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エピローグ
エピローグ1 元奴隷たちはみな解放され新しい人生を送るようです
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それからリマは、ほどなくして警察に逮捕された。
罪状は横領。
リマにとっては幸か不幸か、彼が氷漬けになった時に持ち前のスキル『催眠アプリ』を発動するためのスマホは、壊れてしまった。
これによって彼が操っていた者たちの催眠は解けたが、同時に彼の行った悪行の数々を証明することが出来なくなってしまった。
そして、彼によって催眠をかけられた者たちは、新しい生活を始めていくこととなった。
「今日のご飯美味しそうだね、イグニス!」
「だろ? ニルセン社長の好物だったんだよ、これ」
イグニスは元妻であるヒューラと、また同棲生活を続けていた。
彼らは、催眠に関する記憶はリマに対することも含めすべて失っている。
だが、催眠に間接的に関すること、具体的には『催眠によって手に入れた知識や能力』は消えなかった。
具体的には、イグニスの場合は料理スキルや絵のスキル、そして何より他者との関りで成長した人間性などは、そのまま残っているのである。
今は収入がヒューラと逆転したイグニスが、彼女を養う形になっている。
また、今まで掃除・洗濯・炊事はすべてヒューラが行っていたが、特に炊事を中心にイグニスが担当するようになっている。
「ヒューラ、そう言えば今日は初出勤だったよな? いけそうか?」
「え? ……うん、営業は慣れてないけど、私には向いていると思う。これでイグニスに頼らないでも済みそうかな」
「やったな! けど、あまり無理はすんなよ」
10年間彼女はリマの『性奴隷』として働かされていたため、職歴にブランクが空いている。
現実世界の10年ほど大きくはないが、それでも転職活動には難航していた。
だが、ヒューラは先日営業職への就職が決まった。
イグニスはそれを聞いて嬉しそうに台所に向かった。
「それならさ! じゃーん! 初出勤祝いにケーキ焼いたんだ!」
「うわ、美味しそう! ……けど、その、イラストの仕事忙しいだろうけど、良いの?」
「良いって良いって! ヒューラに今まで迷惑かけた分、しっかり埋め合わせするからな!」
「……フフフ。ありがと」
「あとさ、結婚式は来月で問題ないか?」
「うん、ニルセンさんやミケル君、みんな誘って楽しく過ごそうね!」
そう言ってヒューラは、イグニスから貰ったきれいな婚約指輪を眺めながら楽しそうにケーキを食べ始めた。
ニルセンは、社長として相変わらず働いていた。
「社長。今度の接待の予定ですが、いかがしますか?」
「ああ。相手はヴァンパイアだからな。伝統のある、格式の高い店を頼む」
傍らにいるのは、フリスティナ。
今まで会社で働いたことのない彼女だったが、リマに秘書にされた流れから、そのまま現在もニルセンの秘書として働き続けている。
なお、彼女も金庫の金を持ち出していたのだが、最終的にそれを使用したのがリマであったことが幸いした。
彼女は警察から注意を受けたものの、逮捕されるには至らなかった。
「任せてください。あと、有翼人の方もおつきで来るそうなので、穀類が美味しいお店が良いですね」
「ああ、お前が秘書になってくれて助かるよ」
サキュバスは、無骨なリザードマンに比べて食や美に対する興味がはるかに深い。
その為、ニルセンが苦手とする接待業務を十二分にこなしてくれている。
「いつもありがとうな、フリスティナ」
「……フフフ、あなたもいつもありがとう。社員のみんなも、あなたに感謝していたわよ?」
そういうと、フリスティナはニルセンの後ろからそっと抱きしめて尋ねる。
「あなた……ちょっと甘えていい?」
「……ハハ、しょうがないな、フリスティナは」
以前よりも周囲に対する思いやりを身に着けたニルセンは、当然フリスティナに対しても今まで以上に気を遣うようになった。
そのこともあってか、フリスティナはよくニルセンに甘えてくるようになった。
口では苦笑するような口ぶりだが、本当はニルセンにとってはその時間が楽しくてたまらないようだった。
「そうだ、あなた? 今日の夕食は何がいい?」
「うーん……。ステーキが良いかな……」
「今月ちょっとピンチだから、鳥肉のステーキなら良いわよ?」
「そうか? なら、それもいいな」
また、フリスティナは自分が会社勤めで得た金を生活費に使うようになったことも理由だろう、浪費癖もかなり治まったようであった。
