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第2章

双子の兄妹が手をつないで森を歩くの、良いよね

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クレイズ達はセドナの先導で川沿いに下っていくと、次第に風景は荒野から森へと変わっていった。
その中をクレイズ一行はゆっくりと西に進んでいく。
なお、クレイズ達の部隊はアダンとツマリを含めた歩兵も何人か混じっている(昨日の突撃作戦の際には参加しなかった)こともあり、徒歩で森を進んでいく。
幸い、森の中は開けており、特に苦労することも無く進むことが可能だった。

「……ねえ、ツマリ」
「え?……あ、ほんとだ、きれいな鳥ね!」

ツマリは右上の方を見ると、赤色をした大きな鳥が木の上で休んでいるのが目に入った。

「要るでしょ、お兄ちゃん?」
「え?うん、ありがと」

そう言うと、アダンはツマリから水筒を受け取り、直に口をつけて少しだけ飲んだ。

「あたしも飲もうっと」

アダンから返してもらった水筒に同じように口を直につけ、ツマリも水をぐびぐびと飲む。

「へえ、言葉を使わなくても分かるんすね」
「うん、ボク達夢魔は『精神感応』が得意だからね」

要するに、精神感応とはテレパシーの一種である。

「ほう、それは凄いな。夢魔とは何度か交戦したことはあるが……その時に使われたテレパスは、そこまで具体的な情報は与えてこなかったがな」
「うん、普通の夢魔のレベルだと……こんな感じだよね」

そう言うと、アダンはカッと目を見開いた。

「うお!」

話が耳に入っていなかったのだろう、先頭で索敵を行いながら進んでいた兵士が、急に驚いたように振り向いた。

「ん、今何したんすか?」
「あれ、セドナさんには効かないのかな。……今『後ろ!』って思念を送ったんだよ」
「お兄ちゃんはエルフの血が濃いからこんなもんだけど、あたしはここの兵士全員に思念を叩きこめるわよ?」

そうツマリは得意げに答えた。

「そう、その精神感応を生かして見当違いの方向から剣が来るように錯覚させてくるのが夢魔の戦い方だ。そう言ったフェイントの攻撃も、君たちの強さの秘密なんだろうな」
「えへへ、僕は人間たちほど力が無いからね。こうやって工夫しないといけないんだよ」

クレイズに褒められて嬉しかったのか、アダンは少し照れくさそうに答えた。

「けど、あたしたちの思念って、触れ合っていないと『後ろ!』とか『待て!』とか、掛け声レベルの思念しか送れないのよね」
「つまり、強い力を持ってても、一度に送れる範囲と強さが上がるだけなんすね」

セドナがそう訊ねると、アダンもうなずく。

「そう。でもボクとツマリは、触れ合ってる時だけ簡単なメッセージくらいならやり取りが出来るんだよ。双子だからなのかもね」
「へえ、だからいつも手を握って歩いてるんすね」

セドナの発言に、アダンは少し顔を赤くして答えた。

「え?……あれ、そう言えばいつもボク達、手を握って歩いてるかも……」
「別に近くに居るから、思念で話す必要もないのにね。……本当に小さな時からずっとそうしていたから、それが自然になっちゃったのよ」
「だね。それに、ツマリが喜んだり怒ったり、そう言う思念が流れ込んでくると、ボクもツマリの気持ちがわかるから、好きだしね」
「あたしも! お兄ちゃんが泣きそうだった時に、そっと歌を歌ってあげたりすることもあるのよ?」
「ちょっと、嘘つかないでよ……。そんなことしたことないじゃん?」
「アハハ、冗談だって! けど、お兄ちゃんの思念が好きなのは、あたしも一緒よ?」

ツマリも笑いながら手をギュッと握りしめる。後ろの兵士達は、それをほほえましそうにニヤニヤと笑って見つめていた。

「ハハハ、君たちは本当に仲がいい兄妹なんだな。再戦の時が楽しみだよ。その時も、息の合った連携を見せてほしいものだ」
「うん……兄妹、ね……」

その発言に少し思うところがあったのか、少し言いよどんだツマリ。

「どうしたの、ツマリ? なんか、凄い複雑な……気持が流れてきたけど……」
「え?あ、ゴメン、アダン」!

