい癖に生意気で大人っぽくて、でも、こんなオレを慕ってくれた……オレの孤独を消してくれた子。
眠っている少女へ言葉をかける。
「イリアス」
頬を軽く叩くと、イリアスがゆっくりと目を開ける。黄金色に輝く綺麗な瞳。それを見て思わず涙が溢れそうになる。
「イリアス……迎えに」
最後まで言う前にイリアスが声を上げた。
「魔法発動のご指示を」
「何言ってるんだよ? ナルだよ」
そうか。鎧が違うから分からないのかもしれない。ヘルムを外すか。あ、でも眼が違うからイリアスを驚かせてしまうかも。
どうしようかと考えていると、イリアスが再び声を発した。
「魔法発動のご指示を」
「……え」
おかしい。さっきと全く同じ言葉。口調も何もかも全く同じ。
イリアスの顔を覗き込む。黄金色の瞳を大きく見開いた彼女はどこかぼんやりしていて、不安な気持ちにさせられる。
「魔法発動のご指示を」
「な、なぁ? 久しぶりに会ったからってふざけるのはやめろって。前みたいに話してくれよ」
イリアスの肩を揺すっても人形のように体を揺らすだけで何の反応も無い。
「やはり賊が忍び混んでいたなぁ。同じ海竜人のくせに……中々大胆な奴だ」
男の声に振り返ると、1人の海竜人戦士が立っていた。咄嗟に槍を構えて戦闘態勢を取る。
「それも混乱に乗じて我らの巫女を奪おうとするとはなぁ!!」
男が槍を構えて突撃して来る。
男が放つ突きを受け流す。すると、男はニヤリと笑った。
「これを受け流すとは中々の槍使い! 巫女よ! 攻撃・防御強化を!」
男が叫ぶとイリアスの体が光を帯びる。
「攻撃向上爪昇煌 、防御向上鱗聖盾 を発動します」
イリアスの魔法名と共に男の体が一瞬紫の光に包まれた。
「はははは! 賊かスパイか知らんが、巫女は我らの言葉しか聞かん! 無駄足だったな!!」
男が放つ攻撃の威力が上がる。防御する度に腕が悲鳴を上げる。一瞬の隙を突いて槍を構え直し技名を叫んだ。
「螺旋突!!」
全身を回転させながら槍先を男へと向ける。
「おぉ! 中位技でその螺旋の大きさとは!? 威力を確かめてみるか!」
男が螺旋突を左手で受け止める。
「ぐ、ぐううぅぅぅ!? 中々の威力!?」
苦しそうに呻き声を上げているはずなのに何故か嬉しそうな男。その異様さに気味が悪くなる。
脳裏にデモニカとの戦いが浮かぶ。最初から全力で殺しに掛からなければあの時の二の舞になる。
「竜巻螺旋突!!」
受け止められている状態でさらに技を放つ。そのままヤツの左手を巻き込み、その腕を引きちぎった。
「ぐああああぁぁぁ……!?」
男が大袈裟に腕を抑える。しかし、不気味に笑いを堪えるとブツブツと独り言をいい始めた。
「防御向上をかけてなおこの威力。貴様は強い。さらなる強さの為に俺の糧となって貰おう」
そう言った瞬間、ヤツの左腕が再生した。
その光景を見て思い出す。商人が言っていた巫女の守人。
「不死の……ガイウス」
「そう。俺がガイウス。賊が来た時だけ俺は巫女の力を自由に使って良いことになってんだ」
ガイウスは子供のような笑みを浮かべたが、突然怒り出すと地団駄を踏み出した。
「だけどなぁ。賊が来ねぇんだよ! 俺の2つ名のせいかもなぁ!」
ガイウスが槍を構える。
「だから俺は今感動してんだ! やっと本気で遊べるからさ!!」
「やかましいヤツだ」
「うるせぇ! 流水撃!」
水の刃を纏った槍先が繰り出される。咄嗟に両腕でガードするが、猛烈な力に弾き飛ばされてしまう。吹き飛ばされながらも耐性を立て直し、壁にぶつかるギリギリでなんとか踏み止まった。
「やっぱ巫女の力は素晴らしいぜ!」
ガイウスが槍を振り回す。
「イリアス! やめるんだ! オレが助けてやるから!」
「ん? お前、コイツの知り合いか? 無駄無駄。コイツの自我は既に破壊されているんだ。精神支配魔法に教団の秘術を合わせてな」
「精神支配魔法だと?」
「巫女として生まれたガキは絶大な魔力を持つ反面、力が安定しない、それを安定的に引き出す為の術って分けだ。自我が無ければ力のブレも無くなる」
自我が破壊された……? イリアスの?
「だがそのおかげで戦争での兵士達の生存率は段違いだ。国は感謝しているぜぇ。俺も今実感してるし」
ヤツがベラベラと話しているが頭に入って来ない。ただ、イリアスと交わした言葉だけが頭を巡っていく。嬉しかった言葉が脳裏を過ぎる。
——ナル。お主は美しい! だから自信を持つのじゃ!