「ミケル君、昨日残していた伝票の件だけど……」
「ああ、それはボクの方でやっておきました。サラさん、急用だったんですよね?」
ミケルが好きだった女性であるサラは、以前同様経理の仕事に戻った。
以前よりも会社の規模が拡大しており、一緒に働くサイクロプスの男性の二人だけでは手が回らない。
だが、ミケルはシナリオライターの仕事の合間を縫って、彼女の仕事をサポートしていることもあり、何とかなっているようだ。
サラは少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「うん……。ごめんね、迷惑かけて」
「今まで僕がサラさんに迷惑かけてたんだから、当然ですよ!」
ミケルは、以前同様メモ帳や張り紙を用いて『鳥頭』の特性をカバーするべく奮闘している。
そして一番大事なのは「自分がしたいことではなく、相手が『面倒に思うこと』を代わりにやってあげること」
と気づいたのか頻繁に彼女の仕事を手伝っている。
そんな二人を見ながら、同僚であるサイクロプスの男が声をかけた。
「……なあ、二人とも」
「なんですか?」
そして彼は、『グロウ・クロウ』の観劇のチケットを取り出し、二人に手渡した。
「この間、観劇のチケットを二人分貰ったんだ。二人で行くか?}
「え? ですが、ボクは……」
「私は……喜んで! ね、ミケル君?」
口ごもるミケルに対して、サラはにっこりとつぶやく。
それに対してミケルは凄く嬉しそうに、笑みを浮かべる。
「いいんですか? ……じゃあ、今度の週末……」
「うん、楽しみにしているね!」
「……フン……昔やったゲームの主人公『ゼログ』もこんな気分だったんだろうな……」
二人が距離を縮めるのを見るのが、彼にとって楽しみなのだろう、その様子を見ながら、サイクロプスの男は嬉しそうに笑った。
「これで……荷物は全部よね?」
「ああ、そうだな」
そして、通称『性奴隷4号』と呼ばれていた、シンシアは、ヨアンに手伝ってもらいながら荷物をまとめていた。
「……シンシア。新しい仕事の調子はどうだ?}
「うん。周りのみんなも優しいし、うまく行ってるよ?」
彼女はあれからリマにあてがわれた「秘書」という名目の仕事を変えてもらい、ヨアンが用意してくれていた『セントラル・クリエイト』の職場で働いていた。
ハーフリングの彼女でもできる頭脳労働であり、居心地も良いのか以前より体調もよさそうだ。無論これは、ヨアンが一生懸命彼女のために心を砕いてくれていたことも大きい。
「本当にありがと、ヨアン」
「ああ。……それと、これ……」
そう言ってヨアンは、名残を惜しむような表情で離婚届を渡した。
それを目にして、シンシアは申し訳なさそうに顔をする。
「……うん……あのさ……。これだけやってくれたのに、ゴメン……」
「俺の方こそ。……ひどいことばっかりしてたもんな」
寂しげな表情でヨアンは笑った。
……シンシアは、ヨアンにされたことを許すことが出来なかった。
そのため二人は結局、別居することになった。
当初は離婚もやむなし、とヨアンは思っていたが、シンシアは首を振った。
彼女の提案は、2年ほど別居しながら、週末は今までのように『夫婦』として過ごすことだった。
そして、2年後にお互いにまた『一緒に暮らしたい』と思えるようになったら、この離婚届を破り捨て、再出発をしようと話し合った。
なお、離婚届にヨアンの名前は既に書かれている。
その為シンシアは、いつでも離婚していいという条件となっている。
「ヨアン。ごめんね。やっぱりまだ私、あの時のことが割り切れなくて……」
「そうだよな。けど、すぐ離婚にならなかっただけ、良かったよ」
「……別居も許してくれてありがと。やっぱさ、ヨアンの顔は好きだし、一緒に居ると、それだけでまた好きになっちゃうから……」
インキュバスの種族であるヨアンの容姿は、極めて優れている。
そのことも「互いに一度距離を取って互いを見つめ直す」という形を取った理由の一つである。
「ああ。……辛いことがあったら、いつでも連絡してくれよな?」
「アハハ、いつでもって……来週、レストランの予約はもう取ってくれたじゃない。……その時、また会えるでしょ?」
「ああ、美味しいステーキのお店だから、楽しみにしてくれよ。……じゃあ、元気でな」
そう振り返って去ろうとしたヨアンの首をシンシアは強引につかみ、
「ん……」
振り向かせると、彼にキスをする。
しばらく互いに離れたくなさそうにした後、
「それじゃ、またね? いつかまた……一緒に暮らせるくらい、惚れさせて?」
