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第4章 モラハラ夫が、思いやりある敏腕営業マンになるまで

4-7 敏腕営業マンは、種族ごとにゲームの売り方を変えているようです

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それから半年ほどの間、俺は様々な種族の女性、男性、高齢者から子どもまでさまざまな人と触れ合いながら、彼らのことを理解しようと試みた。

そしてそれは、当然仕事にも反映させていた。



「さあ、いよいよ決勝戦! 勝つのはどっちだ~?」
「よし、今日こそはお前に勝ってやるからな!」
「ふうん、あんたに負けると思ってんの?」

リザードマンは性別を問わず、闘争心が大変強い種族だとニルセン社長から聞いた。
その為、対戦ゲームを多めに店に置いてもらうだけでなく、体験用のマシンを2台用意し、遊べるようにした。

それに加えて、店員にお願いして小規模ながらスペースを広げてもらって「ゲーム大会」を定期的に開催するようにしたところ、売り上げが2倍以上増えた。


因みにこの大会の取り仕切りはクーゲル課長がやってくれた。



「ふむ……。ゲームとは低俗なものと思ったが……」
「ええ、やはり『グロウ・クロウ』が演じた物語なだけのことはありますわね。私、感動しちゃいましたわ」

ニルセン社長に紹介してもらった、男爵とあだ名のついたヴァンパイアからも、種族の特性を教えてもらった。
彼らもまた長寿な種族と言うこともあり、格式をやたらと重んじる。その為、ゲームの格式を上げるために、伝統ある劇団に俺達のゲームの物語を演じてもらった。

これについては、劇団『グロウ・クロウ』と仕事をしたイグニスのつてを利用させてもらった。


「ねえ、今度のゲームだけどさ。パパもサブキャラで手伝ってよ?」
「お、お前がメインでやるのか? よし、頑張れよ」

ミケルに聴いて分かったことだが、有翼人の中でも一部の種族は、男性が主に子育てをする『主夫』が多いとのことだ。

そういう種族が多い地域では、親子で協力プレイが出来るゲームを中心に展開したところ、こちらも売り上げが伸び、また親子で楽しそうに店内で過ごしている姿を見ることが増えてきた。




そして半年ほどが経過した。
俺は以前から懇意にしていた、いつもの獣人の子が働いている店に足を運んだ。


「ん? またリグレが来ているのか……」

するとそこでは、以前のようにリグレが店員と口喧嘩をしていた。

「あん? うちのとこの商品をもう仕入れないって、どういうことだよ?」
「ですから何度も申し上げましたように、そちらの『抱き合わせ販売』にはもう手を貸せません!」

そう言えば、リグレは自身の売り上げを上げるために、無理やり人気商品と不人気商品をセットにして卸させる『抱き合わせ商法』をやっていたな。

短期的にはそれで売り上げが出るだろうが、そのやり方は不当な在庫を店側に押し付けるだけだ。いつまでも出来る訳がない。

彼女もついに愛想が尽きたようで、リグレに強い口調で言い放つ。

「リグレさんから、売れないゲームを買わされるのは前から迷惑していたんです! これ以上続けるなら、もうロングロング・アゴーとの取引はしないで結構です!」

だがリグレも自身のクビでもかかっているのか、引かずに言い返す。

「あのなあ? お前らが営業努力すれば、そのゲームだって売れるだろ? そっちの努力不足をこっちに押し付けんなっての!」

「じゃあ言わせてもらいますけどね? あなた、商品を押し付けるだけで『販売数を上げるための提案』を全然してくれなかったじゃないですか! 言うのは「これを買え」「あれを買え」って要求ばっかり! それで売り上げが増えるわけないですよ!」

「そんなの当たり前だろ? じゃあ何か? お前んとこには、商品の売り方まで教えてくれる親切な営業マンがいるっての?」

「ええ、そうですよ! ……ほら、ちょうど来てくれてましたけど、そこのヨアンさんです!」


彼女は俺が来店したことに気づいたのか、そう言って俺を指した。

「え? ヨアン、てめえがかよ? どんなことやってんだ?」
「はあ、別に基本的なことばかりだけど……」

正直リグレのような馬鹿が俺の言うことを聞いたってマネできるわけない。
そう思って説明した。


このあたりの店舗は、狼系の獣人が多く、客層も彼らが中心であること。
彼らは種族の特性として、みんなでワイワイ楽しむゲームが多いこと。

その為パーティ系のゲームを多めに卸し、また「みんなで遊んでいる光景」をアピールできるようなポスターを用意したこと。

これによって売り上げが伸びた、と話すとリグレは少し焦るような表情を見せた。

「お前、そんなことやってたのか……。いや、あのさ、お嬢ちゃん。俺達もこれからは、そう言うのやるからさ、だから……」

「いえ、もう結構です。リグレさん、あなたのような人に来ていただくと迷惑です。どうしてもうちと取引をしたいなら、別の人をよこしてください」


エルフもヴァンパイアほどではないがプライドの高い種族だ。……まあ基本的に寿命が長い種族は押しなべてプライドが高いのだが。

そのため、獣人にそうはっきりと言われたリグレは完全に頭に来たのか、チッと舌打ちし、

「ならいいよ! ったくよう。別にこんな弱小店舗に置いてもらわなくてもこっちは構わねえんだ。けど、もうそっちに商品とか持ってかねえけど、後悔すんなよな?」

そう捨て台詞を残して去っていった。



俺は、店員に心配そうに声をかけた。

「あの、大丈夫ですか?」
「あ、ええ。……ありがとうございました」
「いえ、俺は別に何もしてないです……。それより、さっきの啖呵、カッコよかったですよ!」

エルフのような種族に対してあそこまで言い返せるのは凄いと思った。
だが、同時に彼女のことが少し心配になった。

「けど、あんな態度取ってよかったんですか?」
「ええ。正直ロングロング・アゴーのゲームって最近、似たようなのばっかりで売れないんですよね。それもあったんです」
「そうでしたか……」
「けど、それもヨアンさんがほかのゲームの売り上げを伸ばしてくれたおかげですよ!」