イリアスはこのことを知っていたのか?
何度も何度も彼女とのやり取りを思い出し、あの子の侍女からの伝言に辿り着く。
——次に生まれる時はナルの妹に……。
そうか。あの子は全て知っていて……。
「俺は今この国最強の一角だぜ! 身体強化に不死の固有能力! 今の俺は誰にも倒せねぇ!! ハハハハハッ!!」
バカ笑いを浮かべる目の前の男。
オレの中に渦巻く怒りが、全てヤツへと向けられる。
力が欲しい。コイツが泣き叫んで命乞いをする程の。
力が欲しい。イリアスをこんな目に合わせた奴らが後悔する程の。
力が欲しい。オレ達にぶつけられた全ての不条理を覆す程の、力が。
力……力か。
ヴィダルが言っていた。もう一度あの火を受け入れれば、完全に俺の枷が外せると。
……。
ヴィダルから渡された小瓶を手に取る。
デモニカの火が封じられた小瓶。オレの真の変異を行う為の火。
「おい。ガイウスとか言ったな」
「あ~? 意外に落ち着いてやがるなお前。もっとビビると思ったのに」
「お前はオレが殺す」
「俺の話聞いてなかったのかよ!? 無理だっつってんだろうが!!」
ビンを握り潰す。
その直後。
猛烈な炎がオレを燃やし尽くしていく。
「な、なんだ!? 急に体が燃えて……!?」
ガイウスが驚いた様子でこちらを見る。
全身が燃える。熱さと痛みに支配される。その苦しみを怒りに変え、矛先を向ける。
目の前の男へ。
オレを馬鹿にした海竜人共へ。
イリアスをこんな姿にした教団へ。
怒りに支配され、オレの枷が外れる。
オレが無意識に持っていた「劣等感」という枷が。
「ガイウス。お前に、地獄を教えてやる」
——メリーコーブ郊外の神殿。
神殿に到着し、警備の様子を伺う。かなり厳重な警備。外だけでも10人以上の海竜人兵士が警備に当たっている。
後は、ヴィダル達の起こす騒ぎにどれだけの者が反応するか……。
——キュオオオオオオオォォォンッ!!
様子を伺っていると、やがて遠くから轟音と甲高い鳴き声が聞こえて来た。
ヴィダル達、上手くドラゴンを呼び込めたみたいだな。
鳴き声が近づくと、神殿内から兵士達が慌てて走って行いった。
……そろそろ行けるな。
残った警備兵達を薙ぎ倒し、急いで地下へと向かう。階段を降り、狭い通路を超えると広い空間に出た。
石造りの薄暗い空間。点々と壁にかけられた松明が室内を照らしており、その最奥に白いベールが設置されている。
近付いてベールを開くと、そこには探し求めていた少女が眠っていた。
滑らかな鱗にうっすらと赤みを帯びた肌。整った顔の少女は、最後に見たままの姿でベッドに横になっていた。
ずっと見たかった顔。小さい癖に生意気で大人っぽくて、でも、こんなオレを慕ってくれた……オレの孤独を消してくれた子。
眠っている少女へ言葉をかける。
「イリアス」
頬を軽く叩くと、イリアスがゆっくりと目を開ける。黄金色に輝く綺麗な瞳。それを見て思わず涙が溢れそうになる。
「イリアス……迎えに」
最後まで言う前にイリアスが声を上げた。
「魔法発動のご指示を」
「何言ってるんだよ? ナルだよ」
そうか。鎧が違うから分からないのかもしれない。ヘルムを外すか。あ、でも眼が違うからイリアスを驚かせてしまうかも。
どうしようかと考えていると、イリアスが再び声を発した。
「魔法発動のご指示を」
「……え」
おかしい。さっきと全く同じ言葉。口調も何もかも全く同じ。
イリアスの顔を覗き込む。黄金色の瞳を大きく見開いた彼女はどこかぼんやりしていて、不安な気持ちにさせられる。
「魔法発動のご指示を」
「な、なぁ? 久しぶりに会ったからってふざけるのはやめろって。前みたいに話してくれよ」
イリアスの肩を揺すっても人形のように体を揺らすだけで何の反応も無い。
「やはり賊が忍び混んでいたなぁ。同じ海竜人のくせに……中々大胆な奴だ」
男の声に振り返ると、1人の海竜人戦士が立っていた。咄嗟に槍を構えて戦闘態勢を取る。
「それも混乱に乗じて我らの巫女を奪おうとするとはなぁ!!」
男が槍を構えて突撃して来る。
男が放つ突きを受け流す。すると、男はニヤリと笑った。
「これを受け流すとは中々の槍使い! 巫女よ! 攻撃・防御強化を!」
男が叫ぶとイリアスの体が光を帯びる。
「攻撃向上爪昇煌 、防御向上鱗聖盾 を発動します」
イリアスの魔法名と共に男の体が一瞬紫の光に包まれた。