「ああ、約束するよ。インキュバスの矜持にかけてな」
シンシアは恥ずかしそうに答えるヨアンを笑顔で見送った。
罪状は横領。
リマにとっては幸か不幸か、彼が氷漬けになった時に持ち前のスキル『催眠アプリ』を発動するためのスマホは、壊れてしまった。
これによって彼が操っていた者たちの催眠は解けたが、同時に彼の行った悪行の数々を証明することが出来なくなってしまった。
そして、彼によって催眠をかけられた者たちは、新しい生活を始めていくこととなった。
「今日のご飯美味しそうだね、イグニス!」
「だろ? ニルセン社長の好物だったんだよ、これ」
イグニスは元妻であるヒューラと、また同棲生活を続けていた。
彼らは、催眠に関する記憶はリマに対することも含めすべて失っている。
だが、催眠に間接的に関すること、具体的には『催眠によって手に入れた知識や能力』は消えなかった。
具体的には、イグニスの場合は料理スキルや絵のスキル、そして何より他者との関りで成長した人間性などは、そのまま残っているのである。
今は収入がヒューラと逆転したイグニスが、彼女を養う形になっている。
また、今まで掃除・洗濯・炊事はすべてヒューラが行っていたが、特に炊事を中心にイグニスが担当するようになっている。
「ヒューラ、そう言えば今日は初出勤だったよな? いけそうか?」
「え? ……うん、営業は慣れてないけど、私には向いていると思う。これでイグニスに頼らないでも済みそうかな」
「やったな! けど、あまり無理はすんなよ」
10年間彼女はリマの『性奴隷』として働かされていたため、職歴にブランクが空いている。
現実世界の10年ほど大きくはないが、それでも転職活動には難航していた。
だが、ヒューラは先日営業職への就職が決まった。
イグニスはそれを聞いて嬉しそうに台所に向かった。
「それならさ! じゃーん! 初出勤祝いにケーキ焼いたんだ!」
「うわ、美味しそう! ……けど、その、イラストの仕事忙しいだろうけど、良いの?」
「良いって良いって! ヒューラに今まで迷惑かけた分、しっかり埋め合わせするからな!」
「……フフフ。ありがと」
「あとさ、結婚式は来月で問題ないか?」
「うん、ニルセンさんやミケル君、みんな誘って楽しく過ごそうね!」
そう言ってヒューラは、イグニスから貰ったきれいな婚約指輪を眺めながら楽しそうにケーキを食べ始めた。
ニルセンは、社長として相変わらず働いていた。
「社長。今度の接待の予定ですが、いかがしますか?」
「ああ。相手はヴァンパイアだからな。伝統のある、格式の高い店を頼む」
傍らにいるのは、フリスティナ。
今まで会社で働いたことのない彼女だったが、リマに秘書にされた流れから、そのまま現在もニルセンの秘書として働き続けている。
なお、彼女も金庫の金を持ち出していたのだが、最終的にそれを使用したのがリマであったことが幸いした。
彼女は警察から注意を受けたものの、逮捕されるには至らなかった。
「任せてください。あと、有翼人の方もおつきで来るそうなので、穀類が美味しいお店が良いですね」
「ああ、お前が秘書になってくれて助かるよ」
サキュバスは、無骨なリザードマンに比べて食や美に対する興味がはるかに深い。
その為、ニルセンが苦手とする接待業務を十二分にこなしてくれている。
「いつもありがとうな、フリスティナ」
「……フフフ、あなたもいつもありがとう。社員のみんなも、あなたに感謝していたわよ?」
そういうと、フリスティナはニルセンの後ろからそっと抱きしめて尋ねる。
「あなた……ちょっと甘えていい?」
「……ハハ、しょうがないな、フリスティナは」
以前よりも周囲に対する思いやりを身に着けたニルセンは、当然フリスティナに対しても今まで以上に気を遣うようになった。
そのこともあってか、フリスティナはよくニルセンに甘えてくるようになった。
口では苦笑するような口ぶりだが、本当はニルセンにとってはその時間が楽しくてたまらないようだった。
「そうだ、あなた? 今日の夕食は何がいい?」
「うーん……。ステーキが良いかな……」
「今月ちょっとピンチだから、鳥肉のステーキなら良いわよ?」
「そうか? なら、それもいいな」
また、フリスティナは自分が会社勤めで得た金を生活費に使うようになったことも理由だろう、浪費癖もかなり治まったようであった。
「ミケル君、昨日残していた伝票の件だけど……」
「ああ、それはボクの方でやっておきました。サラさん、急用だったんですよね?」
ミケルが好きだった女性であるサラは、以前同様経理の仕事に戻った。