そう言って彼女は微笑んだ。

「ヨアンさん、前と全然雰囲気変わりましたよね? ……その、前は正直私のことばかり見ていて、商品のことなんて考えてもなかったじゃないですか……」
「あ、それは……うん、その時はすみません……」

本当に俺は、あの時はどうしようもない『勘違いチャラ男』だったな、と思った。

「けど、今は本当にヨアンさんが担当で良かったと思ってます。……また来てくださいね?」
「ありがとうございます。……今度は別のゲームのお話を持ってきます」

そう言うと、俺は充実感と共に店を出た。





「しかし、今日は暑いな……」

もう時刻は夕方だというのに、いまだに体から汗が止まらない。
俺はそう思いながら水分補給をしていると、

「げ、ゴミ旦那じゃない……」
「あれ~? 労働奴隷のヨアンじゃん! お前、こんな日も仕事? ボクのために頑張ってるね、ご苦労ご苦労」

ご主人様が俺の妻シンシアたちと一緒に街を歩きながら嫌みを言ってきた。

彼女たちはみな、浴衣姿をして、手にはたこ焼きや、焼きイカを口にしている。

(……人格を書き換えられているのか……)

妻シンシアは暑い日の外出も、縁日の食事も好んでいなかった。
その為、ご主人様は催眠アプリで性格を変えたのだろう。


……ご主人様の恋愛観は思春期で止まっている。
恐らく「可愛い彼女と浴衣で縁日デート」が夢であり、それを彼女たちに押し付けているのだろう。
良い年したおっさんが、いつまでも青春時代にしがみつくその姿はどこか滑稽にも思えた。


「にしても、営業なんて辛いのに大変だね~? いいだろ~? 僕はこの子たちと縁日で遊んできたとこなんだよ~?」
「そう、そう。とっても……楽しかった……ですよ?」

俺の元妻はそう言ってご主人様に抱き着いた。
……だが、その様子や言動が少しおかしいな、と俺は思った。
彼女の「辛い時も無理しすぎるクセ」が出ているのかもしれない。


「シンシア、大丈夫か? 無理しているみたいだけど平気か?」
「はあ? あんたに……心配されることは……」

そのふらふらした言動を見て、俺は思わず彼女に駆け寄った。

「おい、しっかりしろ!」
「……なによ……あんた……」

彼女の身体がぐらり、とかしいだのを俺は抱き留めた。



「な、ど、どうしたんだよ、性奴隷4号ちゃん!」

ご主人様はこういう状況は初めてなのだろう、何も出来ずにおろおろしているだけだった。
周りの『性奴隷』達も同様だ。俺はあえて冷静な口調で答える。

「……多分熱中症です。日陰で休ませましょう」

そう言うと俺は、妻を近くの店に連れていき、店員に医者を呼んでもらうようにお願いした。


「ヨ、ヨアン、私……」
「大丈夫だ、俺がついてる。……ちょっと待ってろ」

そう言って俺は店員にチップを渡し、水と塩を少し分けてもらった。

「ほら、これをゆっくり飲むんだ」
「う、うん……」

そう言うと元妻は、少しずつ水を飲み始めた。
すると少しだけ落ち着いたのか、彼女はふう、とため息をつきながら俺の方を睨みつけてきた。

「いっとく……けど……あんたを……許したわけじゃないから……」
「ああ、分かってる。……ご主人様と居たいなら、そうしてくれていい。……ただ、もう無理はしないでくれ。……俺が言えた義理じゃないかもしれないけど……体を大事にしてくれ……」
「……うん……ありがと……」
「ごめんな、シンシア……」


妻はそう言うと、そのままふう……と息をついた。


「な、ど、どうしてこんなことになったんだよ! 他の性奴隷ちゃんたちは平気だったのに! まさか、ボクが悪いってのかよ! 違うよな? 悪いのはこいつだから!」

必死に自己弁護するご主人様を見て、一瞬一言いいたくなったが、言葉がでない。
なるほど、ご主人様に逆らえない、という暗示がかかっているからだ。

それによく考えたら、ここでご主人様に説教をしたところで意味はない。
そこで俺は、事実だけを淡々と伝えることにした。


「……ご主人様」
「な、なんだよ?」

「俺の妻のような、ハーフリングは体が小さい分、地面からの照り返しの影響が大きいんです。もし今後も彼女と過ごしたいなら、ご注意をお願いします」

「く……くそう……分かったよ……」

流石に言い返せなかったのだろう。
そして俺は店員からご主人様や他の『性奴隷』達のための水ももらい、手渡した。
ご主人様のことは嫌いだが、万が一倒れられるのも、それはそれで気分が悪い。

「ご主人様たちも、水分補給をしてください。あまり無理をなさらず今日はお帰りになった方が良いかと」

「おう……ろ、労働奴隷だけのことはあるな、ご苦労」
「ありがとうございます……。俺は医者が来たら、ここを去るのでご心配なく」

そのすぐ後に医者が来て、幸い大事には至らないとのことだったので、俺は少し安堵して店を出た。
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