ツマリはバッと手を離すと、話題を変えるように質問をしてきた。

「そう言えばさ、これからどこに行く予定なの?」
「この先に人狼たちの隠れ里があるんすよ。そこでとりあえず物資の調達や仕事の紹介を受けることが出来ればいいかな、と思いやして」
「へえ……人狼の隠れ里があるの?なんでセドナは知ってるの?」
「以前帝国軍に居た時に、あっしらは来たことがあるんす。連中、エルフともあまり仲が良くないから、アダンさんやツマリさんが一緒なら、いろいろ話を聴いてくれるんじゃないかって思ったんす」
「なるほど。もしも近隣の住民と一緒に戦うことが出来れば……」
「そう、アダンさんたちが挙兵する足掛かりになりやす。それで頑張って勢力を広げていけば、いつかは独立国宣言をすることも夢じゃないって寸法でさあ!」

セドナの提案に、ツマリが嬉しそうに笑った。
「なにそれ、素敵! そうよね、わざわざエルフ共の国の中で異種族の共存なんて考えるより、あたし達で理想の国を作れば良いんじゃない!」
「けど、良いんですか?クレイズさん、ボク達と戦いたいんですよね?それなのにそんなことに付き合わせちゃって……」

遠慮がちに訊ねるアダンに対してクレイズは、
「なに、決着を急ぐほどでもない。それに……君たちの名声につられてやってくる剣豪と相まみえることが出来ると考えれば……それもそれで、悪くない」
普段の落ち着いた大人の雰囲気からは似つかわしくないほど、野性的な笑みをクレイズはニヤリと浮かべた。
「……ひ……」

ツマリは、それを見て少し身じろぎするようにアダンの手を掴む。

「大丈夫、ツマリ?」
「おっと、すまない。別に脅かすつもりはなかったんだがな」
「あのさ、クレイズ!急にそう言う怖い顔すんのやめてよ! びっくりするじゃない!」
「だから、謝るよ。……とにかく、村に付いたら君たちに交渉役を頼むから、頼むぞ」

それを聞いて、少し不思議そうにアダンは尋ねる。

「あれ、皆さんが交渉するんじゃないんですか?」
「ああ、そもそも私やセドナは人間だからな。人狼が私たちの言うことを聞いてくれるとも思えん」

クレイズがいうように、この世界は人間は人口比率が1%にも満たない少数部族だ。加えて先の大戦における皇帝だったこともあり、人間に対するイメージはさらに悪くなっている。

「それでも、同族の方もいますよね?ボクがやるよりも話を聴いてくれるんじゃないですか?」
「えっと……それは……無理だ。前の皇帝があの村に重税を課してたからな。俺たち帝国の出身者が交渉なんかしたら、ぶち殺されかねえ」

後ろに居た人狼の兵士が、憎しみにたぎったような目で答えた。

「そうなんですか? ……あれ、けど僕が通った町はそんなに思い税は課してなかったと思いますが……」
「簡単な話だよ。……あの村に皇帝陛下お好みの『若くてかわいい村娘』がいないからって理由だよ」
「え……」

信じられない、と言う表情でアダンは声を上げた。

「あのクソ野郎は、村に自分好みの女が居たら後宮に連れこむことを条件に優遇して、若い女や好みに合う種族の居ない村は徹底的に搾取しやがったからな!」
「そう。多分あんたらは、エルフや夢魔の居る町ばっかり通ってたんじゃないかい?クソ皇帝様は、あんたらの種族が大好きだったからね。あたしらリザードマンの村なんて、来年の分の種まで取り立ててきやがったんだよ!」

後ろに居たリザードマンの女性も吐き捨てるようにつぶやいた。

「クレイズ隊長がとりなしてくれなかったら、あたしらの村は滅んでたくらいだからね……。まったく、あんな馬鹿な弟より、クレイズ隊長が帝王だったらどれほど良かったか……」
「そうだったの……って、ちょっと待って!クレイズって、あいつのお兄ちゃんだったの?」

あいつ、とは帝王のことだろう、ツマリは驚きの表情を浮かべる。

「ああ、と言っても異母兄だがな」
「そ。あいつも先王もハーレムで子作りばっかりやってたからね。異母兄だけで何人いることやら……」
「ゴホン、まあ、とにかくだ。そう言うことがあって、我々は交渉役にはなれない。悪いが頼むぞ、アダン」
「……はい!」

アダンは一瞬ためらうような様子を見せたが、自身が適役だと判断したのだろう、はっきりとした声でそう答えた。

「ちょっと、あたしには聴かないの?」
「ああ、すまなかったな。アダンの足を引っ張らないよう頼むぞ、ツマリ?」
「うん! 邪魔にならないように頑張るわ……って、何よそれ! そんなこと言うなら、こうしちゃうから!」
「うわ! 急に思念を飛ばすのはやめてくれ!」

ツマリの思念を受けたクレイズは、ふらりと落馬しかけた。恐らく『バカ!』などの単純な言語の思念を叩きこまれたのだろう。

「もう……。けど、クレイズもお兄ちゃんだったのね。少しだけ親近感わいちゃった」
「まあ、私は兄らしいことは何もしてやれなかったがな……」

そう言うと、クレイズは悲しそうにうつむいた。

「あ、ほらほら、皆さん、村に着きやすよ?」

そんな雰囲気を察したのか、セドナはまだ豆粒ほどの大きさに見える村を指さした。
時刻はすでに夕方に差し掛かっていた。
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