「はははは! 賊かスパイか知らんが、巫女は我らの言葉しか聞かん! 無駄足だったな!!」
男が放つ攻撃の威力が上がる。防御する度に腕が悲鳴を上げる。一瞬の隙を突いて槍を構え直し技名を叫んだ。
「螺旋突!!」
全身を回転させながら槍先を男へと向ける。
「おぉ! 中位技でその螺旋の大きさとは!? 威力を確かめてみるか!」
男が螺旋突を左手で受け止める。
「ぐ、ぐううぅぅぅ!? 中々の威力!?」
苦しそうに呻き声を上げているはずなのに何故か嬉しそうな男。その異様さに気味が悪くなる。
脳裏にデモニカとの戦いが浮かぶ。最初から全力で殺しに掛からなければあの時の二の舞になる。
「竜巻螺旋突!!」
受け止められている状態でさらに技を放つ。そのままヤツの左手を巻き込み、その腕を引きちぎった。
「ぐああああぁぁぁ……!?」
男が大袈裟に腕を抑える。しかし、不気味に笑いを堪えるとブツブツと独り言をいい始めた。
「防御向上をかけてなおこの威力。貴様は強い。さらなる強さの為に俺の糧となって貰おう」
そう言った瞬間、ヤツの左腕が再生した。
その光景を見て思い出す。商人が言っていた巫女の守人。
「不死の……ガイウス」
「そう。俺がガイウス。賊が来た時だけ俺は巫女の力を自由に使って良いことになってんだ」
ガイウスは子供のような笑みを浮かべたが、突然怒り出すと地団駄を踏み出した。
「だけどなぁ。賊が来ねぇんだよ! 俺の2つ名のせいかもなぁ!」
ガイウスが槍を構える。
「だから俺は今感動してんだ! やっと本気で遊べるからさ!!」
「やかましいヤツだ」
「うるせぇ! 流水撃!」
水の刃を纏った槍先が繰り出される。咄嗟に両腕でガードするが、猛烈な力に弾き飛ばされてしまう。吹き飛ばされながらも耐性を立て直し、壁にぶつかるギリギリでなんとか踏み止まった。
「やっぱ巫女の力は素晴らしいぜ!」
ガイウスが槍を振り回す。
「イリアス! やめるんだ! オレが助けてやるから!」
「ん? お前、コイツの知り合いか? 無駄無駄。コイツの自我は既に破壊されているんだ。精神支配魔法に教団の秘術を合わせてな」
「精神支配魔法だと?」
「巫女として生まれたガキは絶大な魔力を持つ反面、力が安定しない、それを安定的に引き出す為の術って分けだ。自我が無ければ力のブレも無くなる」
自我が破壊された……? イリアスの?
「だがそのおかげで戦争での兵士達の生存率は段違いだ。国は感謝しているぜぇ。俺も今実感してるし」
ヤツがベラベラと話しているが頭に入って来ない。ただ、イリアスと交わした言葉だけが頭を巡っていく。嬉しかった言葉が脳裏を過ぎる。
——ナル。お主は美しい! だから自信を持つのじゃ!
イリアスはこのことを知っていたのか?
何度も何度も彼女とのやり取りを思い出し、あの子の侍女からの伝言に辿り着く。
——次に生まれる時はナルの妹に……。
そうか。あの子は全て知っていて……。
「俺は今この国最強の一角だぜ! 身体強化に不死の固有能力! 今の俺は誰にも倒せねぇ!! ハハハハハッ!!」
バカ笑いを浮かべる目の前の男。
オレの中に渦巻く怒りが、全てヤツへと向けられる。
力が欲しい。コイツが泣き叫んで命乞いをする程の。
力が欲しい。イリアスをこんな目に合わせた奴らが後悔する程の。
力が欲しい。オレ達にぶつけられた全ての不条理を覆す程の、力が。
力……力か。
ヴィダルが言っていた。もう一度あの火を受け入れれば、完全に俺の枷が外せると。
……。
ヴィダルから渡された小瓶を手に取る。
デモニカの火が封じられた小瓶。オレの真の変異を行う為の火。
「おい。ガイウスとか言ったな」
「あ~? 意外に落ち着いてやがるなお前。もっとビビると思ったのに」
「お前はオレが殺す」
「俺の話聞いてなかったのかよ!? 無理だっつってんだろうが!!」
ビンを握り潰す。
その直後。
猛烈な炎がオレを燃やし尽くしていく。
「な、なんだ!? 急に体が燃えて……!?」
ガイウスが驚いた様子でこちらを見る。
全身が燃える。熱さと痛みに支配される。その苦しみを怒りに変え、矛先を向ける。
目の前の男へ。
オレを馬鹿にした海竜人共へ。
イリアスをこんな姿にした教団へ。
怒りに支配され、オレの枷が外れる。
オレが無意識に持っていた「劣等感」という枷が。
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