以前よりも会社の規模が拡大しており、一緒に働くサイクロプスの男性の二人だけでは手が回らない。
だが、ミケルはシナリオライターの仕事の合間を縫って、彼女の仕事をサポートしていることもあり、何とかなっているようだ。
サラは少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「うん……。ごめんね、迷惑かけて」
「今まで僕がサラさんに迷惑かけてたんだから、当然ですよ!」
ミケルは、以前同様メモ帳や張り紙を用いて『鳥頭』の特性をカバーするべく奮闘している。
そして一番大事なのは「自分がしたいことではなく、相手が『面倒に思うこと』を代わりにやってあげること」
と気づいたのか頻繁に彼女の仕事を手伝っている。
そんな二人を見ながら、同僚であるサイクロプスの男が声をかけた。
「……なあ、二人とも」
「なんですか?」
そして彼は、『グロウ・クロウ』の観劇のチケットを取り出し、二人に手渡した。
「この間、観劇のチケットを二人分貰ったんだ。二人で行くか?}
「え? ですが、ボクは……」
「私は……喜んで! ね、ミケル君?」
口ごもるミケルに対して、サラはにっこりとつぶやく。
それに対してミケルは凄く嬉しそうに、笑みを浮かべる。
「いいんですか? ……じゃあ、今度の週末……」
「うん、楽しみにしているね!」
「……フン……昔やったゲームの主人公『ゼログ』もこんな気分だったんだろうな……」
二人が距離を縮めるのを見るのが、彼にとって楽しみなのだろう、その様子を見ながら、サイクロプスの男は嬉しそうに笑った。
「これで……荷物は全部よね?」
「ああ、そうだな」
そして、通称『性奴隷4号』と呼ばれていた、シンシアは、ヨアンに手伝ってもらいながら荷物をまとめていた。
「……シンシア。新しい仕事の調子はどうだ?}
「うん。周りのみんなも優しいし、うまく行ってるよ?」
彼女はあれからリマにあてがわれた「秘書」という名目の仕事を変えてもらい、ヨアンが用意してくれていた『セントラル・クリエイト』の職場で働いていた。
ハーフリングの彼女でもできる頭脳労働であり、居心地も良いのか以前より体調もよさそうだ。無論これは、ヨアンが一生懸命彼女のために心を砕いてくれていたことも大きい。
「本当にありがと、ヨアン」
「ああ。……それと、これ……」
そう言ってヨアンは、名残を惜しむような表情で離婚届を渡した。
それを目にして、シンシアは申し訳なさそうに顔をする。
「……うん……あのさ……。これだけやってくれたのに、ゴメン……」
「俺の方こそ。……ひどいことばっかりしてたもんな」
寂しげな表情でヨアンは笑った。
……シンシアは、ヨアンにされたことを許すことが出来なかった。
そのため二人は結局、別居することになった。
当初は離婚もやむなし、とヨアンは思っていたが、シンシアは首を振った。
彼女の提案は、2年ほど別居しながら、週末は今までのように『夫婦』として過ごすことだった。
そして、2年後にお互いにまた『一緒に暮らしたい』と思えるようになったら、この離婚届を破り捨て、再出発をしようと話し合った。
なお、離婚届にヨアンの名前は既に書かれている。
その為シンシアは、いつでも離婚していいという条件となっている。
「ヨアン。ごめんね。やっぱりまだ私、あの時のことが割り切れなくて……」
「そうだよな。けど、すぐ離婚にならなかっただけ、良かったよ」
「……別居も許してくれてありがと。やっぱさ、ヨアンの顔は好きだし、一緒に居ると、それだけでまた好きになっちゃうから……」
インキュバスの種族であるヨアンの容姿は、極めて優れている。
そのことも「互いに一度距離を取って互いを見つめ直す」という形を取った理由の一つである。
「ああ。……辛いことがあったら、いつでも連絡してくれよな?」
「アハハ、いつでもって……来週、レストランの予約はもう取ってくれたじゃない。……その時、また会えるでしょ?」
「ああ、美味しいステーキのお店だから、楽しみにしてくれよ。……じゃあ、元気でな」
そう振り返って去ろうとしたヨアンの首をシンシアは強引につかみ、
「ん……」
振り向かせると、彼にキスをする。
しばらく互いに離れたくなさそうにした後、
「それじゃ、またね? いつかまた……一緒に暮らせるくらい、惚れさせて?」
「ああ、約束するよ。インキュバスの矜持にかけてな」
シンシアは恥ずかしそうに答えるヨアンを笑顔で見送った